第19話「シャルロット王女の企み」シャルロット王女視点
わたくしの名前はシャルロット・ノーブルグラント、十六歳。
金色の髪にサファイアブルーの瞳の、国一番の美しさを誇る王女よ。
わたくしは、なんでも一番になるのが好き。
このわたくしが、二番手なんて許されない。
だから、愛人の子でありながら「第一王女」と呼ばれる、異母姉のアリアベルタが嫌い。
愛人の死後、異母姉がメイド達に虐待されているのは知っていた。
でも、止めなかった。
だって、止める理由がないもの。
愛人の子などやせ細って死んでしまえばいいと、ずっと思っていた。
だけど彼女はしぶとく生き残っていた。
でも、異母姉にも一つだけ役に立つことがあった。
わたくしの汚名を被って、わたくしの代わりに、隣国の殺戮王子に嫁ぐこと。
このときだけは、異母姉が餓死していなくてホッとしたわ。
殺戮の王子と呼ばれるくらいだから、きっと筋肉ムキムキの頭の悪そうな不細工に決まってるわ。
そんな男に嫁がなくて本当に良かった。
わたくしは、文武両道で、ちょっと影のある長身の美男子に嫁ぐと、幼少の頃より決めていたのよ。
異母姉に付けたメイドの報告によれば、姉は国境まで出迎えに来た騎士団に罵詈雑言を吐かれ、結婚式では王太子に口づけもしてもらえず、式に参列した貴族からも酷評され、初夜に新郎に相手にもされず「いずれ離縁する」とまで、言われたとか。
ざまぁありませんわ。
わたくしより二年ほど早く生まれただけで、愛人の娘の分際で「第一王女」と呼ばれていた報いですわ。
それにしても、隣国から帰国したメイドも騎士も、果物の皮で滑って転んだり、植物の種を喉につっかえさせたり、そそっかしい輩ばかりですわ。
二人共マスクで顔を隠していましたが、顔に傷でもあるのかしら?
まあ、そんな下々の者のことなどどうでもいいですけど。
「ホーホッホッホッホッ! お姉様なんて、隣国で邪険にされて、惨めに泣きべそをかいているといいんだわ!」
そのときのわたくしは上機嫌でした。
……まさかその一ヶ月後、とんでもない報告を聞くことになるなんて……。
☆☆☆☆☆☆
一ヶ月後。
「冷害でも水不足でもないのに、作物の育ちが悪い。今までなかった害虫の被害も報告されている」
「何故か森や荒野にモンスターが出現するようになりました」
朝食の席だと言うのに、お父様もお兄様も暗い話ばかり。
最近はお父様に、宝石やドレスをねだっても買ってもらえないし、つまらないわ。
「父上、隣国では植物の成長が早く、害虫の被害もないとか」
「その話なら余も聞いている。その上、モンスターの被害も減っているそうだな」
お父様もお兄様もまだこの話を続けるのかしら? 退屈だわ。
「ヴォルフハート王国に送った間者の報告によると、隣国が急に栄えだしたのは妖精の加護のお陰だとか」
「何、妖精だと……?」
妖精……って、絵本に出てくるあの妖精? 本当にいたの?
「何故、急にヴォルフハート王国に妖精が現れたのだ? 何か前兆があったのか?」
「それが……言いにくいのですが……」
「はっきりと申してみよ」
つまんない。そんなことより、バザーとか、パレードとか、舞踏会の話をしてほしいわ。
「その……妖精は、アリアベルタに付いて隣国に行ったようなのです。アリアベルタは隣国で『加護姫』と呼ばれ、隣国で妖精と共にたいそうもてはやされているとか……」
「なんだと!」
お父様がいきなり立ち上がったので、テーブルが揺れてグラスが倒れ、シャンパンがドレスにかかった。
もう、最低。お気に入りのドレスだったのに。
「父上、落ち着いてください」
「これが落ち着いていられるか! アリアベルタに妖精が付いていたなどと……!」
お父様ったら、わたくしのドレスを汚したのに、謝りもしない!
「……そういえば心当たりがある。我が国が栄えたのは、アレの母親を愛人として離宮に住まわせてからだ!」
お父様には、新しいドレスを買って貰うんだから!
何色がいいかしら? 青? それとも紫? 赤いドレスも素敵ね。
「アレの母親は妖精が住むという大陸の出身だった……。離宮にはいつも珍しい花が咲いていた……。アレの母親はときどき何もないところを見て、にっこりと笑っていた……。アレが死んだあとアリアベルタの世話は放棄していたのに、あの子は八年もの間生き延びていた……! 思い起こしてみれば、妖精の存在を匂わせるものばかりだ……!」
お父様の体はプルプルと小刻みに震えていた。
えっ? 何? 妖精って本当にいたの?
だとしたら妖精は無能で不細工なお姉様に付いてたってこと?
妖精は見る目がないわ! 加護を与えるならわたくしのような美少女にするべきよ!
「父上、アリアベルタに妖精が付いていたのなら、我々はそれに気づかずに隣国に嫁がせたことになります! 僕たちはアリアベルタに酷い扱いをしてきました! きっと妖精に嫌われています!」
「それ以上、申すな! 余とて金遣いの荒い無能な娘の身代わりに、妖精の加護を受けた有能な娘を嫁がせてしまったことを、後悔しているのだ!」
なっ、なんですって〜〜!
お父様は美しいわたくしが無能だと言うの!? いくらお父様でも許せないわ!
「これからどうするのですか、父上!?」
「恥も外聞も捨て、アリアベルタに許しを請う以外、この国が生き残る道はあるまい」
「確かに……他に方法がありませんね」
二人共、真剣な顔をしていた。冗談で言っているわけではなさそう。
このままいくと、あの女に許しを請うことになるの? そんなの絶対にありえない!!
「二人共間違っているわ!」
黙っていられなくて、私は声を上げていた。
「シャルロット、いま我々は大事な話をしているのだ」
「お前はデザートでも食べてろ」
「でも、お兄様!」
「父上、この後の話は会議室で」
「そうだな、そうしよう」
二人は食事を半端にして、部屋から出ていった。
お父様もお兄様も、わたくしを爪弾きにする気ね! 許せないわ!
「もし本当に妖精がいるのなら、妖精の加護は清楚で可憐なわたくしにこそふさわしいわ」
妖精のような貴重な存在を、貧相で不細工なお姉様が、独占していてはいけないのよ。
「お姉様はわたくしから妖精を奪っていった。だからわたくしは奪われた物を取り戻す為に隣国に行く……完璧な筋書きね!」
可憐なわたくしがお願いしたら、妖精なんてイチコロよ。
妖精だって、みすぼらしいお姉様より、絶世の美少女であるわたくしに仕えたいはず。
お父様たちに話しても、きっとまた爪弾きにされるわ。
妖精を連れて帰るまで、この計画は内緒にしておきましょう。
お父様たちには、別荘に行くと伝え、隣国には僅かな共と一緒にこっそりと行きましょう。
二人共、わたくしが妖精を連れて帰ってきたら驚くわよ。
妖精の加護があれば、豊作が続いて、また贅沢三昧ができるのよね?
国民には今以上にちやほやされること間違いなしだし、言うことなしだわ!
待ってなさい妖精、わたくしが死ぬまで酷使してあげるからね。
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