第3話 戦闘は経験値が命

 秋特有の乾いた寒さが顔を出す午後8時。僕と和夫はガンツの練習をその日のうちに始めた。アプリを使ってゲームをしながら会話できるボイスチャットを利用し、和夫とバトルボンズについて説明する。和夫はとても要領がよく、僕が説明したことをみるみる覚えていった。普段からちゃんと授業を聞いて覚える習慣が生かされているのだろう。和夫の努力が分かる場面でもあった。

「要するに、敵がいるかもしれないところを見ながら、それを協力して阻止して攻撃する。逆に防衛側は相手がどこから来るか予測してそこにエイムしておけばいいってことか。」

「そういうことだね。でもいつでもそこから来るとは限らないから味方からどこからきているかの情報をもらいながら移動することも大切なんだけどね。」

「じゃあ、敵が来ていたら逆にその場所を味方に伝えて味方が寄る時間も稼がないといけないってコトか。」

「話が早くて助かるわ。じゃあ、早速実践と行こうか。」


そして、勢いよく実践へと向かった結果。

「だめだぁ。全然勝てねぇよぉ。」

「いやまじでごめん。俺のエイムがぐちゃぐちゃなせいで。」

「それは俺も同じだ。お互い銃の制度を上げないと戦略の意味がなくなってしまうよ。」

戦略が大切とはいってもFPSだ。結局は撃ち合いで勝つか負けるかで勝敗が決まる。そこがこのジャンルの切っても切り離せない要素なのだ。

「なぁ優希。おまえのパソコンってどれぐらいしたんだ?」

「うーん。確か10万円ぐらいだった気がするけど。どうしたんだいきなり。」

「俺のパソコンじゃどうにもカクつくんだよなぁ。たぶん古いからなんだろうけど。撃ち合いに集中するなら、キーボードもマウスも、全部買い替えかな。」

和夫の若干のため息がボイスチャット越しに聞こえる。お金の問題ばかりはうちの学校がバイト禁止である以上、切っても切り離せない問題だ。部活で親にいろいろとお金に苦労を掛けている和夫からするとけっこう深刻な問題なのだろう。

「良ければ僕が少し出そうか。僕から頼んだことだし少しぐらいは協力しても……。」

「いやだめだ!俺自身が解決しないといけない問題だから。何か費用を抑える方法みたいなのはある?」

和夫は僕の援助を断り、自分で切り口を探すことにしたらしい。いつも以上に真剣な声に本気になってくれていることが伝わってくる。

「……パソコンのパーツを中古で買って自分で組み立てるっていう方法がある。だいたい必要スペックを満たすなら……5万円は必要だな。買うべきパーツは僕があっせんするよ。自分で出せそう?」

「それぐらいなら何とかできそうだ。ありがとう。買うまでにできることってなにかある?」

「そうだね……。ほかの人の動画を見ればいいよ。先行プレイの動画ならうまい実況者とかがたくさん出しているはずだ。それで動き方が視覚的にわかるはず。」

「OK。なにからなにまでありがとう。」

和夫はその後、勉強があるからとボイスチャットを切った。和夫からすればやることが多くて大変だというのに、ずっと本気を出しているような、そんな様子だ。僕はパソコンのディスプレイの電源を切り、すこし椅子にもたれかかる。目を閉じ、ゆっくり息を吹いてもう一度電源を付けた。

「ここで僕が怠けるわけにはいかない……腕を何とかしないと。」

体にこもった熱が冷たい空気で冷え切るまで僕はひたすらに射撃練習を続けた。



 そして二週間後、和夫は僕があっせんしたPCパーツを購入し、手伝いながらではあったものの、自分でパソコンを組み上げた。和夫はそのパソコンを見つめてそっと撫でる。中古であるが初めて自分で組んだパソコンなのだからうれしくなるのも当然だと思う。僕も初めて組んだパソコンの事は鮮明に覚えているのだから。

「パソコン組むのって面白いな!こんな風にうごいてるって知るだけでも面白いぜ。」

「そうだろうそうだろう。やはりパソコンは自分で組み立てるのが一番楽しいからな。」

「ああ、ほんとにそう思えるよ。」

和夫はきらきらとした目で応えた。にしても和夫がここまで機械に興味を持つとは思わなかった。

「そうとくれば、早速動かしてみようぜ。これで和夫もバトルボンズが快適にできないっていう理由はつぶれたからな。みっちり教えてやる。」

「おうよ!しっかり頼むぜ先生!こっちは気合十分だ!!!」

浮かれた自分にのりのりで和夫が応えたことで気分は完全に有頂天になっていた。今ならどんな敵にだって勝てる気がする。


 和夫は驚くほどの成長を見せていた。足音を消して敵に接近する場面、相手がいそうな場所に照準を置くプリエイム。自分が説明していない部分までほぼ完ぺきにこなせていた。動画だけでここまでできるようになるとは思ってもいなかった。

そして残すはわずか一点のマッチポイント。防衛側だ。自軍は僕と和夫の二人で相手は一人。僕は敵がいる場所を特定し、和夫と二人で挟み撃ちにしようとしている。

「ゆっくりな。敵が爆弾を設置しようとしているところを挟み撃ちにするんだ。絶対に音は立てるなよ。」

「わかってるって。こいつが一方を警戒してる間に撃てばいいんだろ。」

「OK。じゃあ出るぞ。3,2,1、GO!!!」

敵はこちらが急に顔をだしてきたことに気づき、すぐさま銃を構える。しかし、場所が分かっていた僕の方が先に撃ち出すことができた。

「ごめん、頭外した!」

やはり、手がどうしてもぶれる。正確に頭を狙うことができず、弾が胴体に当たってしまった。あと3発は当てなければ敵は倒れない。僕は急いでエイムしなおそうとしたが相手のエイムが整い、そのまま脳天を打ち抜かれてしまった。

しかし、裏には和夫がいる。和夫は慣れないながらも正確なエイムで相手の頭を打ち抜き、このラウンドを制することができた。

ゲームセット。僕たちの初めての勝利である。

「いっよっしゃあああああああ!!」

和夫が大声で声を上げた。

「なんとか勝てたぁ。GGグッドゲーム。和夫、ナイスフォローだったよ。」

「ほかの味方が死んでも俺たちだけでやれたな!人数有利だったとはいえ、試合にかてたらやっぱうれしいぜ!」

ボイスチャットごしで喜び合い、僕らは初勝利をかみしめた。お互いが近くにいるかのような気迫だった。

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