第3話 選ばれたのは水色でした
「んじゃ、行ってくるねー」
「おう」
「お兄さん。あたしらがいない間に、パンツ取ったらダメだよ?」
「うるせ、はよ行ってこい」
佳奈は冗談のつもりで言ったのだろうが、昨日といい今朝といい、やられっぱなしだ。さすがに悪態つく他ない。
まあ、そんなことは今どうでもいい。
なぜなら、夕方まで佳奈がここにいない。つまり、それまでは俺ひとり。自由なのだ。
京香と佳奈はショッピングに行くと言っていた。とりあえず部屋にこもってゲームでもしてようか。
俺は軽い足取りで階段を上がった。
うーん。暇だ。
二人が出掛けてから一時間近くが経った。なんだか、時間の進むスピードが遅く感じる。何か物足りないというか。
スマホでソシャゲをしていても、結局やることは尽きる。携帯用ゲーム機で遊んでいても、すぐに飽きる。
いつもならスマホいじって、ネットで動画を漁って、たまにSNSで好きなアニメやゲームの情報を見る。それも朝にやってしまった。
あ、14時になった。あと数時間何してようか……。
俺は仰向けになった体を横に向けた。すると、机の上に置いておいた箱が目に入った。
今となってはただの箱なのだが、それ以外に思うことがあった。
それは、何故この箱を俺の部屋に置いたのか。そして、泊まりに来た理由はなんなのか。
まあ、泊まりに来た理由に京香もありそうだけど。だったら、この箱はなんなのだろうか。
パンツは入ってなかったし。佳奈が何か考えているなら最後まで用心してないといけないけど、ただの空箱にしか見えないしなあ。あの箱は帰るときにでも渡しておけばいいか。
その時、スマホから通知音が聞こえてきた。
また佳奈からかと、恐る恐るメッセージを確認すると京香からだった。
『どっちがいいと思う?』
そのメッセージとともに、衣服が二着写った写真が送られてきていた。俺にどっちが似合うか聞きたいのだろう。
といっても服のことなんて何もわからない。写っているのが二着とも上に着るものだということしかわからない。
『右でいいんじゃね』
『絶対適当でしょ』
『仕方ないだろ』
だったら俺に聞くなよ。そう言いたいところだが、妹の京香の頼みだ。適当でもいいから答えないと兄として終わってしまう。
てか、買い物って服の事だったんだな。まあ、イマドキの女子高生がやりそうなことか。女子のことなんて何もわからないけど。
すると、また通知音が鳴った。また意見が欲しいのか……って。
「うわあ!?」
思わずスマホを裏にして置いた。あまりにも唐突で、刺激が強すぎる。
見間違いではないよな……。俺はスマホを裏返してメッセージを再確認した。
『どっちがいいと思う?』
このメッセージはいい。問題は送られてきた写真と送り主にある。
その写真には二着の水着、だと思う。そして、それは佳奈から送られていた。
なんで俺に聞くんだよ。お得意のからかいだとは思うし、無視してもいいか。既読を付けてしまっているが、その方がいいだろう。
しばらく放置してみると、通知音が鳴った。それも連続して。
ポンっと鳴り止まぬ通知音。
俺が答えたってどうせ当てにしないんだろうからこのまま無視……。
ポンポンっと鳴り止む気配のない通知音。
なんなんだよもう!
俺は耐え切れなくなってトーク画面を開いた。何個も送られてきた「あれぇ?」と言いながら煽ったような顔をした女の子のスタンプ。佳奈がよくする顔に似ていて腹が立ってくる。
そして、既読が付いたことに気づいたのか、すかさずさっきの水着の写真が送られてきた。
『で、どっちがいいの?』
なんだよその聞き方。俺が水着を求めてるみたいな。
『俺に聞かなくていいだろ』
『京香ちゃんに聞いてみたらって言われたから聞いたんだけど』
マジかよ。京香がそう言ったのか。
妹を出されると途端に弱くなる立場。でも、言い換えればこれも妹である京香からの願い。佳奈を経由していることが気に食わないが、仕方がない。
『左のやつ』
『水色のやつ?』
『そう』
『わかったー』
なんだかノリが軽いな。こういうときの佳奈はだいたい何か企んでいる。でも今は外にいるし、直接何かすることは出来ないはず。
身構える必要もない、なんか疲れたし寝るか。
スマホを置いて仰向けになっていると、またまた通知音が鳴った。どうせまた何かに悩んでいるのだろう。そうなら適当に答えればいい。
頬杖を突きながらスマホの画面を点けた。通知欄には『佳奈から画像が送られてきました』の文字。一件だけだったが、この時何も考えていなかった俺はそのままその文字をタップした。
『あ、見た。やっぱり変態お兄さんだ』
「ん……? は!?」
しばらくして気づいた俺はスマホをぶん投げた。これは不可抗力だ。あまりに理不尽。
送られてきたのは、さっき俺がいいと言った水着を着た佳奈の写真。更衣室で撮ったようだが、なんでそれを俺に送ってきた。
てか、やっぱり何か企んでいたな、こいつ。
近距離じゃなくて遠距離、それも遠隔で攻めれるのか……。
まったく、佳奈は何でこういうことをしてくるんだ。考えても仕方ないんだろうけど、理由は知っておきたい。
「はあ……」
俺はでかい溜め息をついてから、机に向かって投げたスマホを取りに行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます