第40話 用意周到だったカロライナ国王 カロライナ国王視点
ライオネル殿下を迎える前日、私はカロライナ王国で最も優秀な錬金術師アルケムスを訪ねていた。アルケムスの屋敷は森の中に佇んでおり、周囲には高い木々と薄い霧が立ち込めていた。
屋敷自体は大きな曲線を描く紫色の塔のような建物で、その外壁には星座や魔法陣の模様が彫刻されていた。その複雑なデザインは錬金術の力と知識を象徴しているかのようだった。
内部のアルケムスの研究室は、巨大な書棚と古代の魔法書で満たされており、知識の宝庫になっていた。テーブルの上には試験管や錬金術の材料が並び、さきほどまで実験をしていたような形跡があった。
部屋の中には小さな星座の模型が浮かび、宇宙の神秘に対するアルケムスの探究心が感じられた。
「アルケムス、久しぶりだな。実は大事な頼みがあるのだ。今から遡ること2年ほどの記憶を失う薬を作ってほしい」
「ほぉ、それはまた珍しいことをおっしゃる。なぜ2年限定なのですか?」
「その男性からある女性の記憶を消したいのだよ。その女性だけの記憶を消すことも、お前ならばできそうだが、それだと怪しまれる」
私はある高貴な男性の最近の記憶を抹消してほしいこと。そして、その男性の護衛騎士達の記憶を微調整してほしいことを依頼した。
「そのようなエリクサーをつくるとなればかなり高価です。相手が国王陛下といえど、きっちり代金は請求しますよ」
「もちろん、お前の望む額をやろう。妹の初恋を実らせるのと、我が国の繁栄のためだ」
アルケムスは痩せ型で、私よりかなり背が高い。深紫色の髪が頭の周りで軽く波打っていた。瞳は深い琥珀色で、その中には知識と魔法の光が輝いていた。
「その高貴な男性の名前も身分も聞かないでおきましょう。私は事件に巻き込まれるのはごめんです」
そこで待つこと3刻(さんこく)。彼はできあがったエリクサーの説明をしてくれた。まずはポーションとエリクサーの違いについてだ。ポーションは効果の持続時間が限定的であり、一般的に数分から数時間まで。エリクサーはより強力で永続的な効果を持つ。
ライオネル殿下に使用するものは、記憶の一部を封印する魔法的な効果を持つものだ。エリクサーの主成分は、特別な魔法の植物や鉱物から抽出された成分で構成されている。エリクサーを摂取することで、脳内の特定の神経回路にブロックがかかり、その期間中の出来事や情報が記憶から抹消されるというものだった。
一方、護衛騎士に使用するものは、記憶の差し替えを行う魔法的な効果を持つ。このエリクサーは、特別な魔法の符号や呪文が込められた錬金術的な調合物から成り立っているとのことだった。摂取されると、エリクサーは被験者の脳に直接干渉し、特定の記憶を変更または差し替える。
ライオネル殿下が落馬した場面を記憶操作エリクサーを用いて操作する場合、護衛騎士の記憶に新たな情報を挿入し、彼らがその出来事を目撃したかのように錯覚させることができる。これにより、護衛騎士は自身の記憶を忠実に信じ、それを事実として受け入れるのだ。
これらのエリクサーを準備しておけば万全だろう。
私はカメーリアを全面的に信じてはいなかった。妹は美しいが愚かなのだ。もちろん、最初の作戦がうまくいき、ライオネル殿下が自然にカメーリアに好意を持ってくれればそれが一番良い。
しかし、カメーリアの短気な性格が災いして失敗する可能性もあるし、ライオネル殿下の洞察力が素晴らしくて真実が見抜かれる場合もある。保険はいつでも必要なのだ。
第一の作戦が失敗した場合、鷹狩りに誘いだし背後から襲う。それから、このエリクサーを飲ませてしばらく休んでいただく。目覚めた時にはカメーリアが側にいて、甲斐甲斐しく世話をすれば良い。
人は、身体が弱っているときは心も弱っているものだ。そのような状況で、共感と献身的な支えが提供されれば、好意が自然に芽生えるはずだ。
どちらにしても、私は狙った獲物は逃さない。
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※3刻(さんこく):3時間のこと。
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