第10話 莉子と子どもたち
「何やってるんですか先輩?」
莉子にバレてしまった。
俺の作戦は完全に失敗。
ただ、俺の頭の中ではそんなことを考えてはいなかった。
「まさか……りんかちゃんの見守りとかしてないですよね?」
「――――」
「そうだったんですね? 先輩?」
「そ、そうだ……」
もう逃げ場がなかった。
くそっ、こんなに早い段階でバレると思ってなかった……!
「ふぅ〜ん……。やっぱり先輩はシスコンですね。そんなシスコンお兄さんには、これからあることをしてもらいます!」
「――――へっ?」
◇◇◇
「だーるーまーさんがぁー……ころんだ!」
「――――っ!」
俺は一体、何をやっているんだろう……?
莉子が振り向いた瞬間、俺と子どもたちが一瞬で動きを止める。
だるまさんがころんだなんて、最後にやったのいつぶりだ?
最後の記憶が小学校にやってた記憶なんだけど。
「――――だーるーまさんがころんだ!」
「うぐっ……!」
意外と変なタイミングで振り向いてくるな、莉子のやつ。
でも、俺はまだ引っかかってないぜ!
「――――だーるーまーさんがこーろんだ!」
「タッチ!」
「どりゃああああああ!」
先頭にいた男の子が莉子にタッチした瞬間、みんなは散り散りに逃げていく。
そして、タッチされた莉子は振り向いて俺たちを追いかけ始めた。
「――――っ! なんで俺なんだよ!」
「待てぇー! せんぱーい!」
何故か俺を全速力で追いかけてくる莉子。
やめろ!
俺とお前じゃ天地の差があるくらい、足の速さが違うんだぞ!?
まあ当たり前だが、それを見せつけられるように、簡単に莉子に捕まってしまった。
もう……もう体力がぁ……。
「はっ、はっ……」
「あれー? 先輩もう息切れですかぁ〜?」
「お兄ちゃん体力全然なーい」
「うぐっ……」
莉子なら反撃出来るけど、小さい子にまで言われたら流石にダメージが凄い。
おかげで何も言えねぇ……。
「じゃあ捕まった先輩が鬼です! みんな捕まらないようにね!」
「「「「「はーい!」」」」
莉子の言葉に、みんな元気よく手を挙げる子どもたち。
一方で俺はげっそりモード。
もうこれ以上走ったらまじで死ぬから、もう走りたくない……。
「せんぱーい! 早くしてくださーい!」
「はいはい分かったよ!」
はあ、なんで俺がこんな子どもの遊びをやらなきゃいけないんだ……。
とりあえず、俺が鬼だからあっちに行かないと。
「じゃあ行くぞ〜。だーるーまーさんがころんだ」
「――――っ!」
俺が振り向いた瞬間、みんなが固まった。
多少は揺れているけど、まあ人間そんなビタっと固まることなんて出来ないからな。
でも……1人だけ超人がいるな。
「だるまさんがーこーろーんーだ……。あ、動いたな」
「あー! 動いちゃった!」
もう一回振り向くと、1人の女の子がバランスを崩して、ぐらぐら体を揺らした。
その子はもちろん俺が見つけたので捕まった。
さて、さっさと捕まえて終わらせて帰ろう。
「だるまさんがころんだ」
「――――っ!?」
めっちゃ早口で言ってみた。
振り向くと、ほとんどの子たちの体が動いてしまっている。
しかし、莉子だけはなんとか耐えているみたいだ。
「莉子以外全員アウト〜」
「早すぎー!」
「あんなの無理に決まってるよぉ……」
流石にちょっと理不尽すぎたか?
でも、あと残っているのは莉子だけ。
この調子で莉子もアウトにさせてしまおう。
「みんな大丈夫! りこは絶対に負けないから!」
「りこお姉ちゃん頑張れー!」
「「「頑張れー!」」」
莉子の一言で、子どもたちは莉子を精一杯応援し始めた。
どうやら、俺に味方はいないようだ。
絶対に莉子に勝って、ギャフンと言わせてやる!
「あ、お兄ちゃんがまたダメなこと考えてる〜!」
「ぐぬっ……!」
「え〜? 先輩ダメなこと考えてるんですか〜? 全く、りんかちゃんの教育に良くないですよー!」
ぐっ……!
凛香に俺の心を読まれた上に、莉子にそれが伝わってしまった……。
よし、凛香に良いところを見せてあげよう!
お兄ちゃんは、ちゃんと出来るやつなんだってな!
「行くぞ……。だーるまさんがぁ……ころんだ!」
「――――!」
ビタッと動くことなく静止する莉子。
まじで体幹やべぇな……。
変な体勢で、しかも片足立ちなのにビクともしない。
さすが、体力測定学年トップクラスに君臨しているだけある。
なのに漫研部にいるのが不思議だ。
真面目に、どこかの運動部入ったほうが良いんじゃないのか?
うん、絶対に入ったほうが良い気がする。
「――――だーるまさんがぁ、ころんだ!」
「――――っ」
「――――っ!?」
えっ、マジで……?
俺の感覚なんだけど、多分2秒くらいしか経ってないはず。
それくらいしか経ってないはずなのに……なんで俺の目の前まで来てるんだ……?
「せんぱーい? もしかして……もうここまで来ちゃってるとか思ってませんかぁ?」
「――――っ」
「あっ、何も言わないってことは、そう思ってたんですね!」
「くっ……」
煽るかのように、ニヤニヤと笑いながら話す莉子。
多分普通に楽しんでいるんだろうけど、俺にとっては恐怖の笑顔にしか見えない。
「さあさあ先輩! 次で『だるまさんがころんだ』って言えば、りこたちの勝ちです!」
「――――」
そうだ。
莉子の言う通り、莉子が俺にタッチした時点で、俺は全員を追いかける羽目になる。
ただ、俺には体力というものが皆無。
多分、凛香を追いかけても、体力切れで負けるのは確定だ。
「じゃあ、行くぞ。だるまさん――――」
「タアァァッッッチィ! みんな逃げろー!」
莉子が俺の背中にタッチをした瞬間、捕まっていた全員も散り散りになって逃げ出した。
触られた俺は、誰かを捕まえなければいけない。
「ま、待てー!」
「あれー? お兄ちゃん足遅いぞ? これは勝てるかも!」
「もしかして、初めて捕まらないかも!」
どうやら、みんなは勝ちを確信したらしい。
もちろん、その確信は外れる外れるはずもなく……。
俺は莉子だけでなく、小学生相手にも惨敗してしまった。
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