第7話 妹のことが気になる莉子

 授業中、俺は何故か莉子のことが気になって仕方がなかった。

もしかして惚れたとか……って思ったやつ、それは絶対ないから安心して欲しい。

なんかどこからか分からないけど、がっかりしたため息が聞こえたような気がするな。

まあ、俺は気にしないけどな。


(莉子が凛香の前の時だけ、何であんな感じになったんだ……?)


 俺が一番気になっていたのがこれだ。

あの超問題児で有名な莉子が、凛香の前の時だけ雰囲気が変わった。

想像できないほど、優しくて思いやりの強い人物になっていた気がする。

 あいつ、意外と子ども好きなのか……?

いや、そうとしか考えられない。


「ほれ、船木。ぼーっとしてないでプリントやれ」


「あ、すいません……」


 教科書で軽くぶたれた。

まあ、この疑問は後で考えても良いか。

今日は部活ないし、家に帰りながらでもじっくり考えてみよう。


「――――」


 しっかしまあ、このプリント解けない。

今は数学やってるけど、まじで苦手なんだよなぁ……。

かと言って、俺は文系でもないし……。

俺の場合は理数系でも文系でもなくて、遊び系だ。

ったく、だるいしやりたくね〜。


(え〜、先輩そんな簡単なことも出来ないんですかぁ?)


「――――っ!?」


 俺の頭の中で、何故かあいつの声が聞こえてきた。

ムカつく顔をしながら、俺を侮辱してくる光景が目に浮かぶ。

 ――――やってやろうじゃねえかよ!

俺が数学できるってのをよ!

おらあああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!










◇◇◇









「はあ……」


 莉子の腹立つ様子が浮かんで、勢いでやったけど……やっぱりダメでした!

やっぱり数学は無理だ!

莉子にやたらとバカにされそうな気がするけど、俺はもう気にしない!


ピコン!


 ん?

俺のスマホから通知音が聞こえたので、画面をつけて見ると――――。


「母さん?」


 送り主は母さんだった。

珍しいなこの時間に。

メッセージの内容を見てみると……。


『今日は車でそっちまで行く』


 そうか、今日は保護者と先生との二者面談だったな。

凛香を拾ったついでに俺も、って感じか。

よし、今日は歩く手間がなくなった!


「せーんぱい!」


 今日もまた来た。

このうるさい声は紛れもなく莉子だ。

しかし、今日の俺は違う!

今日はこいつと一緒に下校しないで済む!


「おう、何だ莉子?」


「えっ、何で今日はそんなにウェルカムな感じなんですか……? ちょっとキモいです」


「えっ、別にキモくはなくないか?」


「いやキモいです。先輩がそんなこと言うなんて……キモいですマジで」


 あれ、この顔本気で言ってる?

いや、本気で言ってるな。

ちょっと嬉しさが出ちゃって思わず顔に出てきてしまったようだ。


「まあそれは置いておいて……何の用だ?」


「いつも通りですよ。一緒に帰りましょう!」


「あ、ごめんそのことなんだが……今日は一緒に帰れない」


「――――えっ?」


 えっ、何でこの世の終わりみたいな顔するんだ?

意味分かんねぇこいつ……。

何を考えているのか分からん。


「きょ、今日は何かあるんですか?」


「朝会った凛香いるだろ? 今日は保護者との二者面談だから車なんだ。だから、俺も乗って帰る」


「えっ、りんかちゃん来るんですか!?」


「――――ま、まあそうだな」


 いきなり近づいてきてびっくりしたわ!

顔近いって……!

てかほら、凛香のことになるとこうやって食いつき気味になるんだよなぁ。


「じゃあ先輩、りんかちゃんに会わせてください!」


「やだ」


「何でですかぁ!?」


「俺の可愛い妹に何かしてきそうな匂いがプンプンするからな」


「――――そんなことするわけないじゃないですか〜」


 目を逸らしたな……。

絶対何かしようとしただろこいつ。

よし、これから妹を死守することに専念しよう。


「とにかく、お前を妹に近づけさせないぞ。絶対何かやろうとしてる顔してるからな」


「お、先輩が勝負をりこに挑んできましたね! これが『センセンフコク』ってやつですか? 望むところです! って言ってますけど、どうせ先輩はりこに勝てないと思いますけどね」


 そう、それは分かっている。

運動量を考えると俺は圧倒的に不利だ。

だから、俺は一つだけ莉子に条件を出した。

これだったら莉子も戸惑うだろうな。


「なあ莉子、一つだけ条件をあげよう」


「条件、ですか?」


「ああ。もし凛香に近づかないと決めたら、俺のことをいつでも弄ってもらっても構わない。お前が満足いくまでだ」


「え、いらないです」


「――――」


 即拒否された!?

ま、まじか……莉子だったら俺を弄ってばかりなのに、それは拒否するのかよ!


「先輩を弄るのは楽しいですよ。でも、そこまで先輩を弄りたいって言われるとそうでもないです」


「それはどういう……」


「つまりですね先輩、りこは先輩を弄るよりりんかちゃんと遊びたいってことですよーだ! じゃあお先!」


「んなっ!? おい!」


 くそっ!

形勢逆転された……!

莉子は舌を出してあかんべーをし、教室を出て行った。

まずいな、もう母さん来てるのに莉子に先を越されたら、確実に凛香を探し回るぞ。

とにかく、急いで向かわないと……!











◇◇◇










 母さんからまた連絡があり、どうやら校門を出て右側にいるらしい。

俺は急いで階段を降りて玄関に向かい、外靴に履き替えて玄関を飛び出した。

そして校門を出て右側を見ると、母さんの車が止まっていた。

だけど、そこに莉子の姿がない。

 あれ、あいつあんな感じに言っておいて来なかったのか?

まあ、それなら手間が省けて良いんだけど。

ちょっと安心……。

 と思って車に向かい、後部座席に乗ろうと後ろのドアノブを引こうとした瞬間だった。


「先輩遅かったですね!」


「――――!!!??? な、何でお前がいるんだ……!?」


 なんと、莉子が俺の母さんの車の中で座っていたのだ。

しかも、凛香の隣で。

母さん何しちゃってるの!


「ちょっ、母さん!? なんでこいつ中に入れてんの!」


「ちょっと乱暴に開けないでちょうだい。だってこの子、勝の後輩なんでしょ?」


「いやそうだけどさ……。こいつのことちゃんと分かってて入れてる? この学校では一番の超問題児って言われてるやつだぞ?」


「ん〜? そうは見えないけど……」


「先輩ひどいです。後輩に向かってそんなこと言うんですか〜?」


「お兄ちゃんひどいよ! りこちゃんはそんな人じゃない!」


「ええ……」


 えっ、洗脳されてる?

俺の家族も危ういことになっているんだけど……。

母さん! 凛香! しっかりしてくれー!


「ごめんね〜、しょうがいつもお世話になっちゃって。この子あまり話さない性格だからあまりお友達も出来なかったの。だから、勝が後輩と仲良くしてるのを見ると、つい嬉しくなっちゃうのよ!」


「えっ、俺が莉子にお世話になってるのか……?」


「いえいえ〜、りこは先輩といつも楽しくお話させてもらってますよ!」


 絶対嘘だ!

こいつ絶対嘘ついてる!

純粋な話じゃなくて弄って弄られてる最悪な関係だぞ俺たちはな!


「ねえりんかちゃん」


「なに〜りこちゃん!」


 もうめっちゃ仲良さそうじゃん……。

ああ、凛香大丈夫かな……。

お兄ちゃんは心配でたまらないよ……。


「りんかちゃんって、学校終わった後に公園で遊んでたりするの?」


「うん! 学校の友達と一緒に遊んでる!」


「何して遊んでいるの?」


「鬼ごっことかだるまさんが転んだとか。いっぱい遊んでる!」


「そうなんだ! じゃあ――――」


 すると、莉子は凛香の耳元で何か囁き始めた。

すると、凛香の表情が『?』から『!!』に変わり、最後はめっちゃ嬉しそうな顔をした。


「それって本当!?」


「うん! お兄ちゃんには内緒だよ? 凛香ちゃんのママには話しても良いからね」


「うん! お兄ちゃんには絶対話さないって約束する!」


 指切りげんまんをして約束をする莉子と凛香。

な、なんだ内緒話って……怖すぎなんだけど!?


「じゃあ、りこはこれで失礼します。ありがとうございます晴さん!」


「あ、待って! せっかくだし、このまま乗って行く? 莉子ちゃんの家ってこの先なんでしょ? わたしたちの家もこの先だから、ついでに送ってくわね」


「えっ、そんな……」


「良いから乗って乗って! お世話になってるお礼だから!」


「じゃ、じゃあお願いします!」


 ま、まじか……。

俺はこの狭い空間で莉子と一緒にいるのかよ……。

神様、この後何も起きませんように!

 と俺はそう願ったが、不思議と莉子はこの後も何もせずに、隣にいる凛香と手遊びをしたり楽しく話していた。

俺は余計に混乱した。

莉子って一体何者なんだ……?

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