第38話 非難するカメーリア殿下 ライオネル殿下視点

「さて、せっかくだから君たちも一緒にライオネル殿下と話をしないか? 一緒に楽器を奏でても楽しいし、良かったら夕食も食べていくと良い」


 カロライナ国王は温かい笑顔で、カメーリア殿下の友人たちに声をかけた。その言葉遣いと態度からは、まるで長い間続いてきた親しい関係があるかのような、気軽で心地よい雰囲気が漂っていた。


 彼女達はその場に残り、私とカメーリア殿下の話に加わることになった。私は彼女たちと語らいながらも、寒冷な国の気候に適した王宮の屋根の強靭で頑丈な構造に感心していた。


 メドフォード国の北に位置するカロライナ王国は、冬の嵐や大雪に備える必要がある。そのため屋根の勾配は雪が積もりにくく、雪が滑り落ちるのを助けるように設計されていた。


 王宮内における来賓のためのサロンは、さらに美しい空間へと続き、その一部には壮大な温室が設けられていた。

そこは、厳冷な冬の季節でも、自然との接触を楽しむ場所として利用されているようだ。


 温室内では様々な種類の植物が育てられ、王宮の住人や訪問者に癒しとリラックスの空間を提供していた。その設計はエレガントで美しく、植物の生長環境を最適化するための最新の技術が駆使されていた。


「カメーリアはとても友人が多いのですよ。自然と人から好かれ、いつのまにか中心人物になっているタイプです。ですから、王宮にはいつも友人達の笑い声が絶えない」


「それは素晴らしいですね。友人は人生における宝ですからね」


 彼女の音楽や絵画についての情熱、それに私との共通の興味が似すぎていた。なぜ私とこんなにも共感するのか、それが不思議でならなかった。


 カメーリア殿下の言葉に耳を傾けつつ、自分たちがこんなにも深く繋がっていることに戸惑いを感じ、運命や偶然の不思議さに考えを巡らせた。


 もしかして、この共感は何か特別な意味を持つのだろうか?


 私は冷静に周りの人々を観察することにした。ハローズ公爵令嬢たちは常に微笑んでいるが、私達の話に積極的に参加しようとはしない。ただ、相づちを打つことだけを熱心におこない、その場を和やかな雰囲気にしているだけだった。


「カメーリア殿下とは、さきほどの曲以外にもどのような曲を演奏してきましたか? その際、どの曲が難しかったですか?」


「え? なぜそのようなことをお聞きになるのですか?」


 私の問いに、彼女達は一瞬戸惑い、カメーリア殿下の顔を不安そうに見つめた。


「バッハンの『二重ヴァイオリン協奏曲』を演奏しましたわ。バッハンの作品は技巧的で、私たちにとってはかなり難しかったのですが、なんとか成功させることができました」


 カメーリア殿下はにっこりと微笑みながら答えたが、ハローズ公爵令嬢たちは私から微妙に目を逸らせていた。


「頻繁に3人で弾いているのなら、かなり完成度は高いのでしょうね。ぜひ聞いてみたいですね。少しで良いので弾いてくださいませんか?」


 こんな簡単な提案にも、二人はカメーリア殿下の顔をちらちらと見ていた。確かにカメーリア殿下は王妹であるから、身分は彼女達より上で、気を遣う気持ちはわかる。


 だが、その視線があまりに自信なさげで、幼い頃からの親友に向ける眼差しとは思えなかった。このふたりは本当に幼い頃からの友人なのだろうか? 


 3人がヴァイオリンを弾き出すと、私は目を閉じながら神経を音に集中させた。この3人の技術の差は大きすぎた。本当に幼少期から一緒に演奏していた場合、技術や演奏スキルの均一性が期待されるのだが、ハローズ公爵令嬢の技術が一番突出していた。それに続いてティーガーデン侯爵令嬢で、最後はカメーリア殿下だった。


「私とのヴァイオリンデュエットはハローズ公爵令嬢にしてください。その方が良い演奏になりそうです。彼女が一番上手ですからね。技巧も表現力も最高でした」


 試しにそのように私が提案してみると、カメーリア殿下はすぐに本性を現した。


「ちょっと! ハローズ公爵令嬢! あなたは実力を出しすぎたのですわ! 私より上手に弾かないように、あれだけ注意しましたわよね? なぜ、自分だけ目立つようなことをなさるのかしら? だから、私はあなたが、ずっと嫌いだったのですわ」


 カメーリア殿下のさきほどまでの朗らかな口調は消え、ハローズ公爵令嬢を激しく非難したのだった。

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