第1話 目が覚めても冥界にいる 続き

俺はある夢を見ていた。まあ、思い出していた、の方が正しいか。


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俺の子どもとしての記憶は何というか、万に一つの経験と言える。良い思い出もあれば、思い出せそうにないものもある。それは俺が思い出したくはないというのもあるかもしれないが、それだけとは言い切れない自分もいる。


だが一つ言えるのは、苦しい日々を送り続けたのは確かだ。俺の家族はとてもお金持ちとは言えなかった。その上に、王国の奴らからしたら敗北者だ。だから全部を含めて俺たちに価値はさほどなかったのだろう。そして自由の身への道はほど遠いものであった。いや、無いに等しい。だから奴隷になるしか道はなかった。


俺たちの支配人になったのはあるだらしない貴族だった。太っていてとりあえず自分がどれだけすごいかを自慢したがる、本当はあいつ自身は何もしていないのに。


ほとんどの仕事は彼の使用人どもがやっていたのである。あいつらの価値は俺たちとあまり変わらない。違うことと言えばやっていた仕事ぐらいだろう。


俺はどれだけこの豚野郎を嫌っていたが底が知れる。やらせる仕事は多いし、長いし、重い。そして少しでも体力が追い付かなければ、お仕置きをいとわない。自分の思い通りにならなければすぐに責任転換しやがる。そして あいつは自分の足すら見えない奴だった。それであんな奴のの機嫌取りをしなくてはならない。


だが俺はあいつに対峙できるように色んないたずらを仕掛けた。あの豚野郎にものを投げれるものを見つけて、そしてあいつに気づかれないようにした時もあれば、あとはあいつが大事にしていたものを壊したりもしていた。


一番お気に入りだったのはあいつが見えない隙に服を燃やし損ねた時だったな。そのいたずらを仕掛けた時の顔見せてやりたがったぜ。あいつは怒るたびに顔が真っ赤になって暑い季節でもないのに汗をかきまくる。ほんと笑える。そんで息切れする時が一番面白かった。いつも胸を押さえながら息を吸わなくては耐えられなかった。どうせ何かの病気をわずらっていたのであろう。ざまぁ見やがれとしか言いようがねぇ。


もちろん仕掛けるには時間もかかったし、警備を何とか警戒しないようにしないといけなかった。あいつが知らないように事を企てることに何回か成功した。だが、もちろん代償も払った。あいつは警備を使って、俺が傷が残らないように何度もお仕置きしていた。もちろん苦痛だったし、何度もその恐怖に立ち向かわなくてはいけなかった。立ち直らなかった期間が長くあった。


だかそのことはまだ俺にとっては序の口だったのだ。本当に許せなかったのは…


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っと思い出し損ねた時に、俺は起きた。


「やっと起きたようだな」


俺は金髪野郎の声と恭に揺れ動くのを感じた。何かの乗り物に乗っているようだ。目を開けた瞬間俺は森の中にいた。だが、俺の作戦通りではない方角と、手段でな。見事に捕まっているのだ。


俺は馬の足音がはっきりと聞こえ始めた。雨は完全に止み、すっかり夜になっていた。王国から離れているところでの夜はかなり暗くなる。どれぐらいかというと目の前が見えないほどに暗くなる。だからランタンや、廃墟に明かりがついていない場合はかなり危険だと思った方がいい。まず、誰が馬に乗っているのかを見た。そして奴はまだいた。俺を見事にぼこぼこにしたあの金髪野郎だ。丁度いい、まだここから切り抜けるチャンスが見えた。


チャンスと言えば、ここから抜けて、俺の住処に戻ることだ。それは俺にとって何よりも大事なのだ。俺が自分の目的を果たすにはそれが最低条件だ。なぜならある協力者と合流しないといけない。だがその話はしっかり説明する時が来る。牢獄に閉じ込められたら、出られることすら怪しい。牢獄に入れば出られる方法はいくつかあるのは知っているが、かなりリスクが大きい。警備に賄賂や、脱獄はもちろん手段としてはありだが、かなり博打だ。


だがその中でも一番確実に出られる方法は盗賊団や盗賊組織にメッセージを送って仲間になることだ。そしてそいつらにそのメッセージを送ったらいくつかの指示が出されて、盗賊としての覚悟を示さなければならねぇ。それが通った場合で初めて確実に脱獄の可能性が高まるだが、それが一番楽観的な見方だ。盗賊団と組織には厳密なルールが存在する。そしてそれを破ったら刑罰が下される。


例えば、もしその盗賊団や組織を抜けたい場合、手の一部を切るか、より一層、体の一部を切らされる。そしてもしそいつらから逃げようとすれば、命の限りに追われる。そして追われる奴の末路としては奴隷になるか、暗殺されることが多い。王国でなくても奴隷は存在する、そして恐らくもっと卑劣なのかもしれない。俺は噂ぐらいしか聞いたことはないが、実際にどうかは知りたくもねぇ。俺にとっては一番やりたくはない手法だ。あいにくその生き方は十分に経験した。だから何としてもそれを阻止しないといけない。そして俺は驚くふりをした。


「は、金髪の旦那!一体、俺どうなったんだ?」


「お前は負けんだ、それだけのお話だ。」


「そうですかい…他の盗賊どもはどうなされたんで?」


「めんどくせぇから置いてった」


「じゃあなんで俺だけ連れ去ったんだ?」


「文句言うな、依頼として頼まれたらだ。他の盗賊はそれに関係ねぇ」


「文句なんてとんでもない。俺は気になっただけだ」


この会話の目的はこの金髪野郎を説得することだ。そうするためには味方のように振る舞いをしなければならない。味方になるということはこいつの話を聞くということだ。そしてこいつが大事にしていることを引き出す。そうすることが出来たらここから出られるチャンスが見える。


「しかし旦那、こんな仕事やっていて大変じゃないですか?なぜこんなに体張るんですか?」


「うるせぇ、ご機嫌どりはよそでやれ。お前は問答無用で牢獄行きだ、いいな?」


「あぁ、もちろん文句はないさ。勘違いさせて悪かった、そんなつもりはなかったんだ旦那」


俺は味方になったつもりで攻撃的な態度を避ける。今は正直これが成立するかは分からないし、何よりも緊張感が解けない。時間が過ぎていくうちにチャンスの幅が格段に下がる。だがここは合えてこの人の弱みに付け込もう。今はやるしかねぇ。


「俺の勘違いかもしれないが、あんたが辛そうな思いをしているようにしか思えなんだ」


「お前に話すことはない、黙らねぇとまた気絶させるぞ!」


図星の反応出たな。ここは慎重に行こう。


「そ、そうだな。分かったよ。俺は黙るぜ。ただその代わりっと言ってはなんだが、旦那の話をしてもらえないか? 俺はあんたがどんな人生を歩んだのかを知りたいんだ」


金髪はため息をしながら少し考えた。


「…俺は話すのは苦手だ」


「まあそう言わずに何とか!王国までの道も長いんだし俺は待ってやるからさ!」


またため息をつきながら


「分かった…どうせお前とはもう会うこともないだろうしな」


「おぉ、感謝するよ!ていうか、俺の自己紹介はまだだったな。俺はドーレン・アイセルドだ。旦那はなんていうんだい?」


「お前、黙るんじゃ…まあいい、名前は大事だ。俺の名はシリウス、シリウス・シグバートだ。そして貴様の名はドーレンか…」


「あぁ、であんたの名前はシリウスって言うんだな、なんか勇ましい名だ。よろしく頼むぜ、シリウスの旦那!」


そして金髪…じゃなくて、シリウスの旦那は少し思い詰めたような顔をしていた。


「いや、まさかな…」


「ん?どうかしたのか、シリウスの旦那?」


「いや、いい名前だ。こちらからもよろしく。では望み通り話そう」


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シリウスの旦那は一通り自分のことを話してくれた。どうやら元々はぺルペトラ王国に仕えていた騎士の見習いだった。彼はその騎士の見習いの中では飛び切り優秀ではあったらしい。それに関してはもう想像できるというか、目の当たりにしたしな。だが修行をしている最中、ある疑念を持っていた。それは剣と魔法の扱いについてもっと学ぶべきなのでは、そしてそれ以外のにもたくさん学ぶべきではないか、と疑問に思っていた。


その中でたまたま騎士の指導者の人に自分が全て持っている疑念を容赦なく話した。そして、意外にもシリウスの考え方が正しいと言ってくれた。その指導者はシリウスの旦那が知りたいことを全て教えてくれた。異なる魔法の使い方、教会にあるアートの意味、それがどこから生まれたのか、そしてなぜそれを大事に思っていたかを。シリウスの旦那の悩みが全部打ち解けたそうだ。そしてその日から、シリウスの旦那は彼を師匠と呼んだのだ。シリウスの旦那は彼の凄さを語る度に真剣だったので、それについても称賛の態度でかなりの質問を投げた。どうやらその指導者はある集団に所属していてシリウスにも仲間の一員になる資格があると言ってくれたらしい。そしてシリウスの旦那は迷わず団員となることを決めたんだ。その名もクラト・ミスティコと呼ばれる集団なのである。



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「だが、王国のなかで二つの派閥がいた。俺が支持しているクラト・ミスティコ派と対峙する勢力、インペルト派だ。そこから狂い始めたのだ…」


「ほう、なるほど。どのようにですかい?」


と聞いた瞬間にシリウスの旦那が糸が切れるように怒りを見せた。


「インぺルト派どもは俺たちから何もかも奪われた!そして王はそれをいとも簡単に見逃しやがった!俺たち、クラト・ミスティコ派の同志を殺害し、監禁し、他国までにうり飛ばしやがった!」


「それはひでぇな。心の底から解消しきれねぇ怒りを感じたんでしょう」


なるほどな、っと思った。そりゃああんな修羅場をくぐり抜けたような顔をするわ。シリウスの旦那には同情する。俺は嫌になるほどそれを経験したからな


「その通り、その罪に対する怒りは消えなどすることか。俺が求めている答えがどこにも見つからねぇ!」


「間違っていればすませねぇが、だからこんな正義にこだわるんですかい?」


「正義?へっ!そんなもん笑い事にしかならん。王国の騎士も、国民を守る組織も、そして果てには王でも真実について向き合わねぇ。そんなもんに正義はねぇだろ」


「そりぁごもっともですな、シリウスの旦那の事情は分かった。ここから俺が提案してもいいか?」


「提案?だから言ったろ、お前にはもう選択肢はない!お前は盗賊だ、下手したら俺が憎んでいるやつと変わりはねぇ!」


俺はできるだけ真面目な顔をしてシリウスの旦那に語りかける。だが本心でこの顔を見せた。


「だがあんたは正義なんてもんはないとも言った。なら提案を聞いてはくれないか?」


「ちっ…」


「あんたの苦しみがどれだけのもんか俺はしらねぇし、語れる資格もねぇ。だが、俺の事情も分かってはくれないか?俺は好き好んで盗賊をやっているんじゃねんだ」


「じゃあ本当に人殺しはやってないんだな?」


「いや、誓ってない」


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シリウスの旦那は俺の顔をじっと見つめて確信得られるまでながめていた。そして落ち着きを見せた。


「それで、今回の件は関係ないから解放しろってか?」


「あぁ、もちろんタダとは言わねぇ。俺を見逃してくれたら、あんたの助けが必要としている時、協力できるかもしれねぇだろ?」


「確かにそれなら俺に得はあるな」


「そしてあんたは一秒でも早く黒幕を探すことはできる。悪くはねぇだろ、旦那?」


彼は深く考え込み、馬が止まるのが聞こえた。そして結論を出した。


「たく、めんどくせぇ。一本取られたな」


また俺が追い詰められた時みたいな笑みが見えた。だがより一層深い笑いだった。また理解者が増えたことに喜びを感じているのだろうか。


「よし、分かった。望み通りお前を開放してやるぞ、ドーレン。ただし、できるだけ悪さはするなよ。俺は悪人とつるむ気はまんざらないのだからな」


そして旦那は俺の縄をほどいて、俺の持ち物を返し、馬から下したのだ。まさかこんなに上手くいくとは正直に思わなかった。その上にまさか王国に住んでいたやつと同情の感情が生まれたことさえも奇跡のように感じた。


「おうよ、助かるぜ旦那!必ずこの恩は忘れねぇ!」


「てか、ここからどうするんだ?あの廃墟から結構遠いんじゃないのか、俺が馬に乗せて送り返してもいいんだぞ?」


「いや、十分だよ旦那。宛てならあるぜ。じゃあまたどこかで会おうシリウスの旦那!自分が求めている答え探せることを願うよ」



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シリウスの旦那との交渉は成立して、別れを交わした。だが、まったくてのかかるこったぜ。あの人は本当に抜け目のない人だな。普通なら気絶させられて投獄される身だった。幸いにも俺が知っている知恵でこの状況切り抜けられた。あんな旦那の態度には無理もないがな。あんな経験をしてみろ。王国に忠実に思っていた少年があんな形で裏切られる羽目になるとは思わないだろう。あの人なら何年立ってもくたばりはしないだろう。意志が常にあるやつていうのは必ず生き残って使命を果たすのに忙しいしな。


俺は星を見上げた。月は満月であった。そしてなぜかこの日の月は特別なもののようにも思えてきた。なぜかは分からないが。


「しかし、いい眺めだ」


そして森を見るとなぜか偵察を思い出す。おそらく、木登りのせいだろう。俺が高い所に偵察するのは今日が初めてではない。色んな場所から上を見上げたことがある。そしていつも目に映るのは黒と白というふたつの色だ。実際にそうではないとは知っていても俺には二つの異なる世界に見える。暗闇しかない世界と光しかない世界。そのふたつの世界は同時に存在しても許されるが、混ざることは許されないように感じた。


そして、笑うしか能がない貴族どもが何も苦しまずに人生を謳歌おうかし、そしてそれ以外の奴らは人生の闇に住む他ならない。本当はそんなもんはただの幻想なのは知っている。だが、腹が痛くなるんだ、王国に住んでいる奴らは俺たちが存在すること分かってないように思わなければいけない。


本当に不思議だ。まるで天界と冥界が規約を交わし、この世界を生み出したようにしか思えねぇ。だが、それも悪くはないのかもしれねぇ。なぜなら俺はまだその天界と呼ばれるものに潜り込めるかもしれないからな。そして、それ以外に一つ喜べるものがあるとすれば今日のように満月が見える夜だ、なぜそう思うかは知らないが、俺にとっては完璧と呼べる財宝だ。俺はそれを見ていつも思うのだ、


「いつか月さえも盗んでやるってな…」


まあ、無理だろうな、だが俺はチャンスがあれば諦めねぇ。


「さてここからどうしようか…」


っと思った矢先、直感が宿る。


















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