第4話 デスクヒーローズ

 「ゲームを足でやることにした!?お前本気で言ってるのかよ。」

12月の北風が舞い込んでくる教室で昼食を食べているとき、僕は和夫に昨日決めたことについて話していた。

「うん。腕だとどうしても銃を撃つときと照準を合わせるときの区別が難しいんだ。足でやれば短いとはいえ、足の指があるから、腕だけじゃできなかった区別ができる。機能やってみたけど精度はわるくなったけど、意図した動きにある程度できるようになったからしばらくやってみようと思ってね。」

「なるほどな。確かに手と同じように扱えるようになれば今までのエイムに近づけることができるもんな。」

 和夫はひどく感心した様子で僕の話を聞いていた。

「でもよ。大会とか出るときに足でやったらだめとか言われねぇか?」

「前例がないとはいえ、チートの類じゃないんだ。いびつとは言え、きっと許可自体はしてくれるよ。」

 和夫はこの何か月かでかなりの上達を見せていた。それもかなり上位に食い込むぐらいには射撃制度も動きもばっちりである。そこで大会に出るかに関しても話すようになった。正式リリースとしてはまだ始まったばかりだから僕らにとっても運営にとっても初めての大会だ。

「わかった。じゃあ仕上がったら俺も協力するよ。でも、ほかにも問題があるよな?」

「問題?足でやること以外に問題ってあったけ?」

僕が和夫の言った質問に理解できないでいると、和夫は僕の顔を覗き込むように言った。

「ちがうよ。仲間だよ、仲間。俺たち二人しかいねぇじゃん。あとの三人を集めないと大会には出れないぞ。」

「あっ。そうだった。仲間がいない。いまから集めるならすでにやっていて程よくうまいやつじゃないと。」

僕の回答にあきれたといわんばかりに椅子に腰かけなおした和夫だったが、その後すぐに僕の方に向いて言った。

「水谷は?ほら二組の。あいつは確かゲームうまいって噂だし、たしかお前がやってたガンツもうまいんじゃなかったか。あいつならボンズもできるかもしれないぜ。

「水谷君と僕面識ないんだけど……。どうやって声かけたらいいのかな。」

不安になって尋ねると和夫は胸をたたいて俺に任せろといい二人で水谷くんのところへ行くことにした。


「いいですよ。僕でよければ。」

水谷君はさらっと和夫の提案をのんだ。あまりにもうまくいきすぎてびっくりして声も出なかった。

「まじか。ありがとう!これからよろしく水谷!」

「ええ、はい。こちらこそよろしく。」

一瞬で仲良くなる和夫と水谷くんを見て僕も急いで挨拶する。

「えっと、これからよろしくお願いします。水谷君……。」

「なんで敬語なんだよ。それよりお前右手そんななのにFPSできるの?」

控えめなあいさつに食い入るように右手について聞く水谷くんだったが、和夫が割り込むように言った。

「こいつの戦術があれば、腕なんて気にならないぐらいだぜ。なんてったって、足でゲームができるぐらいなんだから。」

水谷君はそれを聞いて目を丸くした様子である。

「そいつはたまげたな。ま、別に僕も大会に出れるなら文句ないよ。試しに今日の9時から一緒にやってみるかい?」

「お、そいつはいいなぁ!優希、俺はいけるけどお前はいけるか?」

「僕はいつでもプレイしてるからもちろんできるよ。足に移行して間もないからあまりエイムには自信がないけど。」

「よしっ!じゃあ三人になった記念の初戦は今日の9時からな!」

びっくりするほどの速度で決まった僕らのチームは早速試合をしてみることにした。


 水谷君の驚いたところは、その圧倒的なエイム力だ。控えめな僕のプレイスタイルとは真逆のガンツ勢ならではの荒々しい動きにマッチしたエイムは見ていて気持ちがいい物だった。ただ、駆け引きはどうも苦手なようですぐに突っ込んでしまうことが多い。ここら辺は連携しながら動くことで解決できそうだ。何より彼のプレイで一番気になったシーンがあった。攻撃側の爆弾設置後の人数不利の状況。僕と和夫は死んでしまい、水谷君が一人になっていた場面だ。本来であれば一度に見れるところはもちろん一つの為、挟まれたり、別のところから来られると負けてしまうことが多い。しかし、

「速い……。」

そう声を漏らしてしまうほどの素早いエイムで別のところから来た敵まで対処し、人数不利の状況を打破した。フリックと言われる高度テクニックである。スキルを駆使して戦うというよりは、純粋なフィジカルで勝つ。そんな彼のプレイスタイルが分かる場面だった。

「すげぇよ。水谷。おまえなんであんな所にいる敵が倒せるんだよ!」

「フリックはガンツのもはや常用テクニックだからね。このゲームでも十分に生かせるみたいだし、スキルが残ってなくてもこのぐらいなら勝てるさ。」

水谷の自信にあふれる回答がボイスチャットに乗ってくる。和夫もかなり興味を持ったらしく、水谷の動きに対していろいろ質問していた。

「でも、なかなかにいい指示だったよ。優希くん。君がどこから敵が来るか予想していなかったら、フリックを使うという考えが浮かばなかったかもしれないからね。」

「あの状況に対処しただけで十分すごいよ。これなら十二分に戦力になるよ。」

水谷くんもこちらの動きに満足したらしく、僕らの三人での戦闘は勝利を収めることができた。

「そういや、このチームに名前ってあるの?」

水谷君が急に疑問に思ったようで聞いてくる。名前なんて考えたこともなかった。

「いや、特に考えてないね。どんな名前にしようか。」

「君のプレイヤーネームはデスクヒーローだったよね?」

「うん、そうだけど。それがどうかしたの?」

「いや、ここは安直だけどデスクヒーローズとかどうかなって。仮だから名前なんてどうでもいいんだよ。相手方もリーダーが誰か分かるし。それにデスクヒーローって前シーズンまでランキング常連で有名だったじゃん。」

「え?僕有名だったの?」

僕が有名だった?そんな話を一度たりとも聞いていなかったので実感がわくことはなかった。思わず聞いてしまう。

「そうだよ。さすがに一位をそんな何回もポンポンとってたら有名にもなるさ。ま、これで決まりってことでいい?名前より、大会の戦略考えないと。」

「う、うん。じゃあこれで決まりで。」

「よし!じゃあ早速もう一戦やろうぜ!」

その後何回か戦闘した後、三人で決めたデスクヒーローズの名前を胸に、僕らは大会へと準備を着々と進めていくことで同意した。

挨拶をかわし、ボイスチャットを切る。時刻は午前0時。そろそろ寝てもいい時間だ。でも、まだ僕にはやることがある。

「もっと戦略バリエーションを増やさないと。絶対に負けたくない……!」

思いつく限りの戦略を紙に書留、シミュレーションしていった。かすかな月光が自分を照らしているのを感じた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る