第26話 生まれ変わったソフィ? ヴィッキー視点 

「ジョハンナ伯母様、私は誘拐ゆうかいなどされておりませんわ。私の方からボナデア伯母様に助けていただけるようにお願いしたのです。それに、先ほどの発言はとても失礼だと思います。ボナデア伯母様への謝罪を求めます」


 女神様のようだと思ったその女性の顔をよく見れば、ソフィに似ているし声もそっくりだった。でも、明らかに今まで見慣れていたソフィとは別人だわ。背筋をまっすぐに伸ばし、ジョハンナと目を合わせて、ゆったりとした口調で話しかけていた。


 今までのソフィは背中を丸めて前かがみになりがちだったし、誰と話す時でも視線を相手の方に向けることが難しい子だった。声も小さく、はっきりと話せないことも多かったし、表情もとぼしく笑顔を見せることも少なかった。


 この子は変わったのだわ。今までのソフィじゃないのよ。


 ソフィに反論されたジョハンナは、まだソフィが以前のままだと思っているようで、あなどるような表情を浮かべていた。


「まさか、あなた、ソフィなの? ずいぶんと垢抜あかぬけて、お化粧映えもするようになったわね? だからなのかしらぁーー? ずいぶん、生意気な口をきくようになったじゃない? 言っておくけど、ボナデアお姉様は確かにビニ公爵夫人でお偉いわよ。でも、あなたはラバジェ伯爵令嬢なのよ? ボナデアお姉様に取り入って、自分まで偉くなった気でいるなんてお馬鹿さんよねぇーー」


「爵位のことを問題にするなら、ジョハンナ叔母様はバークレー男爵夫人ですよね? ラバジェ伯爵令嬢である私に対する礼儀が欠けていると思います」


 ニヤニヤしているジョハンナを冷静な瞳で見つめているソフィは、口元に余裕の笑みまで浮かべてそう言ったわ!

 その口調はボナデアお姉様そっくりだった。


「ソフィの言う通りですよ。身分をわきまえなさい。それにしても、ジョハンナも立派になったものねぇ? いつも家庭教師から逃げ回って、まともに勉強をしているところなど見たことがなかったあなたが、エレガントローズ学院で成績優秀なソフィを馬鹿にするなんて。ソフィが姪だからといって、なんでも言って良いわけではありません!」


 二人にやり込められたジョハンナは、真っ赤になって私に助けを求めた。


「ボナデアお姉様。今は、昔の私達の成績など関係ないでしょう? 私はソフィの母親として、守ってあげる義務がありますのよ。ですから、誘拐犯になるのがお嫌なら、ソフィを返してください。ソフィ、ジョハンナはあなたの叔母様なのよ? 今の言葉は失礼でしょう?」


 私がソフィに、人としての道を説き始めると、ボナデアお姉様がさえぎった。


「ヴィッキー! あなたが諭すべきなのはジョハンナですよ? 娘をけなされてヘラヘラしている母親がありますか! しっかりなさい。あら? ココのエメラルドのネックレスとイヤリングは、私がソフィに贈ったものだわ。なぜ、ココがつけているのかしら?」


 そうだ、確かにあのエメラルドは、ボナデアお姉様からソフィへの贈り物だったわ。私が何度も身につけた後、ソフィの誕生日プレゼントとして再包装したものだったのよ。


「これはヴィッキー伯母様からいただいたものですわ。本当はソフィの誕生日プレゼントだったのですけど、私のブレスレットと交換してもらいました」


「あぁーー。ソフィから聞いていますよ。ココは人の物をやたらに欲しがる子に育ったようね? ジョハンナに似て可哀想に。まるでしつけのされていない小猿ではありませんか。それをいさめもしない、ジョハンナもヴィッキーも母親失格ですわ」


 メドフォード国の貴族達は小さな猿をペットにすることもある。だからこのような表現がされたのだろうが、二人の王子達は笑いをこらえるのに必死だった。


 

しつけのされていない猿のほうがまだお利口ですわよ。比較される猿がとても可哀想です」


 金髪でヘーゼル色の瞳の女性が、不快感を表す表情を浮かべた。


「うっ、うるさいわね! 早く気をかせて帰れって言ってるの! なんでまだいるのよ。だいたい、部外者が口をはさまないでよ!」


 バークレー男爵がジョハンナの口を押さえて、これ以上しゃべらせないようにと私は願ったけれど、彼も同意見だったようでしきりに頷いていた。


  

「うふ。私はメドフォード国の王妃ですから、部外者ではありませんわ。この国に珍獣が迷い込んだのですもの。我が国の平和と秩序を守らなければなりません」


「ふむ。儂はメドフォード国の王だが、珍獣は檻にでも入れておくのが一番だと思う」


 あぁ、まずいわ。檻って牢屋ってことかしら? 不敬罪で鞭打ちになるのかしら・・・・・・。


「奥様、サロンにお茶をご用意しました」


 不穏な空気を一瞬で打ち破るように、ビニ公爵邸に聞き覚えのある声が響いた。信じられないけど、その声の主はなんと、ラバジェ伯爵家を辞めたリゼだった。


「こんな場所で何をしているのよ? 私を裏切ったのね?」


「いいえ。最初から私はビニ公爵夫人の専属侍女でございますので、その表現は正しくありません」


 その瞬間、私は初めて、全てがボナデアお姉様に仕組まれていたことを悟った。


「卑怯です。ボナデアお姉様は、私をずっとだましていたんだわ」


 私は怒りに任せて、非難の言葉を並べようとした。けれど・・・・・・


「あら、ヴィッキーが身につけているそのブレスレット。それも私がソフィにプレゼントしたものだわね」


 しまった。そう言えば、本当にそうだったかもしれない・・・・・・。まずいわ。


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