第6話 学年1位の実力

「はあ、はあ……。何とか間に合ってよかった……」


「先輩って全っ然! 体力ないんですね」


「うっせぇ! はあ、はあ……」


 何とか時間ギリギリで着いて、凛香を送ることが出来た。

まさか莉子までついてくるとは思ってなかったけど……何でこいつ疲れてないんだろう。

俺は膝に手をついて肩で息をしているのに、莉子は俺の横で平然と立って息を1つも乱していない。


「莉子お前……疲れてないのかよ?」


「当たり前じゃないですか。だってそんなに距離ないですよ? うーん、あれだとだいたい300mくらいですかね」


「いや、それなり遠いじゃねぇか!? なのに疲れていないってどういうことだよ!?」


「それは体力がない先輩が悪いです。てか、300mくらいなら全然遠くないですよ。それに、りこはスポーツ万能美少女なので、これくらいじゃ疲れないですよ!」


 そういえばそうだった。

莉子は噂では運動神経が抜群で、体力測定ではぶっちぎりの学年1位だったとか。

50m走、握力、反復横跳び――――全部の種目がトップだったらしい。

 もちろん女子の中ではある。

と言ってもそこには各それぞれの種目を得意とする運動部がいるわけだ。

それにも関わらず、学年1位という成績はまさに『バケモノ』としか言いようがない。


「くっ……! 莉子が言うと説得あるのはどうしてなんだ!」


「ふふ〜ん! 悔しいですか? せ・ん・ぱ・い」


「くっそおおおお!!!」


 悔しい、悔しすぎる!

こいつに雑魚って言うような目で言われるのがマジで腹立つ!

俺は握り拳を強く握った。


「それにしても……先輩って妹がいたんですねぇ〜」


「ああいるよ。いつもはバラバラだけどなぁ」


「怖いですよ先輩。顔も声も怖いです。そんなに怒ってるんですか?」


「ああ、怒ってるに決まってる」


「もう、先輩ってすぐに怒りますよね〜。超短気って感じですよね。そんなんじゃ女子にも男子にもモテないですよ先輩」


「これが俺の個性だからな! 別に女子にモテようとか思ってないしな!」


「うわぁ自慢気に言ってる……。だから先輩はモテないんですね。りこは完全に分かりました!」


 ふん、何度でも言ってろ。

俺は自分の楽しい時間を過ごしてりゃそれで良いんだ!

部活で俺の好きなイラストを描いて、家に帰って妹を甘やかせばそれで良い。

 陰キャだって?

別に陰キャでも良いじゃねぇか。

自分が楽しいライフを送ってればそれで良いって思ってるからな。


「んじゃ、そろそろ学校向かおうかね〜」


「しれっとりこを置いていこうとしてますね!? 逃しませんよ!」


「ぐおっ!? その手を離せ! 俺はこれから静かな時を過ごすんだ! 邪魔すんな!」


「いーえ逃しません! てか、先輩はりこに勝てるはずもないので逃げられませんよ」


 俺はしれっと莉子を置いて行こうとしたけど、作戦失敗してしまった。

動き出した俺の服を掴んで、俺が行こうとすることを拒んだ。

 逃げようとダッシュしたけど、莉子の握力が強すぎて全く離れる気配がしない。

周りから見たら惨めな格好してるんだろうな俺は……。


「何でだ、何で莉子はそこまで俺に執着しているんだ?」


「しゅうちゃく? りこは頭悪いのでそんな難しい言葉は分からないです」


「――――分かりやすく言おう。莉子が俺にそんなにくっついて来ようとする理由は何だ?」


「あー……知りたいですか?」


「ああ、知りたいに決まってる。てかこれが疑問に思わないほうがおかしいと思うぞ」


 俺はずっと疑問だった。

小さい頃に会った覚えもないのに、何故俺にここまでついて来ようとするのか。

全くきっかけが分からない。

ただ偶然廊下ですれ違ったかと思えば、いきなり親しく話しかけてきたのが始まりだ。

もちろん、そんなことをされたら俺は『はっ?』ってなって固まってしまった。

 しかし、そんなことも気にせずに話しかけてきて、気づけば俺が所属する漫研部に入部するし……。

展開が早すぎてよく分からない状態だ。

だから、俺はずっと莉子に聞きたかったんだ。


「うーん、確かにいきなり先輩に話しかけた理由は気になりますよね?」


「ああ、めっちゃ気になる」


「はあ……分かりました。ちゃんと話しますよ。先輩についてくる理由ですよね?」


「ああ」


「それはですね先輩――――」


「――――」


 ついに明かされる。

莉子がここまで俺に執着する理由が!

 莉子は口の前で手を添えた。

あまり大きな声で言えないことなのかもしれない。

俺は耳を莉子の方へ向けた。


「それはですね先輩……」


「――――」


「教えなーい」


「はっ?」


「きゃっははは! りこが簡単に理由を話すなんて思います? ということで、先輩にはまだ教えませーん! バイバーイ!」


「くっ、このやろう……!」


 信じた俺がバカだった!

こいつが正直なやつじゃないことは分かってるのに……!


「先輩まんまと騙されましたねぇ〜。それじゃあ、りこは先に学校行きますね!」


「ま……待てこらあああああああ!!」


 俺は怒りのまんまに莉子を追いかけた。

しかし、体力測定学年トップに勝てるはずもなく……呆気なく莉子に負けた。

絶対許さねぇ……!











◇◇◇









 学校に着いた頃には莉子の姿はもうなかった。

まあ良い、その方が1人になれるから助かる。

 ――――うん、人数は少ないくせにおっきいよなぁこの学校。

昔は5クラスまであって、ギチギチになるくらいの生徒いたらしい。

今からすれば考えられないよな……。

まあ、これが世間で言う『少子高齢化』ってやつなのかもしれないな。


「よいしょっと……」


 下駄箱を開けたら手紙が入ってた!? っていう展開があると思ったか?

残念、俺に春なんて一度も訪れたこともない。

まあ、こんな暗いやつの相手なんかしたくないと思う。

 普通に自分の上履きを取って、それを履く。

玄関の正面にある階段に向かって歩いた瞬間だった。

後ろから何故か恐ろしいオーラが……。


「せんぱーい……」


「うぎゃあ!?」


「おっとぉ、うぎゃあ!? って……先輩面白いですね!」


「――――! 莉子……!」


 俺の耳元で突然囁き声が聞こえ、俺は思わず尻もちをついてしまった。

上を向くと、からかうような笑みを浮かばせて見下ろす莉子がいた。

いきなり倒れたのに、ドミノみたいに俺と一緒に転ばなかったな……。

瞬時に後ろに下がって回避していると考えると、運動神経抜群なのがここでも発揮している。


「いきなり後ろに倒れないでくださいよ。莉子も倒れたらどうするんですか? あ、もしかしてそれを狙って、りこのパンツを見ようとか――――」


「んなわけ無いだろ! 驚いたら尻もちついてしまうなんて当たり前だろ。だから、もしそうなったとしても俺は見なかったことにする」


「そんなこと言ってぇ〜、本当は気になるんでしょ?」


「いや、まじで興味ない」


「――――マジですか?」


「マジ」


 お前のやつだけはな。


「――――それはそれで引きますけど」


「はっ?」


 あれ、女子ってそういうの嫌うんじゃないのか?

男子がそれで女子にボッコボコにされてるの何回も見てるけど……。


「やっぱり面白くない人ですね」


「はい? だってそういうのは女子って一番嫌うだろ?」


「――――だったら――――のに」


「ん?」


「何でもありませーん。じゃあ、りこは教室行きます。また会いましょうね、先輩!」


 な、何だったんだ?

俺は何か大事なことを聞き逃した気がするけど……まあ、深く考えてもしょうがない。

どうせあいつのことだから、ろくでもないことを言ったんだろうな。

いやだろうなじゃねぇ、絶対そうだ。

 気にする必要はないと考えた俺は、自分の教室に向かって階段を上がった。

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