第5話 俺の妹と莉子

「ねえお兄ちゃん、今日一緒に行こう?」


「――――急にどうした? いつもなら1人で行ってるのに」


「だって、今日お兄ちゃん遅いんでしょ?」


「確かにそうだな……」


 今日は一段とハイテンションな凛香。

今日は何故か2時間目からだからゆっくり出来るし……たまには凛香と登校するのもありだな。


「よし! 今日は久しぶりに俺と一緒に学校行くか!」


「うん! 」


 俺の部屋を勢いよく出て、自分の部屋に戻っていく凛香。

これから時間割を確認して、ランドセルに教科書やら筆箱やら入れて準備するんだろうな。

 凛香のランドセルを見たら、今のランドセルってすごいと思う。

だってランドセルにタブレット入れるような時代になったんだぜ?

それに軽くて容量もすごい大きいし。

 俺たちの頃のランドセルなんてそんなデカいもの入れられなかったのにな。

これが時代の流れというやつか……。

今の小学生は羨ましいぜ! って思う反面、重くないのかなって思ったりもする。


「そう考えると、高校生の方が教科書の量も重さも多いなぁ……」


 俺は自分のバッグを持ち上げながら、ちょっと羨ましく感じてしまった。










◇◇◇









 朝ごはんを食べて、支度が出来たら俺たちは家を出た。

いやぁ、凛香と登校するのいつぶりだ?

凛香が通う小学校と俺が通う高校は方向は同じなんだけど、距離は凛香の方が近い。

それに対して俺は結構離れているから、早めに出ないと間に合わない。

だから、俺と凛香が一緒に学校に向かうなんて滅多にない。


(妹と一緒に登校なんて……今日は頑張れそうだ!)


 しまった、また兄バカが出てしまった……。

でも、凛香可愛いからしょうがない。

そう、しょうがないんだ!


「ねえお兄ちゃん」


「ん、どうした?」


「なんか――――人がこっちにすごい向かってきてるよ!?」


「はは、まさかそんなわけ――――」


 向こうを指差して怯えた顔をする凛香。

まさかと思って見たら……まじで誰かが勢いよくこっちに向かって来ていた。

そいつの後ろから『ドドドドド!』っていうオノマトペが似合うくらい、すごいスピードで来る。


「あの姿……まさか!?」


「あわわ……お兄ちゃん、りんかたち死んじゃうの……?」


「いや、違う。死にはしないけど面倒くせぇやつが来てしまったみたいだな……」


「おっはようござ――――ピギャッ!」


 どんどん向かってくる女子高生がいきなり俺たちの前で急ブレーキをした。

だけど、止まりきれなかったようで躓いて転んだ。


(うわぁ……これめっちゃ痛いやつだ)


「うぅ……止まりきれなかった……。痛いよぅ……」


 間違いなく莉子だ。

朝からあれだけ走れるのか……。

相変わら元気なやつだな。


「――――っ!」


「あ、おい凛香!」


 凛香はすぐさま莉子の元に駆けつけた。

何をし始めるのかと思いきや、ランドセルから巾着袋を取り出した。

キャラクターが描かれた袋、あれは……もしかして絆創膏とかが入った救急袋!


「あの! ちょっと染みちゃうかもしれないけど……」


「う、うん! 大丈夫だよ!」


 あれ、あの莉子が素直に受け入れた……?

しかも、凛香相手だと俺よりやけに大人しくなったんだけど……。


「――――っ!」


「あ、ごめんなさい!」


「ううん、大丈夫。ありがとう」


 消毒液が膝の擦り傷に染み渡ったようで、莉子は痛みに必死に堪える表情を見せた。

血は出てるけど、そこまで酷い出血ではなさそうだな。


「――――うん、あとは絆創膏を貼るだけ……。はい!」


「ありがとう! えっと……何で先輩がこの子と一緒に?」


 莉子はまだ痛みが続いているみたいで、立ち上がる時も少しだけ顔を歪ませた。

てか、肘とかも擦りむいていた気がするけど大丈夫なのか……?


「ああ、この子は俺の妹の凛香だ」


「えっ!? この子が先輩の妹ちゃん!? 全っっ然似てない!」


「悪かったな似てなくて!」


「まあ、そういうのは別にどうでも良いんですけどね。あ、りこの名前は西城 莉子っていうの! よろしくね! 手当してくれてありがとう! 」


「うん!」


 莉子は屈んで凛香と楽しそうに話す。

凛香も楽しそうだ。

女子同士だからかもしれないな。


「ねえお兄ちゃん、この人はお兄ちゃんと同じ学校の人?」


「ああ、そうだ。莉子は俺の後輩だ」


「こうはい……お兄ちゃんの方が年上ってこと?」


「そうそう」


「じゃありんかと歳近いんだね!」


「ま、まあそうだな」


 歳は確かに近いけどな……。

でも莉子とは10歳近く離れているからな?

そんなヘンテコなことを言っちゃうのも凛香らしくて可愛いから良いか。


「――――」


「先輩って……妹ちゃんに甘々なんですね」


「べ、別に〜?」


「めっちゃ顔に出てますよ?」


「――――」


「お兄ちゃん優しいよ! いつも遊んでくれるの!」


「へぇ〜、そうなんだぁ〜」


「余計なことを言うな凛香……」


 ああ、俺が隠していることが一番バレちゃいけない相手にバラされるなんて……。

もう俺の人生終わったかもしれない……。

あ、ほらぁ莉子が怪しげな笑いしてるじゃん。


「へぇ〜? 先輩って意外とシスコンですかぁ?」


「ち、違うぜ?」


「先輩がいつもと違う言葉を使ってるのでシスコンってことで!」


 ぐっ……!

俺はシスコンなんかじゃないぞ!

ただ妹が可愛いから愛情注いでいるだけで――――あれ、俺ってもしかしてマジのシスコンなのか?


「おっとぉ!? 先輩が自分はもしかしてシスコンなのかって思い始めましたね? 今日から先輩はシスコンと決まったので自信持っていきましょう!」


「いやだああああ!!!!」


「お兄ちゃんうるさい!」


「ごめんなさい……」


 くそっ!

こいつにシスコン認定されるなんて屈辱しかないっ!

くっそおおおおおお!!!


「あ、ねえねえ妹ちゃん! お名前はりんかちゃんで合ってる?」


「うん! りんかで合ってる!」


「良かったぁ〜。わたしは莉子って言うの。よろしくね!」


「うん! よろしくね、りこちゃん!」


「はわわ……。こんなに可愛い子に『りこちゃん』呼び……」


 俺がショックを受けている間に何か打ち解けてるんだけど……。

それに……ちょっと莉子の顔に違和感がある気がする。

まるで興奮している変態みたいな顔をしているような……?


「――――? りこちゃん大丈夫? 呼び方、これじゃないほうが良かった?」


「ううん、りこちゃんで大丈夫! えっと、わたしも『りんかちゃん』で良い?」


「うん! ねえ、お兄ちゃん! りこちゃんすごい良い人じゃん!」


「あ、ああそうだな」


 凛香よ、それは莉子の素顔を全く知らないからだぞ……。

実際は学校の先生たちを困らせる超大問題児。


「――――? お兄ちゃんなんでそんな不安な顔してるの?」


「えっ、いや、大丈夫だぞ?」


「ええ〜? 大丈夫そうな顔していないよ?」


「いやー、気のせいじゃないか?」


「そう……?」


 気づかれたか……?

本音を言うと、マジで心配でしかない。

 だって、相手はあの莉子だぞ?

学校の先生たちを困らせる超大問題児が、俺の妹と仲良くなるなんて……。

これから凛香の身に何もないと良いけど……。


「ねえお兄ちゃん、いま何時?」


「ん、今の時間――――やべ! 凛香急げぇ!」


「絵ええええ!!!!?? 遅刻しちゃうよおおおおお!!」


 こんなところでのんびりしていたら、凛香が通う小学校の授業時間が始まるまで残り10分を切っていた。

良かった、走っていけばギリ間に合う!


「ちょっ、ちょっと! 2人とも待ってぇ!」


 いや、お前もついて来るのかよ!

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