第2話 現実

 「だめだぁ、ぜんっぜん勝てねぇ……。」

窓からの光が街頭ぐらいしかなくなった深夜。僕は招待された新作FPS『バトルボンズ』を一日中プレイした。したのだが、これが面白いぐらい勝てない。具体的に言えば打ち勝つことができなかったのだ。敵がいる場所、どうやって攻め入るか。それらは簡単に察知できる。それでも銃がまともに打てないということがいかに致命的か思い知らされてしまった。

でも、なかなかにいい収穫ができたな。


このバトルボンズは3対3で攻撃と防衛に分かれ戦うゲームだ。攻撃側がサイトと呼ばれる場所に爆弾を設置して爆破時間まで守り、防衛側は逆に設置されない様に守り、設置されたら敵を倒して解除するといいう流れである。これを10回制したチームが勝利となる。いわゆる「タクティカルFPS」という分類のゲームらしい。いままでやってきたのは「バトルロワイヤル」というジャンルで100人でフィールドに降りて一人で戦うゲームだったので同じ銃のゲームでもかなり戦闘感が違った。しかしそこがよかったのだ。

このゲームなら、この腕でも戦えるかもしれない……!


そう、このゲームは戦略が求められる。つまり相手との読み合いがメインなのだ。この読み合いは撃ち合いには限らない。このゲームにはスキルというものが存在する。バリケードを設置して壁を作ったり、もろくて壊れやすい壁を補強できたり、味方にシールドをつけたり……、挙げればキリがないが、とにかくこれらを適切に使用するだけでもチームに貢献することができるのだ。

問題があるとすれば、自分ではあまり戦いに行けない……というところだ。

この腕では正面から打っても勝ち目はほとんどない。練習すればある程度は当たるようにはなると思うがそれでも限界があるだろう。とにかく自分がこの世界で勝ち上がっていくためには仲間との連携が必要不可欠だ。

そう、信頼関係があり動ける仲間が。

「やっぱり仲間を探さないと厳しいか……。」

とはいえやることが決まったのだ。あとは実行するだけである。

いつの間にか重くなっていた体を倒し、明日やることを考えながら、かすかにしか見えない天井を見つめていつの間にか眠ってしまった。



 「頼む……俺と一緒に世界を目指してくれ!!!」

まだ朝礼すら始まっていない朝日が照らす教室で僕は和夫に頭を下げていた。顔色を窺うと和夫は拍子抜けしたような顔で硬直している。

「いや、急にそんなこと言われてもわかんねぇよ!}一回落ち着いて話してくれ。」明らかに焦りながら話す和夫。落ち着いていないのはそちらの方ではないか?とはいえ硬直を解いて、朝っぱらから話を聞いてくれるだけありがたい。僕は周りから登校再開直後に引かれていることを感じながらまよわず昨日決心したことを和夫にはなした。

「で、仲間が欲しいから俺にその新作のバトルボンズをやってほしいと。なるほどな。初めからそう言ってくれよ。」

若干あきれながらも話を聞いてくれた和夫に胸をなでおろす。

「でも、俺でいいっていうなら協力するぜ。お前に助けられた命だ。お前の夢ぐらい、手伝わせてくれよ。」

歯をみせた笑顔でグーサインを決めながら和夫は快く承諾してくれた。そしてすぐさま表情を戻し話を続ける。

「ただよ。いつでも協力できるってわけじゃねぇ。俺も部活や勉強だってあるし、受験のことも意識しなくちゃいけない。ずっと力になってやることはできない。お前にもらったチャンスだから、こっちもはずすわけにはいかないんだ。そこは本当にすまない。」

今度は和夫が深々と頭を下げる。こういう誠実な一面があることは昔から知っていたが、いざ目前とすると友人でよかったと改めて感じた。

「謝らなくても、俺が勝手にやったことなんだから。それに協力してくれるだけありがたいよ。」

「優希……おまえやっぱええやつやな。」

和夫が弱気な顔になっているところに笑顔を向ける。こういう会話をしているだけで信頼感が増すような気がした。

「あー、悪いけどお二人さん。もうSHRショートホームルームの時間だから。カップルじゃあるまいし、自分の席につけよー。」

「「すみません!」」

周りの若干引いていた雰囲気が先生の一言で一気にクラスごとなごみ、僕は再び平穏な学校生活を送ることになった。


 授業が終了し、帰り道を僕は和夫と二人で歩いていた。前とは違い、すずしい風が吹き抜ける夕方である。

「にしても、俺なんかでいいのか?おれFPSの経験なんて全然ないぞ。」

「いいんだよ。今回のFPSは戦略がメインだからある程度の知識で代用できるさ。それに、お前は要領がいいからたぶんすぐなじめると思うぞ。」

「ほんとかなぁ。」

和夫は珍しく少々自信なさげに話す。どうやらまったく経験がないようで唐突に世界を目指そうなんて言われたら不安に思うのは当然だ。

「ここからは僕に任せてよ。しっかり練習プログラム作って一緒に戦うから覚悟しとけよ。」

僕はにっこりと笑いながら和夫に応える。和夫もほほを緩ませた。

その後も今後について話し合いをしながらゆっくりと帰路を後にした。

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