111.増えた

111-1

1週間前、そろそろ出産だからと帰ってきていたミリアが昼過ぎに産気づいた

打ち上げられた緑色の発煙筒を見て俺達は帰ってきた

この発煙筒は産気づいたから医者を呼べと言う俺達だけの合図でもある

出産が近くなると産婆を呼びに行く担当を決めておくのは当然の決まりごとになっていた

今日はヘンリーがその担当で俺達の少し後に産婆を連れて帰ってきた

父さん達も近くの依頼を受けていたらしく俺達より先に戻ってたし、フラウはバルドさんに知らせに町に向かって飛び出して行ったらしい

バルドさんは大抵店の中にある作業部屋に籠ってるから発煙筒には気付かないかららしい

俺達は出来ることがあるわけでもなくただリビングでその瞬間を待つ

この世界ではハネムーンベイビーが多いけどバルドさんとミリアは違った

そのおかげで旅を終えた俺達もここに入れるからありがたいとも言える

シエラの時は遠い地にいたから余計にそう感じる


父さん達は流石にもう慣れたのか落ち着いている

そんな様子を見て『昔は酷い慌てようだったのにね』なんて呟くのは同じく臨月を迎えているメリッサさんだ

「どんな感じだった?」

ヘンリーが尋ねる

「そうねぇ…立ったり座ったり、ウロウロしたり?」

「えー」

今ではドカッとソファーに座っている父さん達を見ても想像できない

「少し前まではそんな感じだったんじゃないかしら?シエラの時はだいぶ慣れたのか飲み物を飲む余裕があったみたいだけどね」

「しゃーねーだろ?出産は命がけなんだ。母体も子も揃って健康に済む確率考えてみろ」

「まぁそうだよな…」

以前に比べればずいぶん改善したらしいけど出産まで無事育つことのできない子もかなりいる

そして生まれてもシエラの様にどこかに何か持ってる子も多いし死産の事もそれなりに…

「シエラの頃には全てを受け容れる覚悟が持てる様になっただけだ」

その前に無事生まれてこなかった子が既に2人いたから

その言葉は誰も口にはしない

でも母さんの流産とメリッサさんの死産の事は俺の記憶にも刻まれている

「俺達はただ願うしか出来ない。無事に生まれてちゃんと育ってくれることをな」

そう言った父さん達の手元を見れば手が組まれていた

祈る様に組まれたその手にその想いが詰まってるのが分かる

俺達も自然と手を組んでいた


「ミリアは?!」

暫くして飛び込んできたのはバルドさんだ

持病の喘息を気遣いながらそれでも出来る限りいそいで来たんだろう

バルドさんの肩の上では竹の妖精であるシナイが少し心配そうな顔をしていた

「まだ頑張ってるわよ。バルドは少し体を休めなさい」

メリッサさんがソファーに座る様に促した

それを見て一緒に帰ってきたフラウの分も含めてスカイが飲み物を用意した


「スカイ俺にもくれ」

「わかった。コーヒーでいい?」

「ああ」

「お父さん達も飲む?」

「もらうよ」

「メリッサさんはフルーツジュース?」

「ありがとう。いただくわ」

こんなところでスカイの成長を垣間見る

考えてみれば旅に出ている間スカイはケインとシエラのお姉ちゃん役だったんだよな

それまで2人の兄と1人の姉に甘え切っていたのにいきなり自分が上になったせいで成長せざるを得なかったのかもしれない

そう思うとちょっと申し訳ないな


「はいシア、レティシアナも」

「ありがとうスカイ」

「ありがとな」

レティに続いて礼を言いながらスカイの頭をなでると照れ臭そうに笑った

時々沈黙に耐えれなくなった誰かが口を開くものの会話として長く続くわけもなく再び沈黙が訪れる

普段と違う様子に状況を理解していないチビ達が誰かに抱っこをせがむ

俺にとってはその温もりが精神安定剤のようにも感じた

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