第17話 借金
「パーティに入りたいってストレートに言いなさいよ!! ちんちく」
「ぁぁぁお腹ムニムニ、やめ、やめて下さい」
日銭を稼ぎたいが1人でダンジョンを攻略する度胸はないという事で、入れてくれるパーティを探していたらしい。…3日間誰にも声を掛けられなかったそうだ。
「何で俺なんだ?」
「う、噂で聞いたので。いい人だって」
「…それだけで?」
「え、ん、はい。それだけで、す」
「アッヒャッヒャ!! イイ人は拡大解釈過ぎでしょ!!」
本格的に酒が回ってきたのか、大口を開けて笑うリファリー。
「どんな噂が流れてるんだ?」
「『あの赫刃に噛みつき、白薔薇をお持ち帰りしたとされる銀髪血塗れの女ったらし。しかも妙な魔法を使える』みたいな奴よ。ッフ、女ったらし…クスクス」
「それでどうして俺をいい奴だと?」
隣のリファリーの食べるハンバーグに涎を垂らしながらメニューを見る少女を見やる。
「あ、えと。私…その、顔だけはカワイイってよく言われ、るので! 女の子が好きなエロい人なら、入れて貰えるか、なて…あ、クラミーノです。よ、よしなに」
「エロい人」
「確かに! さっきもアタシの首筋とか胸元とかガン見してた!! エロい人じゃんアンタwwプッ」
「首筋はエロいのか?」
「「え」」
何故か息ぴったりだった向かいの2人は俺の方を訝しそうに見ながら内緒話をしていた。会ったばかりだが意外と仲は良くなりそうだ。
「アンタってさ、女の子と遊んだ事とかある?」
「ない…いや、ラパーチェと…あれは遊んではないのか。ない」
ラパーチェと飲み歩いたのは遊んだとは違う。カラオケに行ったり、マクドナで学校の課題を一緒にやったりするのとは明確に。
「赫刃と遊びで!?」
「うぇ、100人斬りすら女の子として…ふ、太いですね」
「? まあいい。クラミーノの等級は?」
「い、いきなり名前呼び…しゅ、しゅごい陽キャ…」
何故か名前を呼ばれた彼女は酷く身体を震わせていた。
「い、一応ホ級…で、す。ハイ」
「養って〜とかいうくせに生意気にホ級なのね♪ てかある程度腕があるんならなんでパーティ作らなかったの? ちんちくがリーダーやって下僕に貢がせればいいじゃん」
「下僕て」
「わぇ、りり、リーダーなんて絶対嫌ですぅ! せ、責任とか負えないし…ししゅ主体性とか、その。ないで、
リーダーという言葉を聞いて、クラミーノの顔は青くなる。髪と同じくらい青くなるので心配になる。
「そ、それに私お、お落ちこぼれ法師だし。み、みみついでくれる子とか、つくれないし…」
「落ちこぼれ法師?」
「名前的にやっぱそうよね〜。落ちこぼれでもホ級まで来るなんて大したもんだわ!」
リファリーの謎の上から目線が続く。いまいち要領を得ないでいると、クラミーノは俺の方を見て説明してくれた。
「あ、あの私の一族がその、有名で。男の子も、お女の子もみんなク、クラミーノなんです」
「歌舞伎の襲名性みたいな感じか?」
「カブキ?はわからないですけ、ど。多分そうじゃなくて、本当に名前が全員クラ、ミミーノなんです」
「へぇ」
「法師っちゅー魔法と剣でバランスよく戦う部族の出なのよ、このちんちく」
「そ、そうなんですけど、あ、あの。その、私は…剣が、怖くて、ダメでぇ…お追い出されちゃってぇ」
何だか境遇が重なるな…。別に見捨てようとかは思ってもいないが、どうしてか放っておけない気持ちにさせられる。
「剣がってことは魔法はつかえるのか?」 「え、あ、はい。んと、魔法だけは、結構! …あいや、そこそこ? そその辺の三流魔法使いよりは、ハイ」
周りよりを強調したいのか胸を張るクラミーノ。
「別に魔女のアタシがいるから要らないわ」
「えぇ!? あ、あの荷物持ちとか弾除けとかトラップ踏みに行ったりとか、そその。何でもしますから!」
青褪めたクラミーノは涙をうるうると蓄えながらリファリーの胸に縋り付く。
「リファリー様、と」
「り、リファリー様バンザイ!!」
「もーいっかい」
「リファリー様バンザイ!!」
「やんなくていいよ」
「っダ!! 超天才の頭をチョップすんな」
魔法にはそれなりに自信があるようだし、拙いながらも人とコミュニケーションは取ろうとする姿勢もある。性格に多少難はありそうだが、リファリーもクラミーノを気に入っている様に見える。本当は1人でやらなくてはいけない事だが、1人増えてしまったら2人も3人も一緒だ。
俺はクラミーノに手を差し出す。
「これからよろしくな、クラミーノ」
「ま、異論はないけど」
「アッ、ハイ! 借金まみれの私ですけど、よよろしくお願いしま、す。ハイ」
固い握手を交わす俺とクラミーノ。満足そうにそれを見つめるリファリー。
「「借金?」」
「え、えっ。み見せませんでしたっけ?」
一枚のボロ切れた紙が差し出される。俺とリファリーはそれを覗き込んで、思わず息を飲んだ。
「「…」」
「あれ? どどうしまし、た」
「あー、あれね」
「クラミーノ」
「は、はい?」
日本円で、大体500万円。
「今の無かった感じで、じゃ」
「ちんちく…強く生きるのよ」
「わぇえええええ!? ま、待っ、て。捨てないで…」
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