第16話 法師との出逢い
リファリーとの決闘は17秒で終わりを迎えた。
「負けた…? このアタシが」
「あぁ」
地面に組み伏せたリフォリーを自由にして立ち上がる。
「魔法が使えないなんて嘘じゃん…強化した視力でも追えなかったのよ」
「それは魔法じゃない、ただお前の盲点に入り死角へ入り込んだだけだ」
「何よそれ、魔法と一緒じゃん」
「違う、只の技術だ。練習すれば誰だって出来る」
魔導…と言っていたか? 巨大な火球が虚空に突然生まれ出した時は本当に驚いた。リフォリー曰く、「ヒト族の微量な魔力では無から火を生み出したり、水を作るなんて到底不可能。膨大な魔力とそれを制する技量とセンス…それが揃って初めて使えるの! 下手くそな魔法を超える『魔導』を!!」という事らしい。
「誰でも…」
「あぁ、俺はどこまでもお前達のような人間とは違う」
俺には才能が無かった。1つの技や技術を覚えるのにすら人並み以上に時間が掛かるし、使いこなせずに空回ったり余計に痛手を深めたりする事もザラだった。努力して努力して努力して…それですらようやく人並み程度にしかならなかった。
対照的にリフォリーはあまりにも才能に恵まれ過ぎていた。後にロン毛の人に聞いたところによると、『生物や物を対象に特定の作用を与えるものが魔法』、『生物や物が特定の対象を取らずに変化を起こすものが魔導』という事で、魔導を使える者は人間には殆どいない。使えると言ってもピンキリであるし、たった1つ魔導が使えるだけで10万に1人の大天才という事らしい。
(霧を生み出し、火球を生み出し、金属の剣を生み出した)
宙に浮いていたのは超級魔法という魔導に等しい代物らしく、1つ使えるだけで大変価値ある物をリフォリーは少なくとも4つも披露した。
「お前は強い、あまりに」
「だから何…」
「?」
リフォリーは四つん這いで大粒の涙をボロボロと零しながら叫んだ。
「そ、そんなアタシが凡人を名乗るアンタに負けたのよ!! そんな強さなんて何の価値もないじゃん!! っひ…うぅ…んんん…っっ…」
彼女は泣いた、泣いた。泣いた。決闘前の自信と誇りに満ち溢れた笑みは涙と土埃でグチャグチャになった。へたり込んで両手で涙を拭い続けるリフォリーを前に、俺は只立ち尽くしていた。
(俺が勝てたのは所詮初見殺しと小技で相手の油断と無知につけ込んだからに過ぎない)
次に戦えば、もうリフォリーに勝つ事はないだろう。誰でも出来る技術は当然、対策や対処も誰にだって出来る。大天才のリフォリーなら尚の事容易だ。
「はぁ…っう…負けちゃった…うぅ…っっ…」
「…」
俺は泣くことを許されなかった。小さい頃ツバキに負けて大泣きし、それで親父に左腕を叩き折られた事がある。道場を、剣を継ぐ器が泣くことは許されないと。生きてる感情のまま泣くリフォリーが少しだけ羨ましく映る。
一頻り泣いたリフォリーは、立ち上がると俺に駆け寄って心底悔しそうな目で俺を睨みながら胸倉を掴んだ。
「アタシが負けて、アンタが勝った!! だからアンタがリーダーよ!」
「? いや、別にパーティを組む気はないが」
「アタシが!アンタに!勝つまで! それまではアンタがリーダーやるの、ギンマル」
「…」
誰かの足を引っ張るわけにもいかないし、何より俺1人でツバキより先にイ級ダンジョンを攻略しなければならない。パーティを組む気など微塵もなかった。
だが、リフォリーの瞳の奥の決意は決してそれを許さないだろう。
「…分かった」
「…うん」
「終わったかい? 魔硝石も杖の方も準備出来てるよ」
雑貨屋のおばあちゃんは気付けば5本目のタバコを吸おうとしているところだった。一部始終を見ながら一服していたらしい。
———
「今度教えなさいよ、
「別にお前には要らないと思うが」
「お・し・え・ろ」
「分かったよ」
頰も赤らめてチビチビと酒を飲むリフォリーは初対面の印象とはまるで変わり果ててしまった。天真爛漫な子かと思ったが、どこかやさぐれた不良に見える。
「…何見てんのよ」
「いや…」
「惚れちゃった?」
妖艶?な笑みを浮かべるリファリー。
「?」
「…おこちゃま」
「18だが」
「…はぁ、おこちゃまね」
長い髪を見ていると、朧げな記憶の底の母さんを思い出せるような気がしたがダメだった。勿論、母さんの髪は煌びやかな金髪ではないが。
「あ、あのぉ」
「? 俺か」
背後から気弱い声に呼ばれた。
「噂の、あの、ギンマルさんですよね?」
「そうだ」
「や、やっぱり。………あ、それで、その。おふたりでパーティを組まれてるって、あの感じなんですよね??」
「はっきり言いなさいはっきり! 青いの!!」
「はひぃ!? ええと、その」
青い髪の子は過呼吸気味に頭を下げた。
「おお、おねがいしましゅ! 養って下さい!!!」
「やし」
「なう?」
俺とリファリーは思わず、顔を見合わせた。
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