コンティニュー編

 ここで過ごせるのは、あと何回だろう?


 天気に関係なくたくさん会えるようになって、学校でも街でも、先輩はたくさんの人から声を掛けられる特別な存在だと知った。


 だから、僕なんかがこれ以上近づいてはいけない。そう思っていた。

 部室を手放す。そう告げられるまでは。

 そう言った先輩の顔を見て、僕に向けてくれていた表情が、他とは違ったんだと初めて気づいたんだ。


「ここから、先輩がプレイしてもらえませんか?」


 二回目の呼びかけで、先輩は僕の言葉に気がついた。これを最後のゲームにしようと決めた日から、こんな調子。

 このゲームの結末を僕はもう知っている。サブキャラのじれったさがなんだか僕らみたい。僕も何もできないまま、今日を迎えた。


 壮大な音楽に合わせて、騎士が告白する。最終局面に向けて、絆を深める場面だ。先輩は画面に集中している。晴れ空の光が照らし、相変わらずきれいだ。

 気づかれないようにそっと近づく。肩が少し触れるけど、画面を見て誤魔化した。


「愛している」


 僕は字幕に言葉を重ねる。手に触れ、先輩に身体を向ける。自分の言葉じゃないことが情けない。でも二人を繋いでくれたのがゲームだから、僕に勇気の魔法をかけてくれると信じた。

 先輩と目が合い、鼓動が早くなる。緊張で震えないように笑った。


「ちょっと、大げさでしたね。先輩、ここを使わなくなっても、これからも一緒に過ごしていきたいです。僕は特別な人間ではありません。でもずっと、先輩のことが好きでした」


 声が小さかったのか、返事がない。頭が真っ白になりそうだ。

 そう思っていたら、ぽたりと手が濡れた。また、ぽたり。


「ずっと……わたしも」


 先輩は僕を抱きしめて、静かに泣いた。

 それがとても愛おしくて、僕は先輩をぎゅっと一度抱きしめて少し離れ、額をくっつける。そのまま、唇を近づけた。


 ――カチッ


 コントローラーのボタンのような音と、少しの痛み。頭が真っ白になる。


「ふふ、コンティニューしましょ?」


 そんな僕に、先輩の嬉しそうな声が届いた。

 少し額で押されて、久しぶりに先輩の瞳に、少しいたずらっぽい光が覗く。

 僕の唇に、今度は柔らかな感触が触れた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る