第18話「森での薬草採集」



「フェル、この草はどうかしら?」


「凄いのだアリー! よもぎに似ているこの草は、怪我を治す効果があるのだ。ポーションの材料になるのだ!」


「まぁ、よかった」


「妖精殿、こっちの草と木の実はどうだろう?」

 

レオニス様が赤い木の実とオレンジの草を、フェルに見せた。


「どちらも毒があるのだ。早く捨てるのだ。それと毒草を触った手で、アリーに触れないでほしいのだ」


「そうか……」


森についた私達は、草や茸や木の実を採集しては、フェルに鑑定してもらっている。


先程から、レオニス様が持ってくる植物は、色が鮮やかなのだが、どれも毒があった。


そのせいか彼はしょんぼりしていた。


痩せた土地でも育ち、成長が早く、食べられる薬草を採取しにきたけど、思いがけず回復用のポーションや、解毒用のポーションの材料も採集できた。


この国は魔物の被害が多いので、ポーションがあれば、民たちの助けになるだろう。


それに効能の高いポーションなら他国で高く売れる。


質の高いポーションを売って、国庫を潤したい。


「アリーが集めてきた、回復用のポーションの材料になるよもぎに似た草に、解毒用のポーションの材料になるしそに似た草に、食料になりお肌がつやつやになるキャベツに似た植物。どれも痩せた土地でも育ち、成長が早いのだ!」


「これだけあれば十分ね。日が暮れる前に帰りましょう。ねぇ、レオニス様?」


レオニス様は木のそばで、まだ薬草を採取していた。


「王太子がいま手にしているのは、全部毒草なのだ。ばっちいのでポイするのだ」


「フェルそんなはっきりと言わなくても……」


「毒草を持って帰ったら大変なのだ」


フェルの言うとおりなのだが、これ以上レオニス様に落ち込まれると、帰りが大変なのだ。


「妖精殿の言う通りだ。城に帰ったら兵士に毒草の特徴を伝え、森に派遣し、毒草を処分させよう。空腹の村人がうっかり森に入り、毒草を食べてしまったら大変だ」


レオニス様が手にしていた草を捨ててから立ち上がった。


彼の瞳には決意がみなぎっていた。


ほっ、意外と元気そうね。


「妖精殿、お願いがある。貴殿は植物に詳しいようだ。俺は食べられる草と食べられない草を書物に記そうと思っている。貴殿には図鑑を作りに協力して貰いたい」


「図鑑ですか?」


「絵付きの図鑑があれば、民があやまって毒草を食べてしまう事を減らせると思うんだ」


そう言ったレオニス様の瞳は真剣だった。


この人は、いつも民の事を考えているのね。


胸の奥で、何かがキュンと音を立てた。


変だわ。レオニス様の側にいるとドキドキする。


「え〜〜、面倒くさいのだ」


「そこをなんとかお願いできないだろうか?」


「フェル、私からもお願いするわ」


空腹の辛さは誰よりもわかる。私だって、フェルがいなければ飢えて死んでいた。


そんなとき綺麗な色の草や木の実があったら、毒だと知らず食べてしまっただろう。


「アリーのお願いには弱いのだ。僕は手伝うだけなのだ。絵とか文章はそっちで考えるのだ」


「ありがとう、フェル」


「妖精殿、恩に着る!」


私達がしたことが、少しでも民の助けになったら嬉しいわ。


「その代わり、庭に植えた果物が育ったら、アップルパイと桃のタルトとみかんのジャムと梨のパウンドケーキにして、僕に一番に食べさせてほしいのだ!」


「王太子の名にかけて、妖精殿に一番に捧げると約束しよう」


「絶対なのだ!」


フェルがお菓子でやる気を出してくれて良かったわ。


「お菓子を貰ったら、アリーにも分けてあげるのだ! 一緒に食べようなのだ」


「ありがとう、フェル」






城に帰った私達は、今日採取してきた薬草を庭に植えた。


フェルが野菜にかけるのと同じように、薬草たちにも魔法をかけた。


翌日には薬草たちは種をつけ、採取した種をまた庭に植えて、薬草を増やしていった。


そうして増えた薬草を、国中の農村に配った。


三種類の薬草はどれも成長が早く、一ヶ月で収穫できる。


一ヶ月後、ヴォルフハート王国では、飢えに苦しむ民はいなくなっていた。


民衆はフェルだけでなく私にも感謝してくれて、人々に褒め称えられることに慣れない私は、人々の感謝の言葉がどこかむず痒かった。


このところモンスターの襲撃もなく穏やかで、レオニス様がお城にいることも増えた。


彼と農作業をしたり、城下町で炊き出しをするのは楽しい。


彼が事あるごとに「可愛い」とか「美しい」とか「可憐だ」と言ってくるので、調子を狂わされてる。


……でも、悪い気はしない。


私も畑で汗を流すレオニス様のことを、その……かっこいいと思っているから。


恥ずかしいから、絶対に彼には内緒だけどね!


こんな幸せな生活がいつまでも続くのだと、そのときの私は疑いもしなかった。


そのときの私は、ノーブルグラント王国から彼女が来るなんて……思っても見なかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る