第27話 お姉様が大嫌いだった ヴィッキー視点

 メドフォード王国の王弟と結婚したのに子供に恵まれないボナデアお姉様に、ソフィを会わせたのは意地悪とほんの気まぐれからだった。いつも冷静で優秀だったボナデアお姉様が、自分に似た姪を見て、どんな顔をするのか見たかった。


 あの時のボナデアお姉様の顔は忘れない。まるで宝物を見つけた子供のように目を輝かせて、ソフィを優しく抱き寄せたのよ。


 なんで悔しがらないのよ!

 ボナデアお姉様は、神に感謝さえしたわ。

 

「ソフィと会えたことを神に感謝します。私はあなたの伯母のボナデアです。こんな嬉しい日はありませんわ。ヴィッキー、この子のことでなにかあったら、どんな些細なことでも私に相談なさい」


 一瞬のうちに、ソフィはボナデアお姉様の心をつかんだ。初対面のその瞬間から、彼女たちは驚くほどすぐに親しみを感じ、まるで母と娘のように互いに寄り添い、軽快なおしゃべりが始まった。

 

 同じ雰囲気を纏っている二人に、嫌悪感が湧き上がった。ソフィが元々ボナデアお姉様に似ていることに違和感を抱いていたが、ますますその違和感が増していく。


 それから、ソフィを見るたびに、ボナデアお姉様の姿が重なるようになってしまった。私は幼い頃からボナデアお姉様が嫌いだったのに。


 ボナデアお姉様は私達とは異質の存在だった。いつも難しい本を楽しそうに読み、とても自信に溢れていた。自分の信念をしっかり持ち、誇り高く生きるボナデアお姉様は苦手だ。


 私達の両親は女の子に学問はいらない、と言った。でも、他家の貴族達皆がそうであったわけではない。私は機会がある毎に、ボナデアお姉様と比較された。


それはお茶会だったり、寄付を行ったり慈善団体のために募金を集めたりする社交イベントの場などで、話題にされた。裕福な貴族や社会的エリートが集まる場では、名家の子供の優秀さを話題にすることがある。


 その情報源は自分達が雇っている家庭教師だ。シップトン王国では、貴族の家庭教師たちは、特別な集会や社交の場で定期的に交流する。ここで彼らは、自分の教え子たちの成果や才能を、自慢し合う機会を持つ。どの教師がどの貴族の子供に何を教えているか、そしてその教育がどれだけ成功しているかが話題になり、評判が広まるのよ。


 つまり、私たちの家庭教師たちも、私がどれほど劣っているか、ボナデアお姉様がどれほど優れているかを他の家庭教師たちに話していた。そのため、私は非常に軽んじられていた。それに加えて、妹のジョハンナについても否定的な言葉が浴びせられた。ボナデアお姉様はあまりにも優れすぎていて、私達妹二人は愚か者だとされた。


 私達が悪いわけではないわ。

 優秀すぎるお姉様が悪い。

 女性が勉学に励んだり、努力しすぎるのはおかしいわよ。



 とても居心地が悪かった。それでも、他の家に嫁げば、お姉様やジョハンナのことで色々言われることはなくなるだろうと思っていた。けれど、その時期を心待ちにしていたとき、お姉様は突然留学して家を出て行ってしまう。


 急遽、私がこの家を一族の男性と結婚して継ぐことが決まってしまった。好きな男性はいなかったけれど、次女としてはある程度の自由な恋愛を許されると信じていたのに。


 お姉様のせいで、惨めな思いをしてきたわ。そして、好きでもないチャドとの結婚を押し付けられた私は被害者よ。私って本当に可哀想だと思うわ。


 だから、ボナデアお姉様は嫌いで、それに似ているソフィも苦手よ。実の娘であるにもかかわらず、可愛いと思えない私が悪いのかしら? いいえ、ボナデアお姉様に似て生まれてしまったソフィのせいだと思う。


 ボナデアお姉様とソフィを会わせてからというもの、ボナデアお姉様からソフィに頻繁にプレゼントが届くようになった。


 春祭りには緑の宝石、夏至祭りには赤い宝石、収穫祭には琥珀色の宝石、冬至祭りには青い宝石と律儀に贈ってくる。


 そんなにソフィが可愛いの? 気に入ったの?


 心に暗く重苦しい感情が渦巻いていくようだ。怒り、嫉妬、意地悪な心がはびこっていく。


 プレゼントなんて渡してあげないわ。添えられた手紙だって燃やしてしまえ。二人の手紙は私が全部処分した。それでもしつこく贈り物が届く。それも癪に障った。



 それからは、ますますソフィに無関心になった。ソフィの傷つく顔を見ると、なぜか心が安心する。この感情が良くないことはわかっていたが、ボナデアお姉様への復讐を果たせた喜びに包まれていた。







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