第17話「二人乗り」



「腕の立つ騎士様といのは……」


「俺だ。この国で俺より腕の立つ騎士はいないからな」


薬草採集の朝、離宮に迎えに来たのはレオニス様でした。


それから、あれよあれよという間に馬小屋に連れて行かれ……、今私はレオニス様と馬に二人乗りしています。


「森に行くなんて二十年振りなのだ。楽しみなのだ〜〜!」


正確にはフェルもいるので三人乗りです。


馬は前の方が揺れが少ないらしく、私が馬の前方に座り、レオニス様は私の後ろに座っています。


「何もレオニス様自らお越しいただかなくても」


「森へ続く道は狭い。馬車では行けない。君は一人では馬に乗れないから、誰かと二人乗りしなくてはいけない。妻が俺以外の人間と馬に二人乗りするなど耐えられない」


レオニス様はときどき嫉妬深い顔を覗かせる。


「心配しなくても、私に興味を抱く人などいませんよ」


「君は自分の魅力をわかってない。先日の城下町での炊き出しの際も、不審な男に拉致されかけたではないか」


「あれは、拉致というより軟派されただけで……」


数日前、レオニス様と一緒に城下町で炊き出しをしたときのこと。


調味料が足りなくなったので、クレアさんと二人で買い物にでかけたとき、見知らぬ男たちに声をかけられたのだ。


すぐにレオニス様と騎士団が駆けつけ、事なきを得た。


「それに彼らに声をかけられたのは、きっとクレアさんの方です」


クレアさんは綺麗な人だから、男性の目に止まりやすい。


冴えない私に声をかける物好きはいない。


「いや、奴らの目には君しか映っていなかった」


この方は、どれだけ私を過剰評価しているのでしょうか?


確かあの日は、レオニス様からサーモンピンクの可愛いワンピースを貰って、色付きのワンピースが着れる事にはしゃいでいたけど……。


「だとしたら私の着ていた服が、目立っただけかと」


「君に外であんな愛らしい服を着せた事を後悔している。ただでさえ可憐な君が、桃色のワンピースを着て、民に食料を配っている姿は、さながら妖精のようだった」


妖精って……。


本物の妖精(フェル)を目の前にして、よくそんな例えが出てきますね。


「だから今日は君に地味な服を着せた」


「はぁ……なるほど」


今日の私の服は水色で、冒険者が着るような丈夫な布で作られている。


私としてはこの服も十分に可愛い。


余計な事を言うと、外では黒とか茶色しか着させてもらえなくなるから黙っておこう。


「レオニス様は黒以外の服はお召にならないのですか?」


今日も、数日前の炊き出しの時も、彼が纏っているのは漆黒の軍服だ。


炊き出しのとき、彼が給餌をしている鍋の前だけ、誰も並んでいなくて、ちょっとかわいそうだった。


「……黒が一番返り血が目立たないのだ。いつ魔物が村を襲い、現地に向かうことになるか分からないからな」


なるほど、それでレオニス様はいつも黒い服を纏っているのですね。


「でしたらせめて、笑顔を見せたらどうでしょう?」


「笑顔?」


「レオニス様は顔立ちが整っています。その顔で睨まれるから怖いのです。だから逆にほほ笑まれたら、女性を中心に人気が出ると思いますよ。せっかく笑うと可愛いのですから」


そのとき、馬がピタリと止まった。


「可愛い……だと?」


しまった、余計な事を言って怒らせたかな?


「君は俺をそんなふうに思っていたのか?」


「すみません。不敬なことを申しました」


「いや……嬉しい。女性に可愛いと言われたのは初めてだ」


振り返るとレオニス様が、顔を真っ赤に染めていた。


美男子のテレ顔は破壊力が高い。


こちらまで恥ずかしくなってしまう。


「だが覚えていてほしい。君の方が百倍も千倍も可愛らしいことを」


「なっ……!」


レオニス様ったら真顔でなんて事をおっしゃるのですか!


心臓に悪いです。


「二人共、まだこの場所に留まるつもりなのだ? 早くしないと日がくれてしまうのだ」


フェルの声で我に返った。


「すまない。急ぐとしよう」


レオニス様が馬の腹を蹴り、馬は再び歩を進めた。


私の心臓がまだドキドキと音を立てている。


先程までは、レオニス様と二人乗りしていてもなんともなかったのに……。


今は、凄く緊張している。




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