第9話 壮絶な試練

こうして俺は闘技場に嫌々と出されることになってしまった。


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4日ということを聞いて思うことはあるだろう。仕事に熱心に取り組む、食事をたっぷりと食べて、のんびりと過ごす。遠征をして冒険でもする。


だが、俺の頭に残る4日は少なくともこの一生で思い出深いものになるだろう。

なぜなら俺は4日後に闘技場に出なければならない


4日だぞ、4日!なんとキリの悪い数字だ。

それなら3日とか5日にしろよ。


まあ、そこまで状況は変わらないのだが。

いい加減、ファーガスは嫌な野郎だぜ。


エスバーンとファーガスの争いに巻き込まれた俺だが、明らかにまずい。

早速逃げたいのは山々なのだが、そう簡単にはいかないだろう。何をされるのかわからない上に、俺は一人で行動するわけではない。


今のうちに何とかしないと4日後に俺の命日が来るだろう。


最上位クラスのパラディンに目を付けられるのは最悪な気分だ。

パラディンのくせに権力を振りかざしてやがる。

もっとタチが悪いのが、あいつは俺を速攻で牢屋に閉じ込められるような存在ってことだ。でもそれをしない理由とはなんだ?


まさか俺たちを利用して闘技場で戦うとでも言ったのか??いや、そもそもおかしいんじゃねえか?なんでわざわざ自分の部下みたいなやつらを闘技場に出してけんかを済ませないんだ?




なぜあいつが俺のような盗賊に執着するのかわからねぇ。


ファーガスは余程俺を気に入らないのか、もしくはなにかを求めているのかは定かではないが、俺が逃げた時のことまで考えてやがる。あの野郎が残した言葉が…


「逃げたら殺す、喋ったら殺す、盗賊っぽいことをしたら殺す。いいな!」


盗賊っぽいことってなんだよ…そんなに嫌いなら俺をここから出させろよ。別にパラディンなんかに喧嘩売りたいわけではないしさ。


だが、仕方ねえ。エニグマの情報を聞けるチャンスがあるなら存分にやるしかない。


ファーガスが言うには闘技場までに4日ある…



とりあえず俺はエニーテに会わなければいかねぇ。そしてウェンデルの旦那に闘技場のことを言わないと…


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さては、エニーテはどっか行ってないだろうな。


そこまで遠い場所にはにはおいてないはずだ。俺はある便利屋の看板のところに置いたはずだ。そこなら安全だからと。


だから俺はそこに行ってきたのだが、早速問題が起こる。エニーテがいない。

よそ道に行ってないだろうな?


あいつはとっつき歩くようなやつなのか?


もしくは店に入ってきたのか。


とりあえず慌てずに入ってみよう。


そして俺は便利屋のドアを開けて入った。そこには二人の面影がある。

一人はエニーテで、そしてもう一人は俺がしばらく会いたくなかった野郎だ。

そう、ブレーゼンに合ってしまった。


「お!オープン・ザ・ドアじゃないか!」


俺がこいつに合いなかった理由の一つはこのふざけたあだ名だ。


ブレーゼンは俺の名前をドーレンではなく、ドアーリンとか読んでいた。

確かにそこまでは間違っていないし、気にしてはなかったが、急にこいつが

俺が鍵のかかったドアを開けていることからオープン・サ・ドアと呼ばれるようになってしまった。


その理由はなぜかこいつにとって呼びにくかったらしいのと、このあだ名と呼ぶ方がしっくりくるらしい。そして、なぜこのあだ名に抵抗があるのかというとそもそもどっちのドアを示していたのか分かりづらい時があったのである。それと、スモールワールドの連中が馬鹿にしやがる。だが、もちろん響きもあまり好きではない。格好よくないしな。


「ブレーゼンか、どうしてこんなところに…」


「昔お前に行っただろう、俺は王国で冒険者になると」


こいつが冒険者か。それには納得するところもある。初っ端からこいつには盗賊らしき特徴はない。こいつの大きさでよくわかる。


「そうだったな、で、何でエニーテとここにいるんだ?」


「なんだ、この子の連れはあんただったのか、ドーレン」


「そうだが…」


ブレーゼンは俺に対して大声で話した。


「お前…乙女を一人にしてなにを考えている!この子は野蛮な連中に襲われる所だったんだぞ!」


襲われそうになっただと?どうしてそうなる?こいつが普通にしていればそんなことは起こるはずがない。だから店の前に置いたのに、やはり王国でもこんな汚れたことをしでかすのか。


それにエニーテも確かに落ち込んでいる様子ではあるから嘘ではないだろう。とりあえずこいつに感謝しないといけねぇようだ。


「そうだったのが、そんなことになるとは。悪かった」


「あまりにも酷いぞドーレン、彼女にちゃんと直接言うんだ」


「…分かったよ」


ブレーゼンは他の人になるとむきなってしまう。俺は謝るのは好きではないが、この状況では俺が中止なかったのが悪いのもある。それに、今後にも響くしな。

俺はエニーテに向けて嫌々と謝った。


「危ない目に合わせて悪かった、エニーテ」


彼女は気まずそうに下を向いた。だが、怒っているわけではなさそうだ。


「この子を今後大事にすると約束しろ!」


ブレーゼンは手に腰を当てながら強く言った。そして俺は適当に返事を返す。


「ああ、約束するぜ。必ずな」


「ならばよし」


見ての通り、こいつは簡単に人の言うことを信じてしまう。そこがこいつの良いところではあるが、盗賊としては向いていない。逆に言えば、強さに関しては保証する。

色んな意味で敵にしたくはない奴だ。


「その件はともかく、ちょっと厄介ごとに巻き込まれちまった。ブレーゼンに聞いてもらうのも丁度いい」


一応この場も落ち着いたところで、俺はエニーテの状況と酒場のことについて話し始めた。


「ハハハハハ、お前はいつも面白いことに巻き込まれるな、ドーレンよ」


ブレーゼンは俺のピンチな状況に笑い飛ばした。今更だがこいつがどんな奴なのかを思い出した。この寛大な性格が妙に調子が狂う。


「笑いごとじゃねぇぞブレーゼン。俺はパラディンに目を付けられ、闘技場で強者と戦い、しかもそれが4日後という重量級の内容だ。冗談にもならねぇぜ」


「悪い悪い。ついあの頃を思い出してしまってな。お前と一緒にいると奇妙なことばかりが起こる気がするよ」


「俺はこんなもん望んでないんだがな…」


俺が置かれる状況はどうにも良いことか悪いことかはっきりとした内容ではない。だが、ひとつだけ言えることがある、後味がとてつもなく悪い。


「じゃあ、どうするんだ?逃げることもできるとは思うのだが…」


ブレーゼンの言う通りにはしたいところだが、エニーテがいる以上、それはしない方がいいだろう。


「いや、ここから逃げたら面倒でしかない。やはりここはウェンデルの旦那に相談するしか…」


「ウェンデル殿もここにいるのか、久しぶりに会ってみたいものだ」


「まあ、お前も一緒に旦那に会ってから考えるのもいいかもな」


「その前に、この便利屋って一体?」


この店にあるものは高級な道具などが揃っている。指に着けたり、手で持つようなものがここに揃ってあるようだ。ただの飾りとも思えない。

まあ、俺がここにお世話になるか分からないが。


「さあ、俺にも分からん、ここの店主はしばらく置いてはくれたがな」


「いや、ここに俺たちしかいなくないか?」


そして疑問を持ちながら俺たちは宿屋に向かうことにした。


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俺たちは宿屋に向かった。

向かっている最中に観えたものは活発に動く町並み、親しみやすい市場、そしてアートのように建てている平地。今まで以上に進みやすい感じとなっている。俺がいたところはデコボコの道が多くかったがために、毎回足に注意しながら進んでいたが、人が多く集まっている場所だとこんなにも違うのが改めて分かった。


しばらくして戻ってきたら宿屋の看板を見えた辺りに荷物の用を済ませたウェンデルがそこにいた。旦那は今まで以上に多忙であるのを感じた。少なくとも旦那が荷物だけでこんな忙しい理由にはならないと知っているつもりだ。


旦那に直接なにが起きているのかは気にはなるが、今はそれをよそう、嫌な予感がするしな。


ウェンデルの旦那は遠くから見て一瞬の隙ではあるが、不満げな顔をしたように見えた。旦那はいつも人に心配させないようにふるまってはいるが、俺も一緒にいた時間が長いせいかそれをなんとなく分かってしまう。これは勘とかではなく、単純に旦那が自然にすることだ。けどまあ、今回ばかりはきのせいだろうと信じたい。


ウェンデルの旦那は俺たちが来るほうを見ていた。


「これは、これは、珍しい人が来たな。ブレーゼンではないか!また昔みたいに何か悪いことでも企んでいるのか?」


「ウェンデル殿、違いますよ。俺はあの時から成長すると決めたんだ!今は冒険者になるためにここに来た」


「ほう、それもブレーゼンらしいちゃらしいな。冒険者になるためには苦労はするが、お前なら大丈夫だ。歴史を変えてやれ!」


「もちろんですよ、このブレーゼンがやって見せる!」


ウェンデルはおそらく冒険者という概念がこの国では密着していないということを伝えたいのだろう。確かにその通りだ。そういえば噂で聞いた程度だが、今は特歓迎ムードではない、っていう風な時期になっているようだ。


旦那はこういう風に遠回しに物事を言う時がある。はっきりとやめとけって注意するような人ではないし、そもそもブレーゼンのような人たちを信じたいって思い気持ちもあるのだろう。それが彼なりの優しさなのだろう。


「で、ドーレンが勝手に情報集めの途中ってところだろ?そうするなら俺に言えよ」


「すまねぇな旦那、それよりも厄介なことになってしまってよ…」


そして俺はウェンデルの旦那に今まで集めた情報と闘技場について話した。


「あー、なるほど…それは確かに面倒だ。でも俺に考えはあるにはある。ドーレンそいつは本当にファーガスって名乗ったのか?」


「ああ、そうだ。あんなめちゃくちゃな奴見たことがねぇ…」


「昔あんなはずではなかったんだけどな。彼に何が起こったんだろうね…」


余程のことが起きない限りあんなイカれたことはしねぇよ!

それにあの酒場のルールを決めやがったやつを絶対に許さねぇ。毎回面倒なもんを押し付けやがってよ。俺は情報を集めたいだけなのに、酒の付き合いはみんなの責任っていう馬鹿しかつくらない掟なんかいらんわ。


「考えたくはないが、念のため出場するしかないとなれば、考えるしかないよな」


「ではせっかくだ。修行というわけではないが、お宝の探検と行こうか。ブレーゼンも付いてくるといい」


「また出たのか?って言える余裕ないですよ」


「それを言うのも承知の上だ、だからこういう時こそ行くべきだと思うんだ。それに難しいことばかり考えたらそれこそ手の打ちようがない」


「つまるところではあるが、確かに言えてるな」


どう考えてもだめだっということは分かる、それにしても4日という壁は俺には大きすぎる。一方、旦那の言う通り新たな突破口が見つかるのなら賭けない手はない。ほぼ博打のような状況だしな。


「ところで、今回はどんなもんなんです?」


「そこまで詳しい情報を教えられないが、かなりの代物の武器らしい」


「勇者の剣とかって言わないよな?」


「それはない」


「期待して損したぜ…」


やはり俺には騎士が使うような剣は見つからないようだ。俺は武器を見ること自体結構気に行っている。別に剣だけにこだわっているわけではないが、武器を見た瞬間に湧き出る感情が思わず出てくる。それはお宝と近い感覚かもしれない。それに加えてたまには他の武器を使ってみたい。


俺は武器を見つけようもんならいつも使えなかったり、錆びついてたりと武器を手に入れることに関して運がないに等しい。その光景がフラッシュバックするだけで頭が痛い。


だからそれが俺の個人的な願望だ。真面目に勇者の剣とかならどれだけいいことか。

まあ、それも無理か、人を選ぶっていう逸話があるしな。


あとは闘技場に出るのであれば、それに相応しい武器は必要だ。俺はそれを持っていても形勢逆転とはならない可能性の方が高いのも防げはしないのが残念ではある。


「どうした、オープン・ザ・ドア。お前は勇者の剣が欲しかったのか」


「別にそこまでではない、それからそのあだ名で呼ぶのをやめろ」


「まあ、俺が見つけたような棒が見つかると良いがな」


ブレーゼンは喜びながら棒を見ていてた。俺にはただの嫌味にしか聞こえないし、自分が見つけた武器が羨ましいだろうという侮辱をしているようにしか見えない。めっぽう悔しいが、確かにこの棒には光るもんがある。


こいつの棒の先端には青い石のようなものがはめられている。それはその棒のエネルギー源のようになっている。そして、こいつが武器を振るとエネルギーがパワーアップして青い光の集大成が見える。


「じゃあ早速その場所を教えよう」


ウェンデルの旦那は地図でどこにあるのかを教えてもらい、そのところに向かった。


「俺はまた用があるから、戻ったら報告するといい。

あとエニーテをしっかり守れよ」


旦那はエニーテの様子を確認していたらしい、まだ緊張しているように見える。口数が増えてはいるものの、やはり盗賊二人に囲まれるのは少しハードルが高いのか?


それに、この探索は彼女の親には関係ないが、おそらく旦那は何かを考えてはいるか、なんらかの情報を掴んだのかと思いたい。これがそのカギになるのなら取らない手はないな。


「言われなくてもわかってますよ」


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こうしてお宝のあるところに進んだ。


俺たちが向かっていたのは王国の郊外である。なぜこんなにも盗賊がこの王国に潜入したいのかというとこの郊外でお宝があるからだ。そしてここに来るには王国に通らないといけない。つまり一人の人物として認識されることだ。多くの人にとっては酷なことではある。


ブレーゼンは旅の途中エニーテを気にかけていた。おそらく彼女の状態について感傷深く感じたのだろう。それも無理もない、盗賊といえどもそれを聞けば少しは同情する。ブレーゼンが温厚な奴というのもあるが。


「しかし二人とも大変だな、だって親探しのついでにエニグマを手に入れたいんだろう?もちろん親を優先するよな」


ブレーゼンは俺に向かって困っている顔をみせた。よほど俺の好きにはさせてくれないようだ。俺もさすがにそこまで落ちぶれてはいない。


「そうだ。約束したしな」


「ドア、絶対に探せよ!」


「するよ!なんでお前がそんなに必死なんだよ…」


「可哀そうって思うだろう。王国の兵どもよく子供をこんなひどい目に合わせるとは…許さん!」


ブレーゼンは王国に対するいら立ちを見せていた。とはいえ、こいつはここで冒険者として活動したいのが矛盾するところではあるのだが、こいつなりの理由があるのだろう。


エニーテは気遣いがありながらも困惑している様子だった。どういうわけか彼女は考えごとをしている。それは親の心配とは違う感じがする。


「王国はそんなもんだよ。それより着いたぞ」


俺たちの前にはある古い石の扉のようなものがあった。俺たちが行ったことがある洞窟ではこんなにも洞窟らしいものは置いてはいなかった。


「これは昔みたいに楽しめそうだなドア」


「だからそのあだ名はやめろ」


ブレーゼンは洞窟の前で張り切っていた。またこうやって人と協力しながら行動したのはいつぶりだろうな。俺あることに目が行った。それは盗賊の暗号が示しているに気づいた。


「この右のって何?」


俺がじっと見つめていたもんだからエニーテが珍しく興味を持って質問した。彼女が指したのは扉の横に石板のことだ。


「これは闇の暗号というもんだ。簡単な話、ここに盗賊が出入りしたのかがわかる」


「へぇ…」


「ドア、お前こんな面倒なことまで見てんのかよ。盗賊なら大胆に行くべきだ!」


「そんなことを言うのお前だけだぞ…」


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この暗号はあらゆる建物の前で隠されていることがある。今回の場合は洞窟だから躊躇もなく書いたのだろう。それからここら辺に盗賊はこないとも踏んだのだろう。


これを書く奴らは大体盗賊の偵察という奴らがやることだ。偵察ということは一番最初に探ることに当たるため、やりたがらない人が大勢いるが、洞窟がお宝が多い場合、その分リターンは高い上、成功したら盗賊の中で地位が得られる。死んだら無駄にはなるが…


この暗号を残すのは一つのグループというわけではない。複数違う盗賊が行く時がある。


ちなみに、ブレーゼンはああ言うが、これは盗賊にとっては大事な情報だ。どれだけ役に立つのかというと、他の言語の案内役を必要とせずに迷わないほどのものだ。これがあるのとないのとではかなり違う。


とは言っても、この暗号を全て信じきれるとはいえねぇ。なぜならエセの情報を書きつけてくる野郎がいるからだ。結局その暗号をきちんと読み解き、欺きを避けるのが筋ってもんだ。


けどそれは時々起こるケースではある。

なぜならもしも同胞の奴らが潜入して死んだら、そいつのせいになるからな。だから大体は少人数のグループのいたずらか、偵察の不真面目な怠惰さに当たると考えていい。


それはともかくとして、主に書かれる暗号はこうだ。


〇★✘▲≠

というのが主な並びだ。

これ以外にもあるが、洞窟では書かれていないもの多いため気にしなくていい。


〇は安全という意味だ。解釈的には魔物がほとんどいないか大人数で来たら余裕という時に書かれる。


▲は様子見という意味だ。偵察がまだ奥に入っていない時や、もしくは魔物が思ったよりも危険という時に使う。


▽は洞窟の中に何もなく、空っぽという意味だ。お宝がない時でも、こういうところを縄張りにする盗賊もいる。場所もある意味お宝にもなるって話だ。


✘は大いに危険という意味だ。これが書かれている時は魔物などの危険性が高めの場合か、洞窟のお宝探しが危険性に見合っていない場合。これを書かれいている時は警戒はした方がいいだろう。もちろん出まかせの場合もある、この記号を置くことで他の盗賊が入らせないように書くという手もある。


★はお宝の穴場という意味だ。これが書かれる時にはかなり多めのお宝が見つかった時に使われる。お宝が多いといっても、必ずしも全部取るわけではない。


最後に

≠はこの4つの暗号が間違っている情報を出している時につかう。例えば本当は✘の記号のレベルでは無いのに書く時に≠の記号をその他の記号の上に書くためにある。


ここに書かれていたのは

▲〇〇▲▽

という順だ。


そこまで危険性が無いのは確からしい。

それでもこの組み合わせは面白い。

最後に空っぽって書いてあるのに、旦那は確かにここに武器があると言ったんだ。

ということは隠し扉が洞窟の中にあるのか、それとも別の仕掛けがあるのだろう。

それならば、ここには面白そうなものがあるってことだ。

もしかすれば、俺はここで運が発揮したかもしれねぇ。


俺は石の扉を開いたら、下から開く音の振動が響き渡る。正にいにしえという感じだ。


「じゃあ、行こうか…」


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こうして俺たちは洞窟の中に入ることとなった。


ここは何というかかなりしっかりとしている部分が見受けられる。洞窟のような足場がありつつもここはなぜか重要な場所のように感じる。少しだけだが、あの暗号の意味が伝わってきてる。それにこの違和感もなぜか拭えない。これは不穏なのかどうかも分からない。ただ、違和感だけが残っているんだ。


恐らくこれはないと思うのだが、あいつらの声を聞かないことを願う…幽霊とかな。


「ドーレン、どうしたの?」


エニーテは早速俺が考えていたことに気が付いたようだ。


「いや、ここは変な感じがすると思っただけだ」


「おい、ここにきて怖がるとか、情けない」


「うるせぇ!そんなんじゃねぇ…」


ブレーゼンは俺を大袈裟って思いつつも上を見渡していた。周りをちゃんとみたらかなり広いようだ。まだなにかはありそうって肌で分かる。


「確かに、ここって変な感じはするよな。罠とか踏んでたりして、ハハハハ!」


「そんなこと言うんじゃねぇ!本当に起こったらどうすんだよ」


「あっ」


そしたらブレーゼンは何かの仕掛けを踏んでしまった。

俺は嫌な予感、というのを感じたのではなく、ある隠し道のようなものが開いたようだ。


「罠じゃなくてよかったな、馬鹿が」


「まったくだ」



その仕掛けの向こう側に行ったら道の周りに水が滝のように下に流れていた。ここは癒しのスポットかって思うぐらいだ。エニーテはこの景色に見とれいていた。まさにお散歩気分だぜ。


「ドア、これを言うのは唐突かもしれないが、なぜそこまでエニグマにこだわるんだ?」


俺はブレーゼンの質問に驚いた。こいつがなぜこの質問をしたのかが理解できなかった。だが、俺は気を取り直して俺の意思を伝えた。


「へっ、俺はよ、王国を踊らかしてやりたいんだ。そうする方が楽しいってもんだろ」


「踊らかしてやるか、なるほどな」


どうやらブレーゼンはその答えで納得したらしい。何を聞きたかったのだろうか。

一方エニーテは深く考え込んでいるようだった。何かは知らないが、心配をしているようだ。これは親のことなのだろうか。なぜ今そういう感情を持っているのか気にはなるが、重要ではない。


そしてまた前に進むと、上に続いている道が見えてきた。上がっていってみれば、光る石や生き物が見えてきた。これはさすがに危機感が狂う。だが、認めよう、これは貴重な体験だと。


「はぁっ」


エニーテは言葉にできないほどの景色を観て思わず声に出した。ブレーゼンもぼうっと突っ立っていた。正直、これは言葉にはできない、感じ取るしかないさ。


そのまま上がっていてたら今までの洞窟らしい雰囲気になっていたが、やはり一風違う感じが残っている。逆に上に上がる洞窟があるんだなって思うぐらいだ。


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「さて、問題はここからだな」


洞窟だけあって、古の武器とやらまでにたどり着くには困難のようだ。道は迷路のように複雑になっていて、時間がかかる。それにあまり時間がないもんだから早く進みたいところではあるが、魔物が出てくる。


「やっとここに来て出てきたか、やるぞブレーゼン」


「任せろ!」


今回の魔物は俺が指輪を捕ったところとは違い、もっと種類があるようだ。クモとか、リザードとか、飛んだりする奴とか、海から出てきた一回りでかい魔物とかな。

そういう手ごわいやつらも時には出てきたのだが、ブレーゼンがいるおかげで何とかなった。


「お前といると力がみなぎってくるなあ」


「そうか?別に普通だろ」


確かにこいつといる進みやすく感じるが、特別に強くは感じねぇ。こいつと、その棒を使いこなすのが手強いだけだろう。


やがて進んでいったらいくつかのお宝を探すことができた。ここで見つかったものは金にはなるだろうが、まだ目当てのものを見つけていない。それにもっと早く探さなければいけない。


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「やはり埒が明かないな」


俺たちは長い間、迷っていた。時には安全な場所を探して野宿をすることもあった。こうやってなんとかこの洞窟の中にいるのお凌いでいた。


「こっちに行ってもないのか…また次!」


ここにいると方向がマヒしそうにはなったが、気を取り直して進もうとした。

それでも中々あの武器がいるような所を絞り出せなかった。だから俺は最終手段に出たのだ。


「ちょっとばかしやってみるか」


仕方ない、俺の勘に頼ってみるか。

俺は視界を開いた。戦闘時では上手く使うことはできるのだが、探索になるとちょっと苦手だ。そもそもこの感覚はそこまで好きではないし、使いこなせていないと感じている。それでも俺はこの武器を手に入れたいし、夜になる前に帰らないと面倒なことになりそうだしな。


俺は集中をして、俺の視界がどこにたどり着くのかに任せた。

かなりの労力を使うからちゃんとやらないと簡単に迷子になってしまう。それだけは避けたいところだ。


「よし、今度はこっちだ」


そして俺はブレーゼンとエニーテを案内するように行った。

少しずつ近づいて行っている感じがしてきた。時々俺の勘のキレが悪いところはあったが、二人をあまり気まずい様子は免れたのだろう。焦ることがないと言えば嘘になっている。時々、俺が考えていた最中は魔物が現れる時もあったぐらいだ。ブレーゼンがいなければ詰んでたかもしれない。一回限りこいつに感謝してやる。


「なんだがわからないが、凄いな。当たっているか分からないけど」


「じゃあ凄いって言うな…」


到達地に近づくにつれて俺はあまり集中しなくてもどこに行けば良いかに自信を持てていた。俺は今までにこのような流れで当たったことは少ない。やはりこの場所に何か特別な力でもあるのか?それとも俺がただ運が良かっただけなだろうか。


結果的には迷っていながらも、思ったよりも早く着きそうだ。


道のパターンとやらが違うことに気づいてそのまま進んだ。魔物の数も少なくなっていた。道の横に光が置いてあり、いかにもここに進め、っと言っているようなものだ。


進んでいくと、横に模様があるのが気づいた。何かのメッセージなのだろうか。


「異様な感じがするな」


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ブレーゼンは興味を持ちながら回りを見た。

そしたら目の前に入り口のような扉が見えた。


「ここなのか、オーブン・ザ・ドア?」


「ややこしいわ。でもここにあると願いたい…」


ふと扉を開いた時に観えたのは派手なものではなかった。

俺が想像していたのはお宝の山とかあって、その真ん中に伝説の武器があると予想はしていたが、どうやらそうではないらしい。


しいて言うならば、倉庫の裏に入ったような感じだ。にもかかわらず、確かにここが重要である存在感を示していたように思える。

そこには石でできたもの上に武器らしきものが置いてある。俺の気のせいか分からないが、自然のようなエネルギーを感じる。


「ドア、お前本当に当てやがったぞ!やっぱ凄いぞ」


「結構困っていたがな…」


そして、その武器とやらに近づくと、説明のようなものがあった。


「うん?これってなにが書いてあるんだ?どっかで見覚えのある文字だ」


確かにこれは何処かで観たような気がするが、思い出せない。その文字の印象だとなぜか石のような表現に見えてしまう。これは本当に言語なのか?


「うーん、俺は知らん」


「まあ、期待はしてねぇよ…」


エニーテはその文字に見覚えがあるような顔をしていたが、悩んでいる。


「自然…魂…秘められた可能性?」


「エニーテ、読めるのか?」


「ドワーフの言語だよ。少しだけ…」


何だか良くわからない説明のようだ。そんなことよりも、この武器は羽のようなものともいえるが、植物から出来ようなものにも見える。俺が思うに、鳥とかの羽ではなさそうだ。それ以外にもこの武器には特殊な感じがする。何故か気配というのが正しいかどうかはわからない。


この変なものはなんだ?まだ触ってはいないが、柔らかそうな武器だ。長さは少しだけあるが、別に剣のようには使えないだろう。例えるなら鞭のように使うと思うのだが、とても強そうにはみえねぇ。残念だが、これはちゃんとした武器にはなりそうにはない。旦那には悪いが、これもまたお金に変換しよう。


とあきらめようと思った時に、絵でこれがどのような使い方をするのかが書いてある。


絵で見たところ

魔物を斬る絵面、

飛んでいる絵面、

それと風を吹かせる絵面だ。

もしかして、これを全部できるのか?


「まさかな…」


「本当にこれが武器なのか?今回ばかりはウェンデルの殿の勘違いじゃないのか?」


俺もそれは薄々思ってはいるが、そうでないと信じたい。


とは言ってもこれを全部できるはずがない。おそらくただのおとぎ話とか書いてあるんだろう。そしてこのような絵を他人に見せてこれがどれだけ価値があるのか的なことのためにあると俺は考える。


よく考えてあまりにも話が出来過ぎている。もしこのような力があるならもっと強そうな武器の方が相応しいだろう。大剣でもないわけだしな。


いや、そうは言ってもやはりこの武器からは異様なオーラのようなものも感じる。仮にそうならこれは凄いものかもしれない。俺は今度こそ運がいいかもしれない。

とりあえず手にしてみるか…


俺は疑いがあると同様に、その羽のようなものを手にしようとした。その瞬間に羽から白い光のようなもの放ち、羽のような姿が少しずづダガーになり替わっていた。


「今のなんだったんだ?」


「わからねぇ…。てか何でダガーなんだ?」


「いいじゃないか、ダガーってまさにオープン・ザ・ドアって感じがするだろう」


「何がオープン・ザ・ドアって感じ、だよ。しかも無駄にタイトルっぽくすんじゃねぇ!」


それはともかく、古の武器というもんだから俺はてっきり大剣とか聖剣らしきものだと思ってたが、どうやら違うらしい。だがまあ、俺はダガーには馴染みやすいから問題はない。あの金髪の旦那のような剣と出会えないのは残念に思うが、武器がないよりはマシだな。ただ、心配していることと言えばこの出来だ。これでちゃんと戦えるんだろうな。


とは思いながら、あることに気づいた。羽から成り代わったダガーだけでなく、ちゃんと鞘もついていた。確かにこれは武器になっている。そして俺が最初に観た羽の印象とは違い、ちゃんと鋭い切れ味になっている。やはり、これは俺が思っているよりも凄いもんなんじゃないか?


それに付け加えて、ダガーを鞘から抜けば、柄に変なレバーのような仕掛けがあるようだ。まさかこれを押すと、あの絵の通りになるっていうのか?


「これを押せと…」


俺は興味深々にこのレバーを引いた。すると又もや驚くようなことをしやがる。

このダガーのレバーを引くと鳥の翼が広がるようにあの羽のような形になるようだ。

こうして開くとダガーの曲がった形は保っているものの、かなり威力のあるそうな武器に成り代わっている。この武器、なんでもありかよ。


「なんだ、ドア。この武器も俺のよりイカすんじゃないか。羨ましいなハハハ」


ブレーゼンもこの通り俺の武器に見とれているらしい。喜びたいのは山々だが、考えないといけない使い方もある。


良いところがたくさんあるようだが、果たしてちゃんと使いこなせるかどうかっていうことに不満は感じる。レバーを引いた時のこの羽のダガーは使いにくいかもしれない。何ていうか本当に羽のように振るわないといけないようだ。


今それを考えても仕方ないし、時間がなくなりつつある。


「よし、ここから出るとするか」


エニーテはこの部屋に違和感を感じたのかずっと周りを見ていた。


「どうしたんだ?」


「…何でもない」


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こうして俺たちはある古の武器を手に入れることができた。だが、俺はあの部屋から出た瞬間にあることを思い出した。


「ていうか、この武器ってなんか名前でもあるのか?」


「まあ、説明があったのなら何かの名称があるんだろう」


俺は自分が言い出したことに疑問を持っていたが、どうしてもこんなに凄いものと遭遇したら名前がないだろうかっと思ってしまうことがある。何で人は武器に名前を付けたがるんだろうかってな。


「ブレーゼンお前の武器にも名前は付けたのか?」


「おうよ、俺のはビックバンって呼んでいる」


「ビックバン?なんだそれ」


「名前カッコいいだろ、ビックバン」


「じゃあお前のも自分で付けたってわけか…」


武器に名前を付ける理由とはかなり単純なものかもしれないが、俺は考えてしまうのだ。強い武器には名前があるべきというのが興味深い。嫌いではないし、むしろあった方がカッコいいのは確かだ。


俺は武器に名前を付けたことはないが、一応付けるとしたらどんな名前にするのかというのは考えたことはある。

そして俺はこの羽の武器を名付けることにした。


「だったら、俺の武器は空より高く、嵐を巻き起こす、ゲールだ」


「ゲールか、それもオープン・ザ・ドアらしい。ハハハハ」


「だからそれをやめろ!」


そう言った時に、エニーテは俺を見て指をさした。


「ドーレン…」


「なんだ、うん?」


どうやら俺が早々に名付けたゲールが光っているようだ。まさか俺が名前を付けることに反応したのか?こんなことにもなってしまうのか…


「まさか、こいつ反応しているのか?」


名前を呼んだことに対してそうだとしたら、凄い偶然だ。あと、名前で反応するような武器って聞いたことがねぇぞ。こればかりはただの気まぐれか?


まあいい、この武器を手に入れただけでも中々のもんだ。この時だけは4日という縛りを忘れることができた。ウェンデルの旦那が言う通り、これは必要なことだったのかもしれない。


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俺たちはようやくあの滝のような場所までに戻ることができた。そしてこうやってみると、この上でも地面は思ったよりも広いことに気づいた。


そして、俺はもう少し早く来るである勘みたいなものを感じた。これは大物のようだ…


「何か来る…」


俺が入ってきた時の違和感はきっとこいつだ。

だが、今回は面倒なことにはもうなりそうではない。俺が手に入れたこのゲールという武器と、ブレーゼンの馬鹿力によって俺はこの場を免れそうだ。


そして、俺の思った通りそいつは出てきた。見た目は海底にいるような魔物だった。でっかいぬるぬるの塊のようなものだ。それでいて、狂暴のように見える。こんなところで大物の魔物と出会うとは思わなかった。予想以上の迫力だ。


されども、何とかはなりそうな気がしてくる。というより、じゃないと困る。

でも流石にこの緊張感には特別なものが感じる。これこそ武者震いというやつだ。


「気を引き締めろよ、ブレーゼン」


「エニーテ殿、下がるが良い」


この魔物は見た目の割には素早く、そして、大きなジャンプを何回も余裕にこなせていた。これを前にしてビビるやつがいるところか、多分耐えられるやつの方が少ないだろう。こいつの大きさとジャンプ見るに、食らったら一発で死ぬな。


俺はそいつがジャンプした後にゲールで一発刻もうとしたが、かすり傷しか与えることができない。


「こいつ狙いにくいな」


「ドア、ここからどうする?」


俺は早速作戦を考えたが、正面にはいかない方がいいだろう。そしてジャンプをしてくるということはその隙を狙わないといけない。


「ジャンプをした後に叩いてみろ!」


「おうよ!」


するとあの魔物は俺がおびき寄せて、そいつが着地した瞬間にブレーゼンがあいつの頭を砕こうと狙った。


「おりぁ!」


ブレーゼンは力業であいつの頭を狙った。見事に当たったようだ。それでもこの魔物は簡単にやられていない。そしておそらく行動を変えてくる。


あの魔物はまたジャンプをする素振りを見せたが、様子が変だ。俺は勘の視界を開いて、何をしてくるかを見ていた。


俺の違和感は当たった、今度はあの魔物はエニーテを狙っている。そして、さっきこの魔物がしたジャンプよりも早く飛んだ。これは間に合わせないつもりだ。


「ブレーゼン、エニーテだ!」


どうする…

速く考えなけらば…


「おい、オープン・ザ・ドア、さっきの武器俺に向かって、打て」


まさか、あいつあの吹き飛ぶやつを俺にやらせるつもりか。

やっとことねぇし、失敗するかもしれないが、考えている暇はねぇ。やるしかない。


「どうなっても知らないからな!」


「おう、俺が飛ぶ瞬間を狙えよ!」


そして、俺はとっさにゲールのレバー引いて、力ある限り俺は腕の先まで集中をして、ブレーゼンが高跳びしたらすぐさまあいつを狙って当てようとした。


「力を見せやがれ、ゲール!」


俺は考えも無しにただブレーゼンがあの魔物を吹っ飛ばすことだけに思考を巡らせた。失敗を承知で俺は狙おうとした。練習もなしにここまで力を出せるとは思わなかった。この武器は俺に合っているようだ。最高の相棒として使わせてもらう。


ブレーゼンは追い風に吹かれて魔物が着地する前に棒を遠心力のみで魔物をエニーテから遠ざけるようにしていた。


俺はただ当たることばかりにブレーゼンに託した。こんなところで嫌な思いはさせねぇ。頼むぞブレーゼン!


「はあああ!」


ブレーゼンは棒を横に振りながら魔物の腹をフルスイングで狙った。俺はその瞬く時の隅々まで見守ろうとした。


「ビックバン!」


ブレーゼンは棒が魔物の腹が中に深く入っていきながら奴はとんでもないスピードで洞窟の奥の壁までに吹っ飛んで衝突した。こうして危機一髪の瞬間を免れた。


「大丈夫か、エニーテ」


俺たちはすぐさま彼女の方に駆け付けた。

エニーテは少し驚きながらも、頷いた。どうやら大丈夫のようだ。


「無事でよかった」


ブレーゼンは命がけでエニーテを守ろうとしていた。余計にタフなやつだぜ。

俺がこいつの馬鹿力なしであの魔物と戦っていたらどうなっていたことか…

まさかウェンデルの旦那そこまで考えていたのだろうか?


---


あのでっかく厄介だった魔物は倒され、ここから出ることができた。ブレーゼンが遠くに魔物を吹き飛ばしたため、あまり素材を回収はできないが、俺がかすり傷を残した皮の一部を持ち帰ろうとした。少量ではあるが、念のために使えるかもしれないと踏んだ。


俺はゲールをまだ実戦ではほぼ使っていないが、切れ味は皮を剥いた時に分かった。

こんなにも鋭く切れるようなダガーに出会ったのは始めてだ。もちろん、俺が使ってきたのは普通の職人が作ったものばっかりではあるが。だが、俺がすでに持っているダガーを使う頻度は極端に減るだろう。


「良かったな、ドアよ。お互い良い武器を手に入れることができた」


「この洞窟にいて冷や冷やしたことが多かったけどな。でも助かったよ、ブレーゼン」


「ドーレン…」


ブレーゼンは俺の感謝の言葉に温かく受けとった。実際のところこいつは洞窟内でかなり役に立っていた。別に当然言わないといけないことだ。たまには協力関係も悪くはねぇ。


「じゃあ、町に戻るとするか…とその前に」


俺は一応盗賊の暗号に★を付けた。ブレーゼンがドジ的な面を見せたおかげで色々とてに入れることができた。


「そんなことを残す必要あるのか?」


「俺がしたいんだよ」


俺は自信満々に★を刻んだ後、この洞窟とおさらばした。

それから俺たちは町に向かった進んだ。


---


帰る道の途中で微かにだが、嫌な予感がよぎる。

まさか待ち伏せか?それともなにか別のものか。


そう考えているうちにそいつは俺たちの前に立った。


「おい、そこ兄さんたち。俺たち何かくれるものはないかな?」


なんだこいつ?見た目からして関わりたくないような奴だ。きちんとしていない格好だし、こいつも盗賊だろう。やはりここに入ってきているようだ。


それのみならず、その盗賊は仲間を複数人を連れ込んでいるようだ。


「これは何のまねだ?」


「へ、みればわかんだろ、お前たちから欲しいものがある」


そういうことか、やはりこいつら俺たち待ち伏せしていた。

なぜ俺がそう質問をしたのかというと、盗賊にはある暗黙の了解が存在する。

その1,他人の盗賊から盗んではならない

その2,盗賊団の奴らは他の盗賊に恩を売ってはならない

その3,盗賊同士を騙してはいけない


だが、どうやらこいつはそれを完全に無視している。


ちなみに共闘や協力関係の立場なら問題はない。それなら分け前をシェアする前提になるしな。


「俺たちにこんな真似をしたらどうなるか分かってやっているのか?」


ブレーゼンもさすがにこの状況に違和感を感じたようだ。他の盗賊から盗まれるという状況がどれだけやばいのかというと、盗賊の中で審問にかけられるほどのもんだ。

そこに行きつくまでの伝達手段はいくつかあるが、あの黒い運び屋で伝えることもある。


それでもこの暗黙の了解を、この悪趣味な盗賊のように破るやつが時々出てくる。

その審問がばれずに済む方法もあるが、大体は争いが頻繁に起こるような地域である。大体の場合、報告をしたらバレることは間違いない。


これがなぜ存在したのかというと、盗賊から盗まれるのが日常茶飯事で、問題が大きかったからだ。さらに言えば、盗賊団の場合、その団体に喧嘩を売ることになる。それは普通ならば避けたい問題だ。


「何?この王国であの審判に頼っているわけ?可哀そうだな、もうそんなルールは通用しない」


「どういうことだ?別に場所は関係ないだろ」


「お前、話に聞けばあの西のほうから来ているらしいな。だが、それはもう通用しないさ。とっくの昔にな。ここに来りぁそんなルールは無効になるんだ」


ルールが無効になったか、やはりそういうことか、どうやら王国に入れば仕切っている奴が変わったってところだろ。そしておそらくとんでもねぇ野郎が仕切っている。



「特に、お前のような奴が本気でそれが通用すると思ってんのか。しかも血肉をたくさん見ているようなやつに…」


「これがなぜ俺の話になる、話が見えない」


「まだわかっていないようだな、まあいい」


まあこいつが待ち伏せするほどなら狙いは俺が持ち出したお宝ってところだろう。


「お前が欲しいのはこれか、それともエニグマの情報だろ?渡さねぇよ」


この盗賊は悪巧みするような笑いで俺の答えを返す。


「ああ、そんなものもついでに貰ってもいいよな。だが俺が求めているのは」


盗賊は指を上げで、俺が持っているものでも、ブレーゼンのものでもなく。


「そいつだ」


エニーテの方に指をさした。


まったくこれは面倒なことになりそうだ。

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