第39話 卑怯なカロライナ国王
「わっ、私だってカメーリア殿下のような我が儘な方とは一秒でも一緒にいたくありません。ですが、お父様の命令で仕方なくここにいるのです」
「こらこら。くだらない喧嘩はやめなさい。ライオネル殿下、驚かせて申し訳ありません。この子たちはいつもこうなのですよ。こうして言い争っていても、一晩たてばお互いケロッとしております」
「今現在の状況からは、明日も和やかに話し合う光景が見られるとは思えませんがね」
私は苦笑してカメーリア殿下たちを観察していた。お互い本気で嫌い合っているようにしか見えないのだ。
「カメーリア、ハローズ公爵令嬢に謝りなさい。今のは誰が見てもお前が悪い」
「だって、私がライオネル殿下とデュエットするはずでしたのに、ハローズ公爵令嬢がそれを奪ったのですわ」
このままでは、彼女たちの喧嘩は激しくなり、収拾がつかなくなりそうだ。
「でしたら、私達4人でヴァイオリンを弾きましょう。ヴァイオリンカルテットは、クラシック音楽や室内楽の演奏で広く活用されています。4人のヴァイオリニストが協力して演奏するため、多彩な音色とハーモニーを生み出せます」
皆で楽しむことが一番の解決策だと思った。
「だめです! 私はライオネル殿下と2人だけで練習をしたいのですわ。私とだけデュエットしてください。そうよ、この私だけを見てください!」
「はい?」
私はカメーリア殿下をじっと見つめた。彼女はさきほどまで冷静に芸術について語っていたのに、今ではまるで別人のように、血走った目で私を訴えるように見つめていた。
「カメーリア。お前はもう部屋に下がりなさい。君たちも屋敷に戻る時間だ。馬車で送らせるゆえ、気をつけて帰りなさい」
カロライナ国王はため息をつき、困ったように微笑んだ。
「あの女性たちはカメーリア殿下の友人ではないですよね? なぜ親友のふりなどさせたのですか?」
「ふっふっふ。やれやれ、あっという間にバレてしまいましたね? それはライオネル殿下に友人がたくさんいらっしゃるからですよ。同じように共通点があれば、カメーリアにもチャンスがあるかと思いましてね」
「はい? なんのチャンスですか?」
「カメーリアはライオネル殿下に一目惚れをしました。ライオネル殿下にはお好きな女性がいると、わかっていても諦められなかったのです。なので、あなた様と話を合わせようと必死でした。可愛い乙女心をどうか察してやってください」
「申し訳ありませんが、私には既に心に決めた女性がおります。カメーリア殿下の期待には応えられません」
「はい、それで良いのですよ。騙すような形になり大変申し訳ありませんでした。ところで、明日の早朝は『夜明けの鷹狩り』を予定していましてね。ご一緒にいかがでしょうか?」
「いや、狩りはそれほど好きではないので遠慮申し上げたい」
「お詫びに美しい白い毛皮を持つ雪兎が、豊富に生息している穴場にお連れしましょう。雪兎の毛皮は非常に希少で、女性たちの間で特に人気があります。メドフォード国で待っているご令嬢への、ちょうど良いお土産にもなりますよ」
主だった貴族たちが夜明け前に王宮に集まることになっており、周辺の森林地帯で鷹狩りを楽しむということだった。ソフィの笑顔がちらついた。春とはいえメドフォード国でも、夕方から夜にかけては肌寒いことがある。雪兎のマフやストールがあっても邪魔にはなるまい。
「でしたら、よろしくお願いします。音楽文化交流会は夕方からでしたね?」
「はい。鷹狩りは早朝の二刻(にこく)ほどで終わります」
☆彡 ★彡
私は、カロライナ城のゲストルームに身を横たえていた。朝早く、日の出前の時間帯で、部屋はまだ真っ暗だった。厚いカーテンが窓を覆っており、部屋の中は静寂に包まれ、外では鳥たちの微かなさえずりが聞こえていた。
私はゆっくりと目を開け、暗闇の中で天井を見上げる。窓からはまだ一筋の光も差し込んでおらず、夜の余韻が残る空間で、新しい日の幕開けを待つ静けさを感じていた。
「ライオネル殿下、早朝の鷹狩りの準備の時間です。日の出前の幻想的な空を背に、楽しい狩猟の冒険が待っております。ご準備いたしましょう」
カロライナ王国の侍従が、私を鷹狩りのために起こすべく、扉を軽く叩きながら優しく声をかけてきた。支度を整え、カロライナ国王のもとへ急ぐ。
カロライナ国王と私は、鷹使いとともに狩りの準備を整え、馬に跨って移動した。冷たい朝の風が私たちの服をなびかせ、期待と興奮が心を高揚させた。
鷹使いが訓練された鷹を手にし、鷹の翼音が風に乗って響く。鷹使いの指示に従い、鷹が高空から鋭い目で獲物を見つけると、カロライナ国王と私は馬から降り、鷹使いと協力して狩猟を進めていった。
空高く舞い上がる鷹の姿が美しく、鷹使いの指示に従って獲物を見つける瞬間は興奮と期待に満ちていた。数匹の雪兎を捕えることに成功し、その狩りの成果に微笑んだ瞬間、頭を鈍い衝撃が襲い、私は意識を失いかけた。
「例の薬を飲ませろ!」とカロライナ国王が命じる声が響いた。私は何か怪しい液体を無理に口に含まされた。
視界が徐々に狭くなり、周囲の物体がぼやけていく。まぶたは重く、まるで鉛のように感じられた。頭の中には静かな波のような音が広がり、思考は次第に滑らかになった。
まさか・・・・・・これは毒? 私はここで死ぬのか?
「ふふふっ。やはり、ライオネル殿下の気持ちを惹きつけるのは、妹には無理だったようです。ですが、あなたの賢さや誠実な性格を確認できたことは大きな成果でした。私の義弟になるのに相応しい方です」
「きさま、なにを飲ませた?」
「ふっ。催眠作用のある薬ですよ。しばらくの間、お休みになってください」
「音楽交流会はどうなるんだ?」
「そんなものはいくらでも延期できます。ご心配なさらず」
「このようなことをしてメドフォード国を侮るな! 父上や兄上はお前に必ず報復するだろう」
「大丈夫ですよ。この薬には記憶を失う作用があります。あなたは今の出来事も、最近起こったできごとさえもすっかり忘れてしまうのですよ。あっはははは! ライオネル殿下は鷹狩りの際に落馬し、記憶喪失になったのです!」
記憶喪失? そんなことがあっていいわけがない。ソフィ・・・・・・ソフィ。
私はソフィの名前を呼びながら意識が途切れていった。私に同行していた騎士達は、敏捷な動きをする男たちに拘束され、すでに地面に倒れている。
ソフィ、愛しているんだ。絶対に君を忘れない・・・・・・
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※二刻(にこく):2時間
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