第4話  笠原浄光教国



 協議の最中に、早馬が飛び込んで来た。

「大変です!」

「何事です」

「あっ!」使者は破魔娘のふんどし姿に言葉を失った。

「あ~」

「私の事は気にしないで、報告なさい」

「あっ、大変です。合同庁舎が笠原教国の奴らに乗っ取られました。総長が人質に捉えられました」

「えー!」

一団に悲鳴が上がった。

笠原かさはら教国きょうこくの騙し討ちです。我々は破魔娘さまの縁談の相談にきたと思っていたのです。ですが、相談員は乗っ取りを企む兵隊でした。要所々々のわが兵を殺すと、密に伏せていた軍隊を呼び込んだのです」

「う~ん」

大変な事態になった。もう、呑気に相撲をしてる場合ではない。

事態は急を要する。一団は急きょ軍事会議を始めた。

「大変な事態になったね」

「あっ!」

ふんどし姿の男とイカツイ男が二人、使者は訳が分からず驚いている。一団は国家機密を知られてしまったと、戸惑っていた。

「あの~、遠慮してもらえますか」

「いやね、笠原教国と聞いた。笠原教国のことなら、多少知っている。羅漢国の隣に笠原教国みたいなカルト教国が出来ることなど、とんでもないことだ。なんとしても、阻止しなければ・・・・。笠原教国は羅漢国の敵だ。我が総裁の意見でもある。ワシたちも女御国を応援したい。どうだろうか」

「う~ん、ふんどし姿で、そう言われてもね~。違和感があるのよね~」

「あ~」

「おわ~」

二人は急いで着替えに走った。


 改めて、作戦会議が始まった。

塗手は笠原教国の説明を始めた。

「正式には、笠原かさはら浄光じょうこう教国きょうこくというんだ。笠原を教祖としたカルト教の国だね。信者は笠原を神とあがめている。笠原のいうがままだ。実に、胡散臭うさんくさい。教祖の息子が皇子と呼ばれているのも、おかしな話だ。教祖は胡散臭いが軍隊は強い。死をも恐れぬ軍隊は無敵だよ。笠原のために死ねば、天国に行けると信じ込んでいるんだから、どうしようもない。

法華経ほっけきょう南妙法蓮華経なむみょうほうれんげきょうの題目を唱えて団扇うちわ太鼓だいこをドンドコドンドコ叩きながら、押し寄せて来る。実に、不気味な異様な軍隊だ」

「まあ・・・・」

一団は息を呑んだ。女御国の直面してる敵は、想像以上の強敵らしいのだ。

「教団はどんな汚い手、残虐な手でも平気で使ってくる。こんな例もある。ある女が他家に嫁いできた。その時、ちいさな草の苗を持参していた。

『それは何だ』

と聞くと、『きれいな花が咲くの』と応えたそうだ。やがて子が次々と生まれると、女は持参した草花の根を掘り取り、亭主に飲ませる。草花とは、独特の形状の美しい青い花を咲かせるトリカブトだ」

「おおう~」

「まあ~」

「これで、心置きなく子供らを洗脳できる。子供のうちに、刷り込まれた教えは一生消えないといわれている。笠原教国の脇にしょうこくというのがあったのだが、いつの間にか併合され消えてしまった。笠原教国はドンドン膨張、侵略してるのだ。その魔手がついに、女御国にも及んできたわけだ」

一団は深刻な表情で黙り込んでしまった。

その時、第二の伝令が来た。

「槐さまは『世を惑わす妖術師』という高札を掲げられ、磔の刑に処せられました」

「何と・・・・」

「最期の言葉が『見誤った。真っ黒の凶相とは笠原浄光のことだった』というものでした」

「・・・・・」


 改めて会議が開かれた。

「人数はどのくらい集まるのかな」

「急なことだから、5千、いや4千人ぐらいかな」

「あなた方を主敵と認めれば、どの辺が主戦場となるだろう」

「牛の腹は牧草地が広がっているから、当たった所が主戦場になるわ」

「うん」

塗手はジッと地図を見ていた。

「ワシに一つの案があるのだが、聞いてくれるかい」

「聞かせて下さい」

皆が頷いた。

「ここに針金はあるかな」

「あります」

「あるならそれを利用する。まず、二本の杭を打ち針金をピンと張る。そういうのを、幾重にも張って置く。トラップだね。にかわはあるかな。膠を塗り付け、砕いたガラス片や陶器の欠片を針金にまぶすとより効果的だ。人の無防備な部分に当たれば、簡単にきれる。条件にもよるが、簡単に首が落ちることもあると聞いた。

さて、そのトラップに敵を導く方法だが・・・・」

塗手は、地図上に小さな箱を置いた。

「トラップの前に、大きな陣幕を張るのだ。その中に多くのかがり火を置く。決戦は明け方。かがり火は、その前の食事と思わせるのだ。そして、兵は山側の目立たぬところへ伏せておく。さて、ここがポイントなんだが、誘導隊の働きが必要となる。昔の言葉でいう大物見、大規模な偵察隊だ。全員騎馬ね。それらがゆっくりと近づき、おりを見て突撃する。

そして、ある程度打撃を与えたなら、サッと引き返す。笠原兵が追撃してきたなら、成功だ。

誘導隊はトラップ前で散開、山に伏せていた兵は笠原兵を後ろから攻撃する。

これが、大まかな作戦だ。作戦は時として上手く行かない場合もある。小さな齟齬なら各隊の判断で」

「作戦が順調なら」

破魔娘が後を継いだ。

「作戦が順調なら白、調整が必要なら白黒白黒、作戦が失敗なら黒の狼煙のろしを上げる」

「破魔娘さま、大きな陣幕といいますが、これ程急では用意できません」

「なら、竹かなんか切ってきて囲いを作ればいい。いかにも、大勢の兵が居る陣屋と思わせればいい」

「はい、了解しました」

「第4隊、第5隊はただちにトラップと陣屋設営に掛かりなさい。第1隊、第2隊、第3隊の隊長、副長は残って作戦の詳細をつめる。各隊は半分は休み、半分は設営隊の手伝いに当たるよう。成否は今夜の出来で決まる。我々はこの難局を乗り越え、笠原を蹴散らしてくれようぞっ!」

「おうー」

鬨の声を上げて、女御軍が活発に動きだした。

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