グットゥビート

釣ール

力は使わず

 ビート族は人間に成り代る種族として発展を遂げていた。

 しかし人間を甘く見た先人達は瞬く間に

 支配され、滅びかけた。

 武力に溺れ、頼りすぎて絶滅されかけた。

 しかし、人間と好意的な関係を結んでいた者達がいた。

 そのお陰で何とか滅びは避けられ、法律によってビート族の生存は許可された。


 家畜のようにされないため、先人達は戦っていた。

 勿論その戦い方は時代を考慮し、武力をなるべく使わないやり方でしかなく、ビート族の復権は叶わないと生きながら悟るも抵抗し続ける必要があると学ばされるのだった。



 時は二◯二三年。



 自分達は十九歳になったが、規制が厳しくタバコが吸える年齢じゃないからと隠れ家だったラーメン屋からは追い出され、コンビニでエロ本を見るのもエロ系統のゲームを楽しむ時代も衰退。

 ふん。

 どっちにしろ人間の身体なんざ何処が魅力があるんだ!と本心を隠しながら趣味として楽しんでいたが結論は既にでているからやっと捨てられた要らない煩悩だった。


 エコーチェンバーは良くないと言われる。

 多様性を認める為と時代に適応する為の必要事項だ。

 偏って馬鹿になる人間の問題では?

 と敵として人間の歴史を学び、自分達のルーツも調べていたこちら側としては今更過ぎて反吐がでる。

 つくづく馬鹿な連中に先人は負けてしまったものだ。


 仮に勝てたとしても…

 人間の十九歳とは異なる考え方や文化と能力を持っていたとしても弱小種族として生かされているのは紛れも無い事実。


 自分達は人間よりは比較的マシなエコーチェンバーで自己研鑽せざるを得なかった。


 自己紹介を忘れていたのでビート族達十九歳はそれぞれの特徴をコンプラを守るために簡潔にまとめた。


 語り手である『ビート族』、日本では莱処らいとと呼ばれているがビート族としての名前は「TLてぃーえる」。

 ティエラ…王冠をイメージしてTLにしている。

 タイムラインじゃない。

 人間が作るタイムラインなんて欲だけの薄汚いやり方。

 信仰宗教を作りたいのなら他のやり方でもっと原始的にやるといい。

 勿論ビート族以外には不可能だ。

 とにかくTLは今話をし、綴る者だと認識してほしい。


「TL!急に愚痴を綴るな!より弱く見られるだろ!」


 訂正を申し出る彼は日本名…それはもうやめておこう。

PLぴーえる」はパイロットを目指していたからその名残として使っている。

 なぜ日々サンドバッグを殴っていて、端末やパソコンを仲間に使わせて都会でパルクールをし、山でトレーニングをする彼がパイロットを目指していたかは一種の破滅願望だから聞かない方が賢明だ。


 他にも個性的なメンバーがいるので紹介したいが彼彼女らはやたらと目立ちたがらないからここでの紹介は省く。


 自分とPLを紹介したのはこの記録に必要な話を綴る為に仕方なくだ。

 それにPLは人間並みに承認欲求のある筋肉質の青年。

 今までTLがSNSで彼の暮らしをゴーストライターしていたのだ。


 収益目当てでも仕事でもなく、屈託のない道楽で飽きないほど地球を廻り続ける体力と彼の刺激的な話は排他的で引きこもりがちなTLにとって絶望を生きる為に必要な話だったから喜んで引き受けた。


 彼を異常だと言われないように彼のアンチのアカウント、それらの集団はインターネットやリアル問わず探して監視している。


 事情を知らない人間を一時的に雇用して、それらの活動の報酬を支払ってるから負担も少なく辞める人も続ける人達の循環も速いし遅れた労働概念すらない。


 そこだけに関してはずっとこのバイトをしてくれる人間とお互い愚痴を言い合った。

 人間のお年寄りは敵になることが多いが案外その愚痴の主はお年寄りで若者にもビート族にも優しく、改めて「嫌いなものが一緒だと長続きする。」を体現していた。


 それもあってここのメンツだけは多種多様かつ共通の尽きぬ話題があり、痛みと絶望を共有できるから「居場所」だとか「労働環境」とか馬鹿みたいでダサい名前ではないこの空間を維持するためにPLのビート族として残る筋力と武力はもはやインフラレベルの力を持っている。

 彼のバイタリティには降参だ。

 だが、PLには辛い過去も沢山ある。



 一例ではあるがPLは格闘能力にも優れていて、本来は人間を殴りたかったらしい。

 それは一族の歴史や、本人のエゴではなく、世界を駆け巡ることによって大多数は



「お前達は人間のお情けで生かされているだけの弱小種族だ!」



 とまだ良好な関係だった自分達の家族を後足で砂場かけられ、それでも暴力等の能力は使わずに降伏したのだ。

 しかしPLの話によると一番強い種族らしい人間の癖して強い者の数は少なく、多くは飢えやハンディキャップや様々な理不尽と戦っては負けてを繰り返しながらも彼の身体能力を評価してくれる程の包容力が大多数の人間にはあるらしい。


 だからといってそれより前の話でも人間への嫌悪について話したし、TLも断言するが人間を友好的に見てるつもりはない。

 綺麗事は言えない。

 だがそれでも成り立つ関係はある。

 自分達がエコーチェンバーを確立できたビート族の中でも比較的運を味方に出来た者達であるからこそ。



 話を戻すが、旅の資金と腕試しでPLは十六歳の時に立ち技格闘技でプロデビューをし、それぞれの興行に合わせたルールに適応しながら勝ち続けたらしい。

 その時の話はあまり具体的にはしてくれなかった。

 本来なら人間相手に確実に効果的なダメージを与えられたらしい。

 しかし実態はレフェリーが優秀過ぎて調整されてしまった。

 更に苦手なSNSの強要やスポンサー等の第三勢力が苦手で立場が弱い競技者であったからオープニングファイトまで引退したのに無理矢理呼ばれたので思いっきりその場を汚し去っていった。


 懐かしい。

 その時にPLはTLに

「ここじゃあ言えないネタが掴めた。

 これは記録しなくていい。

 記憶に残ってくれれば充分な収穫だ。

 へっ。

 やっぱ人間は弱い!」


 深く聞くつもりは毛頭ないが間近で人間の弱さを拳と脚で学んだ彼の行動力はTLにとって羨ましい才能でもあった。

 いや、才能だ努力だなんてものは人間もビート族も関係ない。


 逆に言えば何らかの才能や努力という幻想しか人間が誇るもの何も無い。

 未だにくだらなさ過ぎて笑うことも出来ない。

 何処かで人間を哀れむ時、TLはつまらない落書きを紙に書いて捨てている。



「はやく人間に成りたい!」

 と言っている妖怪である少年のセリフがとある作品にあった。

 TLが十四歳の時は「作者である人間の上から目線の戯言」と見下していたが、今ならあの少年のセリフから純粋さを感じ取れる気がする。



 PLも殴り合いと蹴り合い…もしかしたら彼のことだ。

 組んだり、寝たり、他の格闘技やプロレス技も全部やっているかもしれない。

 人間と合法的に戦える時だけは彼にしか分からない友情があったのかもしれない。

 TLが特殊なバイトを人間に頼んでいて、そこで愚痴や貴重な話を聞かせてもらっている時のように。



 PLはいつものように帰ってきて話をしてくれるのだろうか?

 十九歳になって最初に話したのは


「規制ばかりで年齢だけ増えても死が近づくだけ。

 馬鹿だけ目立つ姿を見るくらいなら身体を動かした方がマシ。


 悪い。

 はたちのつどいを楽しみにしていたんだっけTLは。

 日本の荒れる成人式を未だに純粋に楽しめるTLが面白くてついこの歳まで生きてしまったよ。


 人間がその式でなんか意味不明な理由で絡んできたら俺が上手くやっておくから今後もいいディスタンスで絡もうぜ!」



 含みのある長い話をして去っていった。

 きっと帰ってくるさ。

 でも、本当はPLがいないと寂しいのが本音だ。

 女性のビート族も「PLとしかパートナーか同居人と認めない!」と人気なんだ。

 自分もバイト仲間達もPLの飽きない戦いの果てに得た話に安心している。

 もう誰も殺さず犠牲を最小限にしている面白いPLは、下手な人間よりずっと人間らしいと人間達にも認められている!


 だからこそこのエコーチェンバーは守る。

 引きこもりがちな自分でも出来ることで…ビート族としてでもなく、人間の為でもなく、この話を綴るものとしてお前の帰りを待つ!


 それだけでいいんだと…もっとシンプルでいい気付かせてくれた友の為にここを守るのが先決だ。



 自分達は「誰かを倒しても良い」と建前では人間達の攻撃を許されている。

 そんなことはしない。

 綺麗事なのは分かっているが分かりやすい罠にかかりたくないだけだ。

 それで自分達は生きる。


 籠っているからって戦っていないわけじゃないからこそ。

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