知っているのはこの空だけ~コンティニュー~
つくも せんぺい
ゲームクリア編
この場所を使わなくなるまであと数日。
窓から見える入道雲。雨の日だけだった二人の時間は、晴れの日も過ごすように変わり、街に出かけたりもした。出会ってからカレンダーの数字だって一周した。
後輩くんとの時間が一番幸せだった。
けれど、彼にとっては、肩を並べてゲームする先輩のままなのかも知れない。とっくにわたしよりゲームは上手いのに。
今日もゲームしている彼を見つめる。夏だから短めに髪を切っていて、きれいでまっすぐな瞳がよく見える。
肩が触れない距離のまま、離れないでいてくれた。でも、近づいてはくれなかった。ずっとこのままでは居られないから、このゲームをクリアしたら、部室の鍵を閉めよう。わたしの気持ちにも。
そう決めていた。
「聞いてますか?」
考え事に耽っていたら、後輩くんが顔を覗き込んでいた。
かわいい。……いけない。
「ごめん、聞いてなかった」
「やっぱり。ここから、先輩がプレイしてもらえませんか?」
後輩くんが持ってきた映像がきれいなアクションRPG。わたしは本当はゲームが得意なわけじゃないからあまりプレイせずに、彼のプレイを、どちらかというと彼を眺めていた。
コントローラーを受け取る時、彼がぎゅっと手を包みこむように渡してきて、ドキリとする。わたしがしていたことだけど、なんだかずいぶん久しぶり。
ボタンを押すと、ステージが始まるわけじゃなく、ムービーシーンだった。
仲間である騎士と魔法使い。じれったい関係が見てられなかった。わたしたちみたいで。
ふと気づくと、後輩くんとの距離がなくなっていた。肩が触れて驚いて彼を見ると、彼は画面を見つめている。
騎士のセリフが字幕で流れる。
――君の魔法が、違う。君が居たから、辛い旅路も乗りきれた。この戦いが終わってもずっと側に居てほしい。平和になって、色をとり戻した世界を二人で旅しよう。
「愛している」
……聞き慣れた声で、聞いたことのない言葉が字幕と重なった。
わたしのコントローラーを握る手に、彼の手が重なる。ハッキリと分かるくらい真っ赤な顔で、後輩くんはわたしを見つめていた。
「ちょっと、大げさでしたね。先輩、ここを使わなくなっても、これからも一緒に過ごしていきたいです。僕は特別な人間ではありません。でもずっと、先輩のことが好きでした」
彼は恥ずかしそうに、けれど優しく笑った。
夢見てきた。何度も。答えも、表情も、何度も想像してきた。
その度に否定した。知っているのは、わたしの想いだけだったから。
でも、後輩くんの声が、表情が、指先が伝えてくれる。わたしだけの妄想じゃない、わたしだけの想いじゃないって。
「……」
ダメ、言葉が出てこない。
「ずっと……わたしも」
それしか言葉にならなくて、わたしは彼を抱きしめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます