第4話 付き纏おうとする大問題児

「あ”あ”……疲れた……」


 『普段全力を出さない俺が全力を出した件』。

ラノベだったらこういうタイトルになるんだろうな。

莉子に煽られまくった結果、俺は『普段出さない本気』というものを出した。

そしてぶっ倒れそうなくらい疲労が俺を襲った。

まあ、そりゃあ当たり前か。

俺TUEEE系になってる体じゃないもんな。

だって、ここ異世界じゃなくて現実世界だし。


「先輩お疲れ様です!」


 あ、1つ忘れてたわ。

現実世界にもこんなやつがいるんだなっていう人物がここにいたってことに。


「莉子、お前帰る道が違う気がするんだけど……? いつもは逆だろ?」


「良いじゃないですか、今日は先輩をとことん弄って弄って弄り倒すって決めてますから。あ、これは先輩の同級生のやまもと先輩から直接許可をもらってますので、先輩と一緒に帰りながら弄っても文句は言われませんからね!」


「あ、あいつ〜!」


 『まあ、当たり前だな!』って言ってる和真の声が聞こえてくる気がする。

俺に拒否権というものは何一つないのか?

全部が和真に決められている気がするんだけど……。


「ということで、にひひひ……」


「き、気持ち悪い声で笑うな!」


 ニヤリと怪しい笑顔を見せながら笑っている莉子。

手をワキワキさせながら身構えるポーズはやめてくれ……。

怖いし気持ち悪いから!


「せんぱ〜い! 今日一日りこに弄られまくって今どんな気持ちですかぁ〜?」


「は?」


「おおっといきなり怖い顔でりこを睨むのはやめてください!」


 おっと、つい怒りが前面に出てしまった。

はあ、まあ俺もちょっとやりすぎたからしょうがないか……。


「反省してるよ」


「は、反省してる……? 先輩が……?」


「俺ってそんなに印象悪い?」


 そんな衝撃的なことを聞かされた時の顔をされてもな……。

俺ってそんなにひねくれ者だとか思われてんのか?

実際ひねくれてるかもしれないけどさ。


「先輩は度が過ぎです。後輩をもっと可愛がってあげましょう?」


「莉子以外ならな」


「んなっ! またそうやってりこを侮辱する! ムキーッ!」


「痛っ! 冗談だって!」


 俺のことをグーでボカボカ叩いてくる莉子。

意外と力あって痛い。

今日はこれ以上弄るのは止めにしよう。

俺の体が逆に持たなくなる……。


「プンだ! どーせ、りこのことなんかゴミなんでしょ? そこら辺に落ちてる鳥のフンみたいな扱いなんでしょ!?」


「そこまで言っとらん! ま、まあイラスト上手いのはマジで尊敬してる」


「えっ……あ、そうなんですか……」


 俺がマジで思ってることを莉子に言ってみたら、逆に莉子がカウンターを食らってしまったみたいだ。

 いきなり静かになり、俺から目を離した。


「何だ、褒められて照れくさくなったのか?」


「ち、違いますよ! 先輩のイジワル! ベー!」


 あっかんべーをして莉子は走って帰ってしまった。

また何か仕返しをしてくるかと思ったから意外だった。

たぶん照れくさくなったから早く帰りたかったんだろうな。


「よし、今日は俺の勝ちだ!」


 特に争っているわけではないけど、なんか勝った気分だったからとりあえず腕を上に突き出して勝利を喜んだ。


「――――」


 さて、帰ろ。









 ◇◇◇









 家に帰って、俺の部屋でちょっとだけ休憩する。

ああ、疲れた……。

ったく、莉子は毎日俺を疲れさせてくる。

あいつはいつも俺を挑発してくるようなことをしてくるからなぁ。

なんであんなやつに目をつかれてしまったのか……。

 まあ良いや。

夕ご飯までまだ時間あるし、ちょっと寝ようかな……。


「ちょっとお兄ちゃん!」


「んお、凛香か」


 俺の部屋の扉を荒々しく開けて入ってきたのは、俺の妹の凛香りんかだ。

俺の8つ下の小学2年生。

歳がそれなり離れているから、まあ可愛いんですわ。

お陰で、俺はたまに甘やかしてしまうダメ兄になってしまう。


「もう、りんか玄関でお兄ちゃんのとこに来たのに無視するんだもん! ひどいよお兄ちゃん!」


「ごめんごめん、今日疲れちゃっててぼーっとしてたみたいだな……」


「お兄ちゃん疲れてるの?」


「ああ、ちょっとな。ちょっとの時間寝るから、凛香は下で遊んできな?」


「ううん、りんかもお兄ちゃんと一緒に寝る〜」


 俺の妹マジ天使か?

お兄ちゃんをこんなに心配してくれるんだぞ?

それだけでもう癒やされる。


「そうかそうか。ほら、ここで寝な」


「うん!」


 俺は凛香を壁側に誘導してあげた。

凛香は実はすごい寝相が悪い。

朝起きて様子を見に行ったらベットから転がり落ちてることがほとんど。

ベットが壁と密着してるから凛香を壁側に寝かしてあげれば、凛香がもし寝ちゃってゴロゴロ寝転がっても俺と壁でガードできるから安心だ。


「今日も公園で遊んできたのか?」


「うん! 今日はね、お友達と滑り台とか鬼ごっこしたりして遊んだ!」


「そうか、鬼ごっこは今日は鬼に捕まらないで逃げること出来た?」


「ううん、3回ぐらい捕まっちゃった……。でもねお兄ちゃん、今日は3回だけしか捕まらなかったよ!」


「そうか! 昨日よりも捕まらなかったんだな。良かったな!」


「うん!りんか嬉しい!」


 喜ぶ姿を見て、俺も嬉しくなって頭を撫でてあげた。

ああ、癒やされるぅ〜。

こっちまで凛香の笑顔が影響されるもんな。

 そうしているうちに、だんだんと眠気が襲ってきた。


「お兄ちゃん眠たいの?」


「ああ、お兄ちゃんはちょっとだけ寝る」


「わかった。おやすみお兄ちゃん」


「おやすみ」


 そのまま吸い込まれるように、俺はそのまま寝てしまった。

そして気づけば俺だけではなく、凛香まで寝てしまったようだった。

その証拠に、母さんに起こされた時に見たら――――凛香はベットの上から転がり落ちて床で寝ていた。

どうしたらこうなってしまうんだ……?



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