111-2

『ほぎゃぁー…』

聞こえてきた産声に皆の顔が期待に満ちる

「産まれた!」

バルドさんがミリアのいる部屋に飛び込んでいく

俺達も少し時間を置いてからその部屋に向かった

「娘が出来た…」

バルドさんは抱き上げたまま泣いていた

「おめでとうバルドさん」

俺が言うと皆も口々に祝いの言葉を向ける

「ありがとう。俺達の娘…サリーだ」

「何だ、もう名前を決めてたのか?」

「男の子ならサルト、女の子ならサリーと決めてたんだ」

その名前は皆聞き覚えがあった

ミリアの幼い頃に亡くした弟妹の名前だ

この世界ではそういう名亡くなった付け方をする人は多い

亡くなった子の分まで幸せに生きて欲しい

その想いを込めて名を引き継ぐらしい


『ドサッ…』

その時何か鈍い音がした

「メリッサ?!」

意識がサリーたちに集中していたせいで反応が遅れたものの、真っ先に反応して声を上げたのはアランさんだった

その横でメリッサさんが倒れこんでいる

「アラン…私も産まれるみたい…」

「…へ…?」

「えぇぇぇぇっ?!」

苦笑しながら告げるメリッサさんに部屋の中はちょっとしたパニックになった


「アラン、とにかくメリッサを部屋へ」

「あ、あぁ」

我に返ったカルムさんが指示を出す

「立て続けで申し訳ないがもうひとり頼めるか?」

「もちろんだよ」

産婆が快く引き受け、アランさん達の後を追って行く

「スカイ果実水を持ってきてくれるか?」

「わかった!」

半数以上が出て行った部屋の中でスカイに頼むと飛び出して行った

「私たちは大丈夫だから皆も休んで」

ミリアが残ってる者に声をかける

「でも…」

何人か出て行ったもののナターシャさんが心配そうにミリアを見る


「ダメだってミリア。自分たちだけになりたいって正直に言わないと」

「シア?!」

「事実だろう?娘もできたことだしいい加減遠慮するのやめた方がいいぞ。レティ行こう。スカイもおいで」

「はーい」

レティは苦笑し、スカイは果実水をテーブルに置いてから俺に飛びついて来る

「2人共出産祝い考えといてくれよ?素材でも何でもできるだけ希望を叶えるから」

「はは…それは有り難いな」

バルドさんが苦笑しながら言うのを背に俺達は部屋を出た


暫くして出てきたナターシャさんが俺の方に来る

「助かったわシア」

「へ?」

「あの子、どれだけ言っても遠慮するから」

「あぁ」

俺は苦笑しながら返す

「自分のことだけならそれでもいいけど娘を守りたいならね」

ため息交じりに吐き出されるのは心配の籠った声

ナターシャさん程強ければ誰も心配しないんだけどな


「多分大丈夫だろ?バルドさんだってミリアと付き合いだしてからも遠慮してるけど、ミリアに関することは絶対譲らないじゃん。ミリアもサリーの事に関しては同じだと思うけど?」

「そう言われてみればそうね…」

子は宝だと言われるこの世界で虐げられていたバルドさんは、自分の体が弱いこともあってかなり周りに遠慮しながら育った

俺達にまで遠慮して自分の欲しいものも大抵譲ってくれてたように思う

変わったのはミリアを守る対象と認識してからなんだろうな

きっと人は守る者が出来たとき強くなれるし、色んな意味で強くなりたいと思うんじゃないだろうか

父さん達みたいに冒険者として高ランクを目指してた俺も、レティと出会ってから力だけじゃない色んな強さを得たいと思うようになった

だからミリアもサリーの為なら強くもどん欲にもなるんじゃないかな

ナターシャさんも同じようなことを考えたのか、少し安心したような表情を見せた

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