第8話 愉快な、愉快な、酒場のけんか
俺はどっちの道に行こうか迷っていた。
---
その人は大きな声を出していた気がする。どこにいるのかわからないが、比較的に近そうだ。誰なのかに関して興味もある。
俺は考える。聞き覚えのある声を追うのか、
それともそれを無視して、早速酒場に行くのか。
俺は酒場には行くべきだろう。情報収集がはかどることに間違いない。
だから、これは避けられないことだ。だが、ちょっとだけ顔を見ても損はしない、
はずだ…
まあ、損はしても、どうせいつか会うことになるはずかもしれねぇ。
知り合いといえば、どうせ盗賊の知り合いなのだろうが、俺は全員覚えているわけでもないしな。
俺の予想が正しければ、裏道に行って正体を確かめることができる。
そこには大柄な男がいた。そいつには長い棒を持っていて、声が大きいのである。
「冒険者ギルドがあるのはどこだ!」
ああ、こいつか。はっきりと聞き覚えのある声だ。
そいつの見た目はオレンジ色の髪、それととんでもねぇガタイの大きさ。
俺の知る限りあのバカしか思いつかねぇ。こいつのことを思い出すと厄介な思い出しかなかったが、とても印象に残ったやつだった。
名はブレーゼンという。
こいつも元々は盗賊だ。確か結構なぐらいに強かった印象がある。そしてあいつが持っている棒が何か特殊な力を持っているせいなのか知らないが、あいつが振るうと地面を砕けるほどの怪力を持っている。
それだけでなく、あいつはその棒を手にする途端に、振るうのが速くなるのだ。あんな奴にスピードつくのは反則だと思うのだが…
俺は奴と無理矢理依頼を受けたことがある。こいつの盗賊っぷりはかなり外れているもんがあった。そりゃそうだろ。こんなでかいやつが普通の盗賊にはならねぇ。だが、その分重い荷物を素早く運べるのは助けにはなった。
ブレーゼンの野郎は何気なく明るい奴だ。正直言ってその態度に心から感じられるものはあった。とは言っても、骨の折れる奴だったことに違いはない。一緒にいて疲れる。そしてこの通りうるさい。
「おい、お前!冒険者ギルドはどこだ!」
ブレーゼンは堅苦しく人の肩を鷲掴みながらいった。
だから、お前はいつになっても暑苦しいんだよ、もうちょっと押さえろってんだ。
あの無駄に元気な態度がなければ、また一緒に一仕事をやってもいいのだが、どうだかな。
「そこの小さいの、どこいけばあるんだ!」
まあ、今んとこ無視でいいや。
---
そして、俺が裏道の隅で気づかれずに尾行していたら。俺の後ろからまた同じような気配を感じた。殺気はないのだが、あっという間に近づかれているように感じている。だが、まだ、ブレーゼンが何をしているのかが気になるからいないふりをした。
だが、俺が無視をしているうちに、急にその気配が俺の肩の近くまでそいつは歩み寄った、その流れで俺のに触れる。
「何を…しているの…?」
透き通った声が俺に耳に響く。
振り返ってみればそこにはエニーテだった。ちょっとびっくりはしたが、さっきからこいつの気配だったのか。俺はてっきりこいつは宿屋で待っていると思っていたが、そうではないらしい。それに、どうやって俺を探せたんだ?結構移動はしたつもりだぞ。
「なんだ、エニーテか。どうしたんだ?まさか恋しくなったのか」
エニーテは不満げな顔を俺に見せる。ちょっと言い過ぎたか。冷静に考えておそらく俺が勝手に出たから気になったんだろう。
「一言も置くこともできないの?」
なぜこいつが俺の行動について気になるのかわからないが、俺にとってみれば勝手なもんだ。例外があっても、俺は今まで一人やってきたつもりだ。それがお姫様みてぇな立場の人も気にかけなければいけないとなると、やりにくいことこの上ない。俺は単純に盗賊としての生活もできないのか?
「じゃあ何度も子どものように注意しないといけないのか?俺はあんたのお子守じゃないですよ」
エニーテはまたもや拗ねた顔でこっちを見ながら、気持ちをあふれだした。
「だって…、私が何もしないのは違う気がするから」
まあ、確かにこいつがこう言うのも納得できるし不自然ではない。俺がエニーテに親を探すと言った以上、それには従うつもりではいる。だが、こいつは果たしてそれなりの覚悟があるのだろうか。
まあ、それは今考えてもしょうがないか。
「分かったよ、最低限のことは言ってやる」
話をしているうちに、とっくにブレーゼンがどっかに消えってた。エニーテのことであのデカブツが何したかったのかははっきりとわからないが、冒険者に興味があると言ったあいつを信じよう。それに、あいつがどの様に生きようが俺には関係ない。
あとはエ二グマの秘宝のことにも興味はなさそうだから衝突することはないだろう。俺はタイプ的にもブレーゼンみてぇな野郎と敵対したくはない。既に馬鹿の上に、馬鹿力も備えていたら単純に参るぜ。まあ、協力する場面がもし来るならその時は頼もうとするよ。それでも俺はあいつには呼ばれたくはないが。
---
その後、俺はエニーテに情報を集めている最中だと伝え、ついでに酒場に行く伝えた。彼女も一緒に行きたいと言ったが、さすがに酒場の中まで入ってほしくはない。適当についてっていいと今のところ彼女に言った。
ちなみに、この町はソリスと呼ばれているらしい。
その由来は太陽のように明るい町ということらしい。確かにこの町には元気なものを感じる。俺にははじめての刺激だ。とはいえ、この町は他のところに比べてもっと良い何かを感じるのは俺の気のせいなのだろうか。
まあ、俺は王国にいたのはそう長くはないし、全て見えたわけでもないしな。仮にこの場所に何かおおらかなものがあったとしても、どうしても抵抗感が残る。そして、時々、この場所にいるだけで圧迫されそうな違和感を覚えてしまうんだ。まったく幸せなこったぜ。
そんなことより、俺はここに住むためにいるんじゃねぇ。そんなスローライフを今更することもできねぇ。チャンスが今巡ったといっても、俺の心の中にある引っ掛かりがどうしても俺を前へと進めようとする。それが正しいか分りもしないが…
結局、俺が約束したことを果たすだけだ。
---
こうして俺とエニーテは酒場の近くまでに行くことにした。
俺は酒場に行くことはいくつかあったのだが、王国の感じとはまったく違う。だいたい柄の悪い奴らが来て、雰囲気がややこしくなったりするのだが、この酒場はそれがないことを願う。だが、期待はしていない。
俺はそもそも酒場については負の印象しか残ってねぇ。
唯一救いなのがこの酒場の見た目だったり、場所なのだが、正直、この時点で嫌な予感がしてくる。この酒場は外からは想像よりも結構広そうだ。
「よし、俺はこの中に入ってくる。お前はここに待っていろ」
「ちょっと遠い…」
「仕方がないですよ、こうしている方が厄介ごとが起きないから。念のため指輪もしてください」
「もしかして…、不満なの?」
「違いますよ、酒場に入ったら何が起きるかわからないからな」
エニーテはどこか納得いってなさそうな表情をみせたと同時に緊張していように見えた。あんな少女が入るのは論外でもあるのだが、それよりもあいつの顔からして目立つ気がする。それに、エニーテがもし酒場で注目されたらそれこそ面倒の始まりだ。
俺が丁度エニーテから離れる前に、彼女は俺に声をかけた。
「必ず…、情報を共有してくれないかな?」
どうやら、彼女はどうしても役には立ちたいらしい。それは別に悪いことではない。だが、こいつが何かのヘマをしたら俺にとって非であるのは確かだ。
「分かりましたよ。心配することはねぇですぜ」
俺は彼女の戸惑った顔を見て、そう言葉を残した。
---
俺は酒場に入ると、そこには俺の見慣れない景色があった。とてつもない臨場感、熱気そして明るいはしゃぎ具合だった。俺が見てきた酒場の感じだと、ここまで派手ではない。別にムード的に暗い時もあれば、自慢したがりの野郎どもが集まっているところもある。
オーナのこだわりを詰めたようなランタンが付いていて、丁度いい暖かさを感じるような照らしに包まれているようだった。大きなテーブルもあれば、丸いテーブルもあり、そこに何気なくある樽も店の味を出してた。
酒場にいる野郎どもはこの上なくはしゃいでいる。一つ一つのひと時を満喫して、ここから一歩も出ようともしない。手を伸ばして肩を組んだり、ジョッキにある酒とともに左右に揺れながら仲間と一緒に時間を大事にしている。ここは祭りかというぐらいにな。
そこで賭け事をしているやつらもいれば、目立ちたがり屋ができるだけ人を集めて話をしている奴らもいた。ただ、喉の渇きをかき消し、ごくりとするような泡があふれ出る酒を楽しむ奴らもいた。
ここなら厄介ごとは起きないかもしれない。だが、それは言い切らないで置こう。
俺は酒場に対しては悪い思い出しかないしな。
俺は早速、情報収集を集めようとした。
できるだけ観察してそうで、噂話が好きそうな奴が丁度いい。俺は話を盛ってそうな奴とか、賭け事などの奴らから避けようとしている。
単純な理由はそいつらの話はそもそもつまらないし、対して情報が宛にならない時がある。そして賭け事の方は大ごとになりやすい。イカサマもあるらしいしな。
だが、だいたい静かにしている野郎はなぜか物を覚えていることが多いと俺の経験上では思う。
そして俺は早速そのような客を見つけた。
「おい、あんた。俺はいくつか情報を手に入れたいんだけどよ、なんか最近気になることはねぇか?」
「はあ、見ねぇ顔だなあんた。それにおめぇさん怪しい見た目してんな。厄介ごとはごめんだぜ」
まさかここでもこういう反応されるのは癪だな。だが、予想していた通りだ。酒場はどこでも同じらしい。
そして、
俺が酒場が嫌いな理由、その1
いかにも情報がありそうな奴ほど警戒心が高く、大体お金を見せなければいけねぇ。
時間がかかる上に、俺の金が減る。酒すらも飲めるわけでもねぇし。
「まあそう言わずに、な」
俺はその客にお金を少しだけ出した。さすがに顔色が良くなったらしい。単純な奴らだ。
「お、おぉ!分かっているじゃねーか…」
とりあえず俺はエニグマの秘宝と、エニーテの親について何か知っているかを聞いた。
「うーん、あんたが探している人には心当たりはないが、エニグマの秘宝とやらにはいくつか聞いたことがある」
「そりゃいいぜ。教えてくれると助かる」
「実はだな、ここから少し遠くのとこの港の近くに秘宝を探しているやからがいるらしんだよ。そして、そいつらの中には盗賊とかいるらしぜ」
俺は今まで王国に港のような場所は見たことはない。が、川ぐらいはあっても不自然ではないな。
「港?ただの川とかじゃなくてか?」
「ああ、ペルペトラ王国にも港があるんだ。だが、話に聞くと一風変わっていてな。フルーレっていうとこなんだけどよ」
「フルーレか、その港とやらに海にでも近いのか?」
「悪い、俺はここから離れたことはねぇからそこまではしらねぇ…だが、それについて知ってそうな奴がいる」
「おう、礼を言うぜ」
---
そしたら、急に大きな音が酒場に響く。そこには大物っぽい集団が入り口から入ってきた。周りの大らかな態度も急に止まった。
こうしてまた嫌な予感が来てしまう。
俺が酒場が嫌いな理由、その2
こうやって、関わりたくもないような奴が酒場に来ることが多々ある。そして大体厄介者だと決まっているんだ。さらに厄介者が来るということは大体、喧嘩の予兆であることの始まりでもある。なぜこういうのかというと、大体店の常連にも厄介者が紛れていることもある。今回も肌でわかる、どうせまた魅せしめとかだろう。
その者たちは堂々と酒場に入った。酒場にすでに入っていた奴らはなぜかそいつらに注目していた。その次に周りを見回して少しずづ歩いて行った。そこにいるみんなはあいつらの足元の音だけを聞いていた。
「こんな時に、大物とは…」
俺はただ様子を横から見ていた。大物は誰かしらないが、みんなが手を止めた理由だけがはっきりはした。そして、今はそれを聞く場合ではないと分かっている。そいつは大きな鎧を付けている。騎士っぽいが少し違う気がする。
ただ単にそいつらにできるだけ目立たないように、逃げる隙を作るだけを考えていた。まだ俺は楽しい旅を満喫したいのでな。
その大物とやらの集団はまだ何も言わない。が、ある人たちの方にゆっくりと歩き始める。酒場の連中も思わず目を追っていた。
そして、その大物たちのうちのリーダー的な存在が目当てのやつの前に立っていた。そのリーダーは相手を睨みながら脅すように手をテーブルの上に激しく叩いた。
「おい、お前だな。礼儀も知らない野郎は?」
そいつがしゃべっていた奴は生意気そうな奴だった。
おそらく喧嘩を売っているのか、見せしめのための洗礼とかだろう。酒場では定番のことである。
「あぁん?お前は何様だ」
その大物のリーダー的な人はやたらと不機嫌だった。どうやらこの生意気そうな奴は何等かのことをしでかしているようだ。だが、俺はこういう細けぇことはあまり知らない。ただ事ではないことぐらいというのはわかるが。
「だから新入りは…、先に名乗るのは貴様のほうだ」
そのリーダーとみられる人は自分の姿勢を崩すことなく生意気そうな奴と接した。
「へっ、そんなに俺の名前が知りたいとは、俺に惚れてしまったのか?」
その生意気そうな奴の周りに仲間がいて、そいつらは薄汚く笑い飛ばす。
「黙って聞いてりゃ…雑魚の分際で調子に乗るな」
生意気な集団の奴らは怒りを見せていた。さすがにこれを聞いた生意気もんはこう答えた。
「おい、それは聞き捨てられねぇなこの野郎。いいだろう、エスバーン様の名において引くわけにはいかねぇ。てめぇの名もさっさと言いやがれポンコツ!」
その大物とやらは自信満々に名乗り始めた。
「名はファーガス、そして俺は言いに来た。お前らは冒険者の掟をまんまと破った。その責任を取らせてもらう!」
---
こうして酒場の喧嘩が誕生した。
エスバーンは席から立ち、そしてファーガスと並んで殴り合いの準備をしていた。
オーナーと常連のほうは当たり前のように机どかしていたり、カウンターをある仕掛けで守っていた。周りの奴らもさすがに状況を分かっていた。
「おおこれは荒くなるぞ」
「どいつが勝つか賭けようぜ!」
客の連中が喧嘩になると熱中するのは定番だ。認めよう、少しだけ見ることには興味があるが、正直他のことに関して言えば迷惑としか思えねぇ。
俺が話していた客は
「なんか面倒になってきたから俺は出ていくよ、達者でな赤いの」
「おい、後でその人を教えてくれるんだよな!」
こっそり酒場から出ようとしたが
ここで、
俺が酒場が嫌いな理由、その3
酒場の喧嘩にはルールがある。それは必ず全員その喧嘩を見届けないといけない。今も同じようにファーガスの仲間たちがドアの前で客が逃げないように見張っている。これに関してははっきりとして理由はわからねぇし、馬鹿らしいとは思う。だがおそらく念のために他の奴らが洗礼されるのを待っているのだろう。
まさか今日でこの3つ揃うとは正直思わなかった。
これ以上関わりたくもないのだが、不意に何かやらかしたら俺がその場に目立つだろう。
「うるせぇ!俺が勝つに決まってんだろ」
ファーガスは客が盛り上がるところを更に夢中にさせていた。注意をされても客の奴らはどっちに賭けるかばっか考えていた。エスバーンは舌打ちして少しずつ苛立ちを見せていた。
「舞い込んだ奴にしては偉そうだな。その根性叩き込んでやる!」
最初に拳を振りだしたのはエスバーンだ。こいつは勢い良く殴りの連続を見せていた。筋肉の細部からパンチの力が際立つ。その怒りがエネルギーみたいな感じだった。おそらくその呑気な生意気さも吹き飛ぶほどに。
だが、ファーガスがタイミング良く見事にかわし切る。彼から余裕のある動きだった。自然に流れるように体をどけていた。そこには恐怖すら感じない、戦う意思を見せるような奴だった。ファーガスはエスバーンが殴りかかっている最中に隙を見極めて最初の一発を狙った。
エスバーンは坂から降りるようなスピードで転がり、テーブルの芯の部分に頭の後部が激突し、見事に木材の破片になって吹き飛んだ。直前の瞬間にそのテーブルでけんかを楽しんでいた連中らは、あまりにも急な出来事にびびりながら速攻で避けていった。
エスバーンは頭を少し抑えながら立てる余力がまだ残っていた。
そして、今までの流れでは一方的になっていたのだが、ここでけんかの決着が着くと思いきや、エスバーンの反撃が始まる。
エスバーンはファーガスの間合いに入り、戦略を立て直す。今度はフェント多めでファーガスを誘導し、殴れる瞬間を作っていてた。ファーガスはまたもやそのフェントに屈せず、またエスバーンが大振りを狙う瞬間を逃さない。すると、エスバーンは殴られる覚悟で突っ込んでいった。お互いに拳を全力で。
そして、ファーガスはクリーンヒットを食らう。そして彼もその後吹っ飛ばされた。
その後の流れは二人とも競り合いしていて、またもやファーガスが攻めている勢いだった。やはり、ファーガスは拳には自信があるようだ。
「これじゃあ埒が明かねぇな。もうどうでもいい!」
もう拳では勝てないと思ったのか、我慢の限界でエスバーンは先に武器を取り出した。そいつが差し出した武器は物騒な斧だった。
「貴様、正気か?」
ファーガスのほうはためらいがあったが、エスバーンは一方的に襲い掛かる。
「どうした、どうした!斬られるのがそんなに怖いのか!あぁ?」
ファーガスはやむを得ないと思いながら背中にしまっていたハンマーみたいな武器を手にした。武器がハンマーってことはこいつは何者か見当がつく。鎧を着ていてハンマーを備えているとなれば、あれしかねぇ…パラディンだ。こいつらはハンマーを使って魔法を放つことができる。パラディンになれるような奴は数が知れている。あいつらは幾度の修行を積み、魔法とその変なハンマーを使いこなす器用だと聞く。まさかここでこんな奴に合うとは。
エスバーンは酒場がどうなってもいいというような態度を示して、せっかく出ていた雰囲気がオーナーの目の前で壊されていた。どれだけの時間をかけてこれを作ったのだろうか。そして何度もこういうような出来事に出くわしたのだろうか。こんなの目の当たりにした気が滅入りそうだな。
「貴様はいい加減学ばねぇな!これで頭を冷やせ!」
ファーガスはハンマーから氷のような魔法を打ち込んだ。とげとげしい感じの勢いでエスバーンに突っ込んでいった。だが、エスバーンはあいつが持っている斧で自分を守った。エスバーンは氷のとげらしい部分に押されていった。たが、エスバーンが食らったダメージは少ない。
「斧で魔法を弾いただと?聞いたことがない!」
流石のファーガスもそれには驚きは隠せない。
俺は魔法については素人だが、本来魔法の攻撃をする際、何も対策もなしに防御すると必ず大怪我をすると聞いた。だから、ファーガスはびっくりしているのだろう。
「それだけじゃねぇ…。こんなこともできるんだ!」
エスバーンは斧の裏側使った時に、ある現象が目に映った。それは斧が炎のようなものが発していて、そして奴が振った斧は氷の魔法を切ることができた。そして、そうした瞬間に爆発のようなものが起きた。そして、中にある酒場の様子は既に壊れかけている。
両者ともむきになり、最後の一撃を決めるかのように決着をつけようとしてた。
「今度こそ、本気出してやる」
ファーガスはハンマーを回しながら詠唱を唱えていた。
そして、エスバーンは体ごと斧と一緒に回りながら、またあの爆発のような現象を起こそうとしてたのだが。
「おい、くそ野郎ども!また俺の酒場に手を出したら許さんぞ!」
オーナーはさすがにこの二人がものを壊していることに腹を立てていたようだ。
エスバーンは舌打ちをしたが、ファーガスとともに修理用の金を当たり前のようにカウンターの上に出していた。オーナーの機嫌は二人が置いた金を貰っても直らなかった。むしろ、こんなことが起きるのが本望ではないしな。
「これで終りじゃねぇからな」
「終わらすわけねぇだろ」
---
ファーガスは周りを見て違和感を感じているようだった。おそらく知らない連中が多いのか、普通はこんな満員ではないと感じていたか。
「やっぱり見ない顔が多いな」
ファーガスはあること考えている様子だった。俺から察するに、その掟とやらを果たせるように正々堂々終わらす方法を思いついているのだろう。だが、これは嫌な予感しかしない。見ない顔が多いとつぶやくやつがそれを巻き込むような言い方だ。やはり、ここから出なきゃいけない。
「よし、面白いことを考えたぞ。喜べよ外道」
ファーガスはエスバーンたちに向かって言った。
「ここでは罰することができないが、案がある。お前らもよく聞けよ」
ファーガスは酒場にいる全員に語りかけていた。既に俺らに向けて話している時点で
面倒ごとになりそうだ。俺はこっそりと隠れながら酒場からなんとか出ようとしていた。注意がファーガスになっている今がチャンスだ。
「この町、いやこの王国に新しく入ったやつがいるってことはあの秘宝について追っているんだろう?」
俺はここから出たいのは山々なのだが、内容を見逃すまいと話を聞いていた。
まさか、こいつが情報を持っているのか?様子を少しだけ見よう。周りの連中もさわざわしていた。
「だったらいいことを教えてやる」
ファーガスは酒場の注目となって話をを進めた。
「俺はエニグマについて情報を知っている。そして、その情報がないと手に入れることはできないだろう」
周りの連中はお互いの顔見て、笑っていた。その人たちもさすがに鵜吞みにはしなかった。俺もまだ疑わしいが、何かあるのには違いなかもしれない。
「そんなのありえねぇだろう」
「なんであんたがそれを持っているんだ?」
「本当に何か知っていたらお前一人で取ってるだろうが」
エスバーンもファーガスを馬鹿笑いしていた。まあ、当然の反応だ。
「あんた、いくらなんでも嘘がすぎるぜ」
ファーガスは手を耳に当てながらうなづく、余程情報筋に自信があるのだろう。
「そりゃ全部ごもっともだ。だが、俺が何者かは知っているだろ?」
酒場の連中は偽物の情報ではないと思い始めた、だが、エスバーンはまだ信じてはいないようだ。
「俺は正直に言っている、簡単に人を騙しはしない。そこでだ」
ファーガスはコインを取り出し、親指で上に向けて投げた。そして、下に振ってきたコインを手に取った。
「このコインを捕れた奴にはエニグマの情報についてたっぷり教えてやる。ついでに金貨、そうだな…100枚くれてやる」
客の連中は一気に騒ぎ始めていた。確かにそれは魅力的な話だ。だが、俺があの中で取れるとしたら確率は格段に薄い。そして、別にエニグマを手に入れるわけでもねぇ。そんなもんで俺を釣れるとでも思っているのか。無理な話だ。だから、俺の方法で手に取って見せる。
「じゃあ、コインを投げたらスタートだ!」
---
ファーガスはコインを上に投げ飛ばし、堂々と歩いて去った。
「酒場のけんかの始まりだ」
その瞬間に、酒場の野郎どもは叫びながらそのコインに向かって走っていった。あいつらの本気さが目に見える。
こうしているうちに俺はすぐさま出口に張り付こうとしていた。だが、まだ出るタイミングではない。こいつがパラディンである以上、いつ俺を止めるのか分からない。
一方オーナーの方はまたファーガスによって怒りを見せ始めた。
「お前ら…俺の話を!」
とオーナーが言った瞬間にファーガスとエスバーンはまた金をカウンターの方に置き始める。オーナーはまた黙っていたが、苛立ちは隠せない。
「俺が一番取りだぜ!」
「邪魔すんな!俺が手に入れないといけねぇ!」
「違う、俺だ!エニグマは俺のもんだ!」
酒場の中にはまたもや白熱した戦いが広がった。本来、酒を頼りに意味もなく戦うことがある。しかし、今回はそれとは少し違う。これはこいつらにとって必要な戦いのようにも思えた。酒の影響があるとはいえ、そいつらがどれだけ金とお宝を欲しているのかがわかる。だが、これはさすがにバカすぎる戦いだ。
だが、けんかなのに賑やかな雰囲気の面影が残っていた。この場所のせいなのか、それとも奴らの必死すぎる姿のせいなのかわからねぇが、しょうもなく見えてしまう。
今度は椅子とテーブルが飛びに飛んで行った。オーナーもさすがに泣きそうになっている。
俺はこの間に少しずつ目立たないように外に出るようにした。今ならファーガスといる妙な集団にも気づかれないはずだ。それに、壊れているところにももしかたら出られるかもしれない。
だが、見られていないはずなのに視線を感じる。ファーガスは誰がコインをとるのかに夢中のはずだ。これは気のせいかもしれない、とは言っても目立つわけにはいかない。それこそ王国に潜入した意味がなくなる。
俺は慎重に酒場から出るように動いた。俺が外に出ようとするうちに、中では違う意味を成しているお祭り状態になっている。それ以外にもこの馬鹿騒ぎに参加していない奴らもいた。
そもそもエニグマに興味がない連中もそうだが、それよりも強そうな奴らが揃っていた。俺はなぜそいつらが自信満々にそうしているのか、そしてここから出ようとしないのかは分からなかった。恐らくあいつらも酒の勢いで威張っているのだろう。
俺はそれに関係なく、ここから出ようとしていた。
いくら気づかれる可能性があるとは言え、ここにいたら嫌な予感しかしねぇ。
捕まえられるもんなら捕まえてみろ!そう思いながら出て行こうとした。
そして俺は酒場の外に一歩近づき、こんな場所から出られると確信していた。
だが、そう簡単に行かせる奴ではないことはこの瞬間に気付く。後ろから勘が働いた。とんでもない怒り、追い風を感じながら、俺は避けていた。ただ、かわすことに労力を注ぎこんでいたら、ハンマーが俺の目の前で木材に引っかかっていた。
「おい、誰が出ていいと言った?盗賊…」
ファーガスはまた酒場を沈黙させた。オーナーもこの時点であきらめていたが、ファーガスはまた金をオーナーに渡す。
俺はこの状況の気まずさに戸惑っていた。
また面倒ごとになってしまったじゃねぇか…
しかもパラディンに注目されるとか、ツイてないぜ…
ていうか、今こいつ盗賊っていったよな。どうしてあいつにバレた?
「今から逃げようと思わない方がいい、いつでもあれで仕留めることができるからな」
ファーガスは自分が持っていたハンマーを指をさした。恐らく、ハンマーから魔法を撃つって脅しだろ?こいつ、こいつ、本当にパラディンなのかよ!こんな大概な奴らとは聞いてないぜ…それでもこの国のお偉いさんだった人物かよ。
まあ、その脅しはどうでもいい。俺が考えていたのは
今からここから出で、必死に逃げるか
もしくはここに止まって、状況をこれ以上悪化させないかの二択だ。
もしもここから出た場合、しゃれにしかならねぇ。当然、俺はここから出たいに決まっている。しかし、俺一人の状況ならともかく、エニーテが巻き込まれる可能性を考えると、かなりまずいことになる。俺は約束を破ることだってできるが、それは違う気がする。俺はそれに重い抵抗を感じている。
それに、そうしたとして、危険性が増すことに間違いない。エニグマを取れる可能性が減る一方だし、ウェンデルの旦那にも面倒がかかる。最悪の場合、また王国から出る羽目になることも覚悟しなければならない。
だったら、穏便に行く方法しかないじゃないか。
仕方ない…
ここで待ってやる。ここで俺の話を聞くような態度なんてないだろう。
結局出ることが出来ずに俺は酒場の中に入った戻ることにした。
---
俺が感じていた秒数は感覚的に長かったのだが、酒場の連中は俺に注意を一瞬向けた後、彼らにとってコインの重要性はそれ以上の価値がある。だから何事もなかったようにまた探しては、ぶん殴られる。
そして、コインを取ろうとした連中は殴り合いと邪魔な人達の数々を進むのに夢中だったのだが、ようやく下からコインを見つけたような人が現れる。
「コインをみつけたぞ!」
その人はコインを輝かしいく思えるようにてに捕った。
それでも周りの連中は彼から取ろうとする。
「おい、俺が先だ。横取りは卑怯だぞ!」
ファーガスが率いる集団はそいつらを追い払う。
コインを手に入れることが出来なかった連中は今まであった活力が脱力になって酷く落ち込みながら突っ立ていた。
「ほう、おめでとう」
ファーガスは握手をしていた。だが、正直な気持ちが入っていないような握手だった。とは言っても、喜んでいる気持ちもあるにはあった。恐らく、これをやらせたことに意味がある。
「では早速教えようっと言いたいところだが…残念」
酒場の連中はざわついていた。
「残念ってどういう意味だ!まさかあんた騙したな!」
コインを手に入れた奴は酷く怒った。コイン争いに参加していた周りの連中もファーガスに怒りを見せた。
「お前らみたいなやつらがエニグマを捕れるわけねぇだろ、自分を見直すんだな。
罰として全員殴れ!」
コイン争いをされる挙句に、結局殴るのかよ…
何がしたいのかよくわからねぇ。
そして彼が言った通りにファーガスの集団は問答無用でコインを捕ろうとした奴らを殴った。
恐ろしいやつだな…だがこいつの態度は残虐というよりは親切心を見せているようだった。だが、こいつがただのイカレ野郎って可能性も十分にある。
今後のことが心配になってきたぜ。
「お前らが一流になるにはまだまだだな!」
ファーガスは堂々と腕を組みながら言った。
「さて、ここからが本題だ。ここに残っている奴には教えてもいい。だが、条件がある。それは闘技場で決闘することだ」
ファーガスは堂々と立っている奴らに向けて言った。
「ここで参加していなくてその権利を獲得出来そうなのは、この8人か…」
酒場の端っこで突っ立っていたのは冒険者らしき人や、傭兵、騎士などいた。
見るからに王国に住んでいることでもなさそうだ。ということはこいつらもエニグマ目的なのだろう。だが、こんな都合よく情報を貰えるなんて思っているのだろうか?
俺は格好つけている方に賭ける。そう思い通りに情報が集まるとは思っていないだろう。だが、結局こいつらも聞き込みとかしているようだ。
「おい、お前!勝手に話進めてんじゃねーぞ。忘れてねぇよな、決着のこと?」
エスバーンは話に置かれていることに腹が立っているようだ。そもそもこいつが元凶らしいしな。
「黙れ外道が、これは俺らのための決闘だから言ってんだ。そして俺たちは5対5のチームを作り、決闘するんだ。いいだろう?」
エスバーンは納得し、ファーガスに勝てるき満々の態度で示した。
「なるほどな、上等じゃねぇか! 俺が勝ったら、そのエニグマの情報とやらをよこせやピカピカちゃんよ!」
ファーガスの話を信じていなかったエスバーンだったが、もしもの時に本当だったらという理由で彼もエニグマの情報を狙っている。
そして、ファーガスも意地を張りながらエスバーンに言った。
「ああ、男に二言はねぇ。怖気ついて逃げるなよ」
こいつらの争いに勝手に巻き込まれながら話が進む。
「へ、っでこいつらの中ならもう俺は決まってるぜ、どうせお前もだろう」
「ああ、ここに入った瞬間に決まっているさ」
これを言った時点でいい気はしないが、どう転んでも良いことが起きないのだろう。
話を一旦片づけたファーガスは俺の方に歩いてきて、がっと肩を掴んだ。
「当然、お前も来るよな、盗賊…!」
ファーガスは威圧するような感じで俺に言ってきた。あいつに掴まれている感覚から抜け出せないようだった。実際にはそうでなくても、俺はそう感じた。
酒場のけんかの全貌をみせられ、勝手に酒場でリーダーづらをし、そして強制的な闘技場のお誘い。なんてパラディンらしい。
これがみんなが憧れる愛の戦士ですぜ。
一日でこんなに面倒なことになるんだったら来るんじゃなかったぜ。
これだから酒場は嫌いなんだ…
---
後日譚、結局ファーガスとエスバーンが壊した酒場が、酒を飲むための一番便利な手段だったため、常連と責任を負った二人は修理に回った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます