第2話 ソフィが子供を生みました
「ソフィ! 私たちの子供が生まれるのですね。なんて嬉しいんだ。これはすぐにでもビニ公爵邸に出向き、報告しなければいけません。父上と母上、兄上にも伝えないと。あぁ、こうしている場合じゃないですね。ソフィ、一緒に報告に行きましょう。いや、だが、ソフィは身体を大事にしなければいけないので、このまま寝ていたほうが良いかもしれない。私がひとりで報告に行きます。いや、待てよ、大事なソフィの側を離れるわけにはいかない。うーん、どうしたら良いんだ?」
いつもは冷静沈着なライオネル殿下が、喜びに取り乱している様子が微笑ましい。それだけ私やお腹の子供のことを大事に思ってくださるのは、ありがたいことだと思う。
私のお腹の赤ちゃん。安心して出ておいで。あなたのお父様はあなたが豆粒のような頃から、生まれてくるのを楽しみにしているわ。
私はお腹をそっと撫でて心の中で話しかけた。この子は私やライオネル殿下に愛されるばかりでなく、ビニ侯爵家と王家の人々からも溢れるほどの愛を受け取る、誕生を待ち望まれた子供だ。それがどんなにありがたいことか、いつかこの子に教えてあげたい。
妊娠したことがわかった私たちはビニ公爵邸に移り、ボナデアお母様のもとでお腹の子を育てることにしたわ。二人っきりの生活も良いけれど、ライオネル殿下が皆でお腹の子に話しかけたほうが胎教に良いからと提案したからよ。
だから、毎日私のお腹にいる子は、愛に溢れた言葉をたくさんの人からかけてもらっている。ボナデアお母様とエルバートお父様は、必ず私に話しかける時にはお腹の子供に向かっても声をかけた。カサンドラ王妃殿下は初孫の誕生が待ちきれないと、頻繁にビニ公爵邸を訪れては、私の体調を気遣ってくださった。アルフォンソ国王陛下もカーマイン王太子殿下もミラ王女殿下も、暇を見つけてはこちらにいらっしゃる。
私の子供の周りには愛と善意しか存在していないわ。
もちろん、マリエッタやニッキーも私のお腹の子を待ちわびてくれている。ジョディやアーリンも顔を見せてくれて、楽しみだと心の底から言ってくれるの。友人がいることは、人生を何倍にも豊かにしてくれるんだと実感する。
子供にかけられた言葉のどれもが、キラキラと光り輝く魔法のようだった。優しい言葉だけが紡がれて私の子供に届くのよ。私はとても幸せな気持ちでゆったりとお腹の中の子供の成長を楽しめた。
お腹の中で子供が蹴っている様子を感じると、男の子かもしれないなと思ったり、美しい花を見ていると、お腹の中の赤ちゃんも一緒に見ているような気がして、優しい女の子かもしれないと思ったりした。結局のところ、私たちは男の子でも女の子でもどちらでも良かったの。生まれてきたら全力で可愛がるもの!
☆彡 ★彡
やがて、陣痛が起き、その痛みは想像を絶するものだった。陣痛によって引き起こされる痛みは、腰や背中にも広がり、身体が真っ二つに裂けるかもしれないと思ったほどよ。
痛い、痛い、痛い! こんなに痛いことって初めてだわ。
私は死んでしまうのかも、というくらい辛くて自然と涙が出てきて、付き添っているライオネル殿下の顔が霞む。
「ラ、ライオネル様・・・・・・ライオネル様。助けて・・・・・・痛い、痛い、痛いぃーー」
我慢できずに手を握りしめて叫ぶと、しきりにライオネル殿下が謝る。
「済まない。ソフィ、可哀想に。私が代わってあげたいくらいだよ。あぁ、神様! お願いします。私の最愛を苦しめないでください。ソフィ、大丈夫だ。もうすぐ終わるよ。あと、もうちょっとだ」
私があまりの辛さに泣いていると、ライオネル殿下は両手でしっかりと私の手を握りしめ、途中から私をあやすように励ましてくださった。それがなにより心強く感じた。それからはあっという間で、部屋中に赤ちゃんの声が響き渡り、私は気を失うように深い眠りについた。
「元気な男の子だよ。ソフィ、ありがとう! 本当にありがとう。お疲れ様だったね」
目覚めると私の側にはライオネル殿下がいて、生まれたばかりの赤ちゃんはボナデアお母様が抱いていた。
「とても素晴らしい男の子ですよ。ソフィ、頑張って偉かったわね。どこから見ても非の打ち所がない赤ちゃんです。孫が抱けるなんて、これほど嬉しいことはありません。ソフィ、ありがとう」
ボナデアお母様が涙を流していた。
「大恩あるボナデアお母様に最初の親孝行ができたかしら?」
「親孝行ならとっくにしてもらっていますよ。ソフィがこの国にやって来た時から、私は娘がもてたと喜んでいましたからね。ソフィがこの世に存在して元気で明るく生きている、それだけで親孝行ですとも!」
ライオネル殿下も私に感謝の言葉を何度も囁いてくれた。あれほど痛くて辛かったお産も三日も経つと薄らいでいくらしい。
「ライオネル様、次は女の子を生みたいわ。愛らしいとっても優しい女の子よ」
私は大好きな夫の胸にもたれかかりながら、愛おしい我が子を抱いて、そう囁いたのだった。
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