第9話「畑作り」




クレアさんに用意して貰った農作業用の服を着て、庭に出た。


ゴテゴテしたドレスを脱いで、メイクを落としただけでも気持ちも体も楽になる。


髪は動きやすいようにポニーテールにした。


やるぞー! と意気込んで庭に出ると……。


「あれ? 庭ってこんな感じだった??」


昨日まで生い茂っていた雑草が綺麗さっぱり消えていた。


「僕が雑草を全部枯らして、枯れた雑草を魔法で土に返したのだ」


「ありがとうフェル。草刈りから始めなきゃ行けないと思っていたから、得しちゃった」


かなりの数の雑草が生い茂っていたので、一人で処理したら、だいぶ骨が折れただろう。


「早く畑を作って、美味しいじゃがいもをお腹いっぱい食べたいのだ!」


「そうね、私もじゃがいもをお腹いっぱい食べたいわ!」


クレアさんに用意して貰った、クワを手に、庭を耕していく。


フェルが体力と力と素早さが上がる魔法をかけてくれたので、サクサクと進んだ。


「ふーー、こんなものかしら?」


フェルの魔法のおかげで、一時間ほどで、庭を耕すことができた。


「奥は果樹園にして、手前をじゃがいも畑にしましょう」


「賛成なのだ!」


畑に自国から持ってきた、りんごや桃やみかんや梨などを種を植えていく。


私が種を植えたところに、フェルが植物がよく育つ魔法をかけていく。


「果物が実ったらお菓子にしたいわね」


「僕、アップルパイと桃のタルトとみかんのジャムが食べたいのだ!」


「フフフ、それはいい案ね!」


アップルパイなんて食べたのはいつ以来かしら?


夢が膨らむわ。


「じゃあ次はじゃがいもを植えるわね」


自国から持ってきた種芋を、四分の一にカットし、畑に植えていく。


私がじゃがいもを植えたあとから、フェルが畑に魔法をかけていく。


「明日の朝には収穫できそうね」


「楽しみなのだ!」


「ふかしたじゃがいもに、お塩をかけて食べると最高なのよね」


「そんな話をしたら、お腹が鳴ってしまうのだ」


じゃがいもを収穫したら、一部を種芋として残して、また庭に植えよう。


一週間もあれば、沢山のじゃがいもを収穫できる。


「お庭で収穫したじゃがいもを美味しいってわかって貰えれば、もっと広いお庭を貸してもらえるかもしれないわ」


「この城の庭をぜーーんぶ、じゃがいも畑にするのだ!」


「それもいいわね」


その時は、じゃがいも以外の種も分けてもらえないか、クレアさんに頼んでみよう。


トマトやナスやピーマンなどの野菜も育ててみたい。


収穫できる野菜が増えたら、お料理のレパートリーが増えて、きっと楽しいわ。






「王太子妃様、こちらにおいでですか? お食事をお持ちしました…………ええっ! これがあの荒れ果てていた庭ですか?」


昼食を運んできたクレアさんが、庭を見て驚いている。


「午前中に頑張って作業しましたから!」


私はクレアさんに駆け寄った。


「クレアさん昼食を運んできてくれたのね、ありがとう! 体を動かしたからお腹がペコペコなの!」


「ええっと……あなた様は……?」


クレアさんが私の顔を見て、キョトンとしている。


「私ですよ、アリアベルタです」


「えっ?? 王太子妃様っっ!?」


クレアさんが私の顔をまじまじと見つめる。


そういえば、メイクを落として、ゴテゴテしたドレスを脱いだ姿を、クレアさんに見せたことがなかった。


もしかして王太子妃だと気づいてもらえなかったら、不審者として捕まってしまうのかしら?


「えっと、これはね……」


「よ〜〜く見ると、鼻の形が王太子妃様と同じですね。声も王太子妃様のもの……。嘘……全然不細工じゃない……。むしろ、可愛い。……ひょっとして、あのけばけばしいメイクは隣国での流行り……?」


クレアさんがぶつぶつと呟いている。


「あの〜、クレアさん?」


「はっ! 王太子妃様とは気づかず、失礼致しました!」


クレアさんが勢いよく頭を下げた。


私だとわかってもらえたようだ。


クレアさんが顔認識能力に優れた人でよかった!


「いえ、キツめのメイクをしていたので、メイクを落としたら誰だかわかりませんよね。あのメイクは祖国の使用人の趣味といいますか……」


私のこの国での評価を下げるために、ジャネットがわざと不細工に見えるメイクを、私にほどこしていたとは言えない。


「王太子妃様はそのままの方がお綺麗です! ずっとそうしているべきです!」


「ありがとう」


「そうすれば、王太子殿下の評価も……」


王太子の評価は別に変わらなくてもいいかなぁ。


庭を自由に使わせてくれれば、それだけで満足だから。


「それより、早く昼食にしましょう。私、お腹が空きました」


「僕も〜〜!」


フェルはクレアさんに気づいて姿を消しているので、彼の声は私にしか聞こえない。


「はい、ただいま」


その日の畑仕事は終わったので、午後はメイド服に着替えて離宮のお掃除をした。


それから明日に備えて、クレアさんに大きな鍋を用意して貰った。


あとお塩を多めに持ってきてもらった。


クレアさんは大きな鍋を何に使うのか、不思議そうにしていた。


明日の朝、じゃがいもを収穫したら、鍋で煮たいのだ。それはじゃがいもを収穫するまでは秘密。


フェルの魔法で育ったじゃがいもは、普通のじゃがいもの何倍も美味しい。


茹でたてのじゃがいもに、お塩をかけて、ほふほふしながら食べると最高なのよね!


この国のみんなにも、フェルの育てたじゃがいもを食べさせて上げたいわ。





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