第12話 トロフィー
「だーから!! 僕あキズモノにされたんだよお前に!!」
「言い方が誤解しか招かねーって!!」
もう朝になってしまったチャレンジャー通りに人影はない。本当に良かった、顔見知りになんていたらもー目も当てられない。
「うぅ…シクシク」
「酔っ払いってメンドクセ!」
「…」
千鳥足で俺に支えられてるラパーチェも平衡感覚がグネグネの俺も、何故だかニヤけていた。気持ち良く酔う…てのはこんなにもイイもんなんだな。行かせて貰えなかった修学旅行も、皆とこんな風に笑い合えたのかな? ツバキとも…
「キズモノに…」
「ショウシンモノな」
「はっ!? この僕が小心者!?」
「傷心者違いだろ、
「赫刃のラパーチェと渾名された僕に、ほんほ生意気だなお前は!!」
「ちょっ脇はダメだってハハハハハww」
「ふんw!」
…楽しい、久しぶりにそう思った。ヴォルペ達と飯食った時も、酔っ払いのくせに爽やかな笑みのコイツとはしゃいでいる今も。
「多分酒のせいで死んだ俺がな〜」
記憶は曖昧なので十中八九間違いないが、少なくとも曖昧なのは酒のせいなんだし。…飲まれた俺が悪いか!!
「え、何で2人が一緒に」
「姫だ〜〜〜〜!!」
「ツバキだ〜〜!!」
「しか、もなんで。楽しそうなの、そんなに」
「ぅお」
「だーいじょぶか?」
「だいじょぶだぁ…いや、冗談だっえ姫!」
「…」
何故か俺とラパーチェを見るツバキの視線は驚く程に冷たかった。特にラパーチェの方に向けられている。母さんが親父と喧嘩して出て行った時の目にどこか似ている気が。
ツバキはラパーチェをヘッドロックして俺にも来るように促す。
「ゆ…ギンマルもおいで」
「いい!! 行かない!!」
「ぐわぁ」
腹でも抓られているのか、ラパーチェは気持ち悪さと心地よさの同居した作り笑顔で俺を促す。
「おいで…」
「…しゃーないか」
「がががががが尻が!!!!」
「…よし」
絶対納得してないツバキは、その素振りだけ俺に見せて無言のまま白薔薇の館まで歩いた。着いた頃にはラパーチェは泡を吹いて気絶していた。ケータイを持っていれば写メっている程に傑作な顔だ。
—
「私のなの!!」
「僕のだぞ!!」
「…俺が真ん中ならよくない?」
「「天才か」」
「ハモるんだ」
何故か俺・ツバキ・ラパーチェの3人で白薔薇の館にあるベッドで川の字に寝る事になった。窓際の方で寝たいが、どうにもそれは許されないらしい。
「誰かと寝るのって初めてだ」
「家族と一緒に寝た事もあいのか?」
「んあー、ま…俺だけな」
「反抗期?」
「んー…教育の一環?」
椿に勝てるまでは団欒の一才を禁ずるって、俺だけは家族や学校の行事の全てをじいちゃんに封じられていた。結果的に何の意味も無かったけど。
「よしよし…いい子いい子」
「どうした急に」
「ギンマルには私がついてるから」
初々しい手付きでツバキが俺の頭を撫でてくるが、絶妙に目元に当たっている。
「つくなつくな。勝つっつてんだろ」
「姫に勝つだあ〜〜? フッ」
「ラパーチェはコレに勝った事あんのか?」
「…フフフ、ない」
「だよなー」
「そうだよギンマル。私…その、強いんだから」
「ラパーチェって手ぇ細いのな」
「触っちゃダメ! ギンマル、私の手のが細い」
「姫…それはなんか傷ついたわ…zzz」
俺の奪い合い?を制したのもやはりツバキだった。というよりは不戦勝の方が正確か。ラパーチェは器用に寝たまま服を脱ぎ始めた。
「ツバキの手…」
刀を握る者のそれではない。細く柔らかくしなやかで——
「——綺麗だ」
「えぁっ!? …子供は、もう少し先じゃ…ダメ、かな?」
俺のタコや古いキズに彩られた男の手とは文字通り対極にあるその手。努力を知らぬ、無垢なその手…切り落とせればどれほどの愉悦であろう?
「ツバキ」
「え、な…脱がせて、ほしい」
「おやすみ」
「………………………?」
『勝つとは支配すると言う事だ。敗者はただ支配されるだけ』…それがじいちゃんの口癖で座右の銘で俺への唯一のプレゼントだった。
(トロフィーが欲しかった)
椿が持っているのをいつも俺は見ているだけだった。
(ツバキの手がいい)
俺がツバキに勝利した暁には、握っているこの手をトロフィーとして飾ろう。
————
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