第11話 魔力ゼロ

————


「本当に生意気だ、君は」

「そうかな?」


 ダンジョンの調査を終え、1人・・帰還してすぐにラパーチェに捕まった。そうして事の顛末を話させられている。


「敢えて言っておく。僕は君が大嫌いだ」

「…根に持ってるのか?」


 と悪態をつきながらもラパーチェは俺と彼女の分の飲み物を頼んだ。


「下衆どもは殺したのか?」

「ころっ…俺は殺人はしない」


 人が人を殺す事に正当性なんてないし、最低の行為だと常に言い聞かせている。そうしないと手段として、俺は殺人を肯定してしまうだろうから。


「アイツらは自分達で気をつけろって言ってた罠に掛かったみたいだった」

「死んだか?」

「…あぁ、確実に」


 亡骸は凄惨極まりないものだった。360°見渡しても生存の可能性はあり得ない程に。


「ならいい。乾杯」

「…かんぱい」


 ラパーチェは冷徹なのか優しいのか分かりにくい人間だ。もしかしたらそのどちらでもあるやも。悪人であっても人が死んだ事に乾杯するのは流石に如何なものかと思うが。


「…ッ…ッ…プハァ、この一杯こそが僕の全てだ」

「へえー…」


 意外な一面もあるんだなと、俺もビールらしい飲み物を仰いだ。いつかに飲んだビールよりも格段に飲みやすく爽やかだった。こっちの世界では15からアルコールを飲んでいいらしいので、変に気負っていない分味に集中出来ているのだろう。


「よし、話せ」

「はぁ…ダンジョンに入って割とすぐだった」


——


「魔力が全く無ぇだー!? んな奴あいるわけねーだろダボ」

「いや、それがどうやらマジでねーみてぇだ」

「珍しいのか?」

「俺も色んな場所で色んな奴の話を聞いてきたが、お前みたいな奴は初めて見たよ」

「そうか」


 悪人面のエイブと彼の相棒の魔法使いの男、それから他の強面な男達も俺の方に視線を向けてただただ戦慄していた。


「そうか。…そうなるとマジで荷物持ち以外は無理そーだな。よし、ギンマル。取り敢えずちゃちーがこいつは持っておけ。安モンだから気にせず使え、そんな場面はねーと思うがな…俺らのケツにちゃんと着いてこいよ」

「あぁ」


 俺の魔力が全く無いという事実が発覚してから、彼らはとても小さな声で俺に聞こえない様に密談をしていた。…まあ聴力は人並みにあるので全然聞こえていたが、ダンジョンを見渡して気付いてない素振りは作っておいた。貰った脇差程度の得物はありがたく腰に差しておく。


「…どうする? もしかしたら新種の病気か特異体質って事になるが。表でも裏でも、結構な高値がつくぞ」

「ビョーキか…感染うつるって程のリスクを取るほどの金か?」

「まず間違いなく…な」


 彼らの青い顔色を見る限り、どうやらその辺は本当らしい。魔力が全く無い…曰く「エラで呼吸出来ない魚」に例えられる程の致命的欠陥なんだとか。魔法使いに関わらず、日常の道具などにも当たり前に使われる。だから、魔力がないというのは生きていないのと同じなのだと。


(生憎元から、生きてるけど死んでるみたいなもんでね…)


 と、前方の人でなし集団が無音で立ち止まる。さらに前には3-4mの隆々とした赤い肌の鬼が5体ほど、人間ほどの大剣や槍を握って此方に徐に近づいて来ていた。


「そりゃいるわな…調査中止を喰らった23人も死んでるダンジョンだもんな…やべぇ」


 此方に向けて全力疾走してくる汗まみれのエイブと仲間達は、俺をすり抜けて元来た道とは違う方へ走って行った。


「へへへ、悪いな兄ちゃん!! せいぜい時間稼ぎしてくれや!!」


 因果応報ってのはこの事を言うんだな。奥から来る鬼達も顔を見合わせて刻む様に笑っている。溜息を吐きながら安モンだという剣を抜く。俺が構えるのを見てか、鬼達の顔から笑みが消え濃厚な殺気が香り立つ。


「なんでこんなに落ち着くんだ」


 死線の中で感じる居心地の良さは、かえって不気味なのに爽快ですらあった。その後、俺は鬼達の首のデッサン(我ながら会心の出来!)と綺麗な装飾の施された大槍を携えてダンジョンを後にした。


——

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