第13話 会見

 会見場の控えの間で、塗手と谷尻は破魔娘の着替えを待っていた。

『これは、ワシの妹の一番高い、一番いい服です。これに、着替えて下さい』と言われ別室で着替え中だ。

破魔娘が出て来た。

「なぜ、着替えないんですか」

「着替えたけれど」

「えっ」

「妹さんの一番高い、一番いい服が、なぜ、女郎屋の服と同じなの」

塗手は絶句した。

「ささっ、総裁がお待ちかねです。行きましょう」と、その場を取り繕った。


 居並ぶ各官庁の長、議長、副議長、評議員などの視線の中を、破魔娘、後に従う谷尻が静々と歩を進めていた。

各人から「ほう~」という、賛美とも非難とも感嘆とも好奇のため息ともいえないような声が漏れた。

正面に総裁が居る。破魔娘は総裁の前で、少しスカートの裾を持ち上げ少し腰をしずめた。

「さすが女御国の姫君、優雅だ」

「美しい」

「きれいだ」

「じつに、堂々としてる」

「セク・・・・、じつに魅力的だ」

破魔娘は総裁を正面に見て「女御国の満地破魔娘です」と、言った。

「よく来なさった。羅漢国総裁、遠見拓造です」

総裁が手を差し出した。二人は握手をした。総裁は破魔娘たちを総裁の脇へ促すと、居並ぶ者たちに向かい演説を始めた。

「皆さま、かねて協議の通り、今女御国の姫君、かつ次長、満地破魔娘殿を迎え、我が羅漢国は全力で女御国を支援する事とする。女御国の国難は我が国の国難と同じである。笠原教国の横暴、残虐を許せば、この世界の秩序は破壊され、この世界は暗黒の世となろう。

そうはさせない。我々は女御国と手を取り、共に笠原教国と戦う。皆さまも、心して掛かるように」

「おうー!」

会場にどよめきが上がった。拍手がわき上がる。

総裁はそれを手で制し、破魔娘を促した。

「皆さま、羅漢国の力強い支援、誠にありがとうございます。勇気百倍です。今回は、笠原の不意打ちをくらって敗れました。油断でした。平和に慣れ過ぎていたのですね。

だが、次はそうは行くもんか。今は隠れ住んでいる同志を糾合して、死ぬ気でやってやる。

今に見ていろ、インチキ笠原め・・・・」

破魔娘の言葉がだんだんと乱暴になってきた。谷尻が、しきりに抑えるよう合図をしていた。

『はっ!』と破魔娘がそれに気付いた。

「失礼しました。思わず地が出てしまいました」

ドッと笑い声が上がった。お姫さまといっても、深窓の令嬢ではないようだと皆は思ったようだ。

「とにかく、力強いご支援、本当にありがとうございます」

「おう~」と歓声が上がり、拍手がわき上がった。


 別室で支援に関するいろんな書類の調印が行われた。続いて軍事会議も開かれた。

塗手は今回の働きで特別昇進が決まり、総参謀長の要職に就いた。


 塗手は忙しかった。軍事作戦会議に始まり、沼地家への弔問、借りた馬の返却、羅漢国へ届けてくれた漁船員へのお礼の手配、阿郷からの報告、破魔娘からの呼び出し、将校たちからの問い合わせ、寝る間も無く飛び回っていた。

寸暇を見つけて塗手家に帰ると、母親が出て来て「あのね~、お前ね~」と、言う間もなく部下が呼びに来て「すまない母さん。また、後で」と出て行ってしまった。

「何だろ、あの子は、何してんだろう」

母親は、息子を理解出来ないでいた。


 軍事計画は進み、4月13日、破魔娘と第1隊第2隊の中央軍、第3隊第4隊の南軍、第5隊第6隊の東軍が同時進撃を開始した。各地に『隠れてた女御兵、糾合せよ』との狼煙が上がった。

破魔娘の進撃が始まった。



『女御国の攻防 1』終了です。

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女御国の攻防 1 森 三治郎 @sanjiro

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