第9話 莉子の意外な姿

 今日も何も変哲もない朝がやってきた。

相変わらず、凛香は俺の腹の上で寝ている。

全く、どういう理屈でこんな寝方になるのか未だに理解できない。


「おーい、降りてくれると俺が楽になるから起きてくれー」


「んみゅう……ふわぁ〜。お兄ちゃんおはよう」


「おはよう凛香。起きたばかりで申し訳ないんだけど、俺の腹の上から避けてもらえると超助かる」


「――――やだ。だって今日休みだし」


 そういえばそうだったな。

時計を見ると、まだ7時を回ったところ。

まだ寝ても大丈夫な時間だった。


「ならまだ寝てても良いか……」 


「えへへ〜。お兄ちゃんまた寝ちゃった」


「なんだ、そんなに俺寝て欲しいのか?」


「うん。だってこう出来るから」


 そう言うと、凛香は俺の腹から降りた。

そして、俺の隣にすり寄ってくるように体をくっつけた。


「ん〜」


 ――――猫だなこれは。

完全に凛香は猫状態になっている。

ということは……猫のように愛でてあげないといけないってことだな。


「まだ眠いだろ? 俺はまだ寝てるから」


「うん、じゃあもうちょっと寝る〜」


 背中をとんとんと優しく叩いてあげると、凛香はそのまますぐに寝てしまった。

すやすやと心地良さそうに寝ている。

――――寝顔可愛いな。

思わずよしよししたくなるじゃないか。

 俺は凛香の頭をしばらく撫でていると、気づけば俺も再び睡魔に襲われていた。

そして、俺は凛香とひたすら遊んでいるという、完全に子どもっぽい夢を見た。

本当に、俺って凛香のこと好きすぎだよなぁ〜。

でも、これで良いんだ!










◇◇◇









 俺たちはそのまま寝てしまい、気づけば10時を回りそうになっていた。

凛香は先にリビングに行ったみたいだ。 

 明日は学校かぁ……。

正直、マジで面倒臭いし行きたくもない。

凛香と遊んでたほうがよっぽど楽しい。

そんな感じで、俺はベットの上で寝転がり、天井を見ながら堕落な考えをしていた。

 ただ、ずっとそうしているのはあまり良くない。

寝巻から着替え、リビングへ向かった。


「お兄ちゃ〜ん」


「んお、どうした?」


「今日お昼食べ終わってから公園で遊んでくるね!」


「おう分かった! 気をつけて行くんだぞ?」


「はーい!」


 そんな中で、凛香が俺のところに来てそう言った。

遂に来たか。

そろそろ俺も計画するとするか……。

題して――――『凛香見守りスパイ計画』!

よし、今日もものすごくセンスのない作戦名を思いつけたな。


「お兄ちゃん、どうかしたの?」


「ん? いや、何にもないぞ?」


「怪しい……」


 おっと、凛香は勘が鋭いんだった。

気をつけながら考えないとな。


「――――まあ、お兄ちゃんが何か考えている時は、どうせくだらないことだから」


「そうか……?」


 それはそれでちょっとショックだな。

でも、俺が今考えていることは、まさにくだらないことだ。

 大事な妹に何かあったら、俺がたまったもんじゃない。

しかも俺があれから考えたんだけど、多分あの莉子が凛香と接触しそうな気がするんだよなぁ……。

って考えると、凛香に何かあるそうな気がしてならない。

気になりすぎて、毎日2時間半しか寝れないに決まってる。

冗談とかじゃなくて、割とガチで寝れなくなる。









◇◇◇









「じゃあ行ってきまーす!」


「いってらっしゃーい! 気をつけていくんだよー!」


 昼ごはんを食べ終えてすぐ、凛香は家から飛び出すように公園へ向かった。

母さんは凛香を玄関で見送っている。

――――さて、そろそろ動き出そうじゃないか。

凛香の安全は、兄である俺が守る!


「――――あんた随分楽しそうね」


「そう? 気のせいだと思う。俺もちょっと外出てくる」


「あら珍しいね」


「最近運動してないし、たまには散歩も良いと思ってさ」


「運動は良いこと。たまには体動かしてきなさい」


「ん、じゃあちょっと行ってくる」


「気をつけてね〜」


「は〜い」


 俺は何事もなく、玄関を出た。

よし、意外と簡単に行けたな。

えっと凛香は……お、あそこにいた。

てか、すっげぇスピードで公園向かってるじゃん。

 あの方向だと、多分あけぼの公園だな。

よし、早速ついて行ってみよう!

もちろん、凛香に気づかれない程度にな。










◇◇◇









 あけぼの公園は、そんなに遠くはない場所にある。

俺も小学生の時はよく行ったもんだ。

いや、俺ってその時から友達いないボッチではないからな?

小学生から中学生までの友達なら、意外といるんだからな?

だから勘違いするなよ!

 まあ俺の話はこれくらいにして……あけぼの公園って最後に行ったのいつだ?

あ、でも凛香がまだ幼稚園の時はよく行ってたか。

だとしても、2年前か……。

最近なような気がして最近じゃない気もする。


「――――!」


「――――!」


 歩いて5分くらい経ったところで、公園が見えてきた。

公園からは、もうすでに小さい子どもたちが騒いでいる声が響き渡っている。

なんか、懐かしい感じだな。

 凛香は公園の入口に入った途端、ダッシュで手を振り、遊んでいる子たちの輪に入ろうとしていた。


「あっ、りんかちゃんだー!」


「りんかも入れてー!」


「良いよー!」


 わぁーお、一緒に遊びたい時のこの言葉が、もうすでに懐かしすぎて涙出そうなんだけど……。

 とりあえず、俺は物陰に隠れて凛香を見守ることにした。

怪しく思われるかもしれないけど、『あっ、あの子のお兄さんなんです』くらい言っておけば大丈夫だろ。

うん、多分大丈夫だと思う。

 にしても……随分でっかい子がいるなぁ〜。

高学年の子もいるのか?

でも小学生にしては大人っぽすぎるような……。


「あっ、りこちゃんだぁ!」


「あっ! りんかちゃんこんにちはー!」


 へえ、あの子『りこちゃん』っていう子なんだ。

あの様子だと、凛香と仲が良いみたいだ。

――――えっ、ちょっと待って?

今『りこちゃん』って凛香言ってたよな……?

しかも、その『りこちゃん』の声が、あいつに瓜二つな気がするんだけど?


「さて、りんかちゃんも集まったことだし……。今日は何遊びたい!?」


「鬼ごっこ!」


「だるまさんがころんだやりたーい!」


「うーん、みんなたくさん出てきたね! じゃーあ……昨日は鬼ごっこやったから、今日はだるまさんがころんだをやろう! みんなはだるまさんがころんだで良いかな?」


「「「「さんせーい!」」」」


「異議なーし!」


 おお、1人だけ大人な回答をした子がいるぞ。

あの『りこちゃん』って子がリーダー的な存在なんだな。

 ああ、俺はあの子が何者なのかが良く分かったよ。

私服だから最初は分からなかったけど、ちょっと高めの声、そしてバカでかい声――――間違いない。


「じゃあ、最初はりこが鬼やるね! みんなは後ろにレッツゴー!」


 隠れている俺の方向へ向かってくるあいつは……紛れもなく、西城 莉子だ!

これはヤバい!

凛香どころか、他の子どもたちにも危害があるかもしれない!

俺がなんとかすべきか……?


「――――先輩、何やってるんですか? 小学生をストーカーするなんて……そんな趣味持ってたんですね先輩は」


「はっ……? り、莉子!?」


 俺の作戦は、失敗に終わった。

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