111-3

「シア、ヘンリーの様子が…」

レティに耳打ちされてヘンリーを見ると項垂れてる上に顔色が悪かった

その原因に心当たりがあるだけに放っておくことは出来ない

「ちょっと行ってくる。スカイとケインを頼む」

レティにそう告げて窓際に座るヘンリーの横に移動した

「シアか…」

ヘンリーは一瞬こっちを見たもののすぐに庭の片隅に視線を戻した

そこには小さなお墓が2つ並んでいる

1つは母さんが流産した時に造られた骨壺だけが埋まったお墓

そしてもう1つは死産だったメリッサさんの子供のお墓だ

生きていれば4~5歳になる2人のお墓には時間が経った今でも常に花が供えられている

大抵母さんとメリッサさんが取り換えてるけど、チビ達もわからないなりに気付いたら真似をする

そして少し大きくなって理解できるようになると弟か妹がいたのだと思いを馳せる

今ここに生きていなくても家族の一員なのだと自然と受け入れているかのように…


「母さんの予定日はもう少し先なんだ」

重く響くその言葉にかける言葉なんて俺は持ち合わせていなかった

「…ああ」

それは俺達も知ってる

メリッサさんの予定日は10日ほど先だった

数日のずれならそこまで不安にはならない

現にミリアの予定日からも数日ずれがあった

でもメリッサさんは前回が死産だっただけに10日のずれが何を意味するのか考えるのは怖い

ただでさえ流産や死産の後は出生率が大きく下がるし、無事に生まれてもシエラの様にどこかに問題を抱える可能性が高くなる

たとえ問題があってもそれは個性として受け入れられるし、俺達としては無事に生まれて来てくれればそれで満足ではあるんだけどな

そう、無事に生まれて来てくれさえすれば…


きっとヘンリーの中では前のことが渦巻いてるんだろう

産声を上げなかった生れ出た子供に家中が悲しみに包まれた

意味が理解できないチビも、周りのそんな空気に巻かれて泣き出すほどに…

年の離れた妹か弟が出来ると心底楽しみにしていたヘンリーは、死産を目の当たりにしてから1か月程メリッサさんと同様に部屋に籠っていた

今回はさらに年が開いてるからか、ポールと2人揃ってメリッサさんの手伝いを普段以上にしていたくらいだ


『きっと大丈夫だ』なんて気休めを言うことは出来ない

そう思えるほど出生率の高い世界じゃないのはもう嫌という程知ってるから

かといって1つの命が無事に生まれて、もう1つがダメだなんて俺だっていやだけど…


「祈ろう。あの子の分も幸せになるために生まれてくることを」

「そう…だな」

俯いたまま静かに組まれたヘンリーの手は震えていた


母さんのおかげで幸か不幸か神の存在を嫌でも信じる環境にいる

だから神様、俺の規格外の力を取り上げてもいいからメリッサさんの子供を無事生まれさせてあげてくれ

そしてサリーと2人、元気に育ってほしい

そう願う事しか出来ない

どれだけ力を手に入れても、Aランクやソーサリーマスターなんて肩書をもっても、命を絶つことは出来ても消えゆく命を救うことは出来ない

それを嫌というほど実感して心底悔しいと感じていた

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