めでたしめでたし?
同日、自衛隊の調査が行われた。
ハープーンによる一撃は、確かにドールへと命中したらしい。それは、砂丘をえぐり取ったクレーターと炭化した有機物からも容易に想像できた。
だが、ドールの死体はなかった。戦艦に致命傷を与えるためのミサイルとはいえ、相手は百メートルのバケモノ、そうたやすく燃え尽きてしまうのだろうか。
いや、違うと結論付けられたのは、クレーターの中央に掘られた穴である。
先のわからないほどに深くどこまでも続いているかのような深い縦穴は、どこへ続いているのか確かめる気にもならない。
ドールは生きている。だが、再び姿を現すのは、遠い未来のことだろう。
人類は、未知なる生物に対して一応の勝利を収めたのだ。
⭐︎⭐︎⭐︎
ピンポーン。
「はーい」
アマゾンで頼んでいたルアーが届いたのだろうかと、胸高鳴らせながらタイコは玄関のドアを開けた。
「やっほ」
そこに立っていたのはあすかであった。
タイコは扉を閉めた。
ドンドンドン。
「ちょっひどくない? 顔を見るなり扉を閉めるなんてさあ」
「どうせろくでもないようなんでしょ。もう絶対、嫌ですからね。あんなバケモノ退治に巻き込まれるってわかってたら協力しなかったのに……!」
「あれで助かった命があるんだよ? そんな言い方しないで」
「こっちは死ぬかと思ったんですよ!?」
「まあまあ落ち着いて話をしようよ。――ちょっと耳寄りな話があるんだ、釣りのいいスポットがある」
「…………」
タイコは扉をそっと開ける。ガッと手袋に包まれた手が現れたかと思うと、扉が引っ張られる。タイコはその力に抗えずに、あえなく扉は開いた。
無理くりこじ開けたのをおくびにも出さず、にこーっと笑みを浮かべたあすかが手を振った。
その姿は前回とは違い、迷彩服ではなく、釣り人の格好だった。
「あれ、今日はオフなんですか?」
「あ、うん。そうそう。あれからねえ、釣りが趣味になってさ」
「だったらそう言ってくださいよ。それなら話くらい聞いたのに」
「あはは……逃げられるんじゃないかって思って。それはそうとインスマスって知ってる?」
「いや知りませんけど」
「アメリカにある港町なんだけどさ。穴場スポットがあるんだって、とある情報筋から聞いてさあ。私思いついたわけ。先日の件でお礼をしようってね」
「それ教えてくれたってわけですか。……でも今月、お金厳しくて」
ルアーにロッドにリールに、いろいろな釣り道具を買ったタイコは来月までカップ麺生活である。当然、財布はからっぽ。
「大丈夫!」あすかはタイコの手をとった。「旅費はこっち持ち。自衛隊が――じゃなかった私が出しますとも」
「今何か不穏な単語が聞こえたような……」
「気のせい気のせい。だってお礼だよ? 仕事になんてそんな」
「ですよね。じゃあ準備を」
「いいや、今から行こうすぐ行こう」
「ちょ、ちょっと!?」
あすかの手によって引っ張り出されたタイコは、かつがれるようにしてアパートの玄関を降り、タクシーへ乗せられてしまう。
「へい、モルダー。米軍基地までお願い」
ドアがバンと閉まる。タクシーがホイールを鳴らしながら急発進する。その中からかすかに漏れるタイコの悲鳴を聞いていたものはいなかった。
⭐︎⭐︎⭐︎
これから二人は米軍の力を借りてアメリカはインスマスという町に向かうことになるのだが、それはまた別のお話。
ドール・ウォー 藤原くう @erevestakiba
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