第10話 新人
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「些細な情報や生物の目撃情報・収集した道具や素材の情報提供…これらに応じて報酬が支払われるんだったな」
無口な窓口の女の子の話(結構端折られ過ぎて難解だった)を纏めるとそうなる。俺の中の冒険者のイメージと違い、学者さんみたいな仕事の方が近い様に感じた。
「歴史的・技術的に秀でた品や素材なんかは凄い値段で買い取ってくれる…だっけか」
…多分それで合っている筈。
「さて…早速始めるとするか」
金無し・道具無し・経験無しと3拍子揃った俺の様な新人でも、協力者を募集しているパーティに合流すれば問題なくダンジョンに入れるとの事。俺は足早に協力者を募る巨大なボードの前へとやって来た。
「最初はト級ダンジョンだけなんだよな…ト級ト級…」
金払いが良いパーティなら何処でもいい。早く必要なだけの金を貯めて1人でダンジョンに挑めるだけの装備を確保したい。
「…全然無いな」
ツバキの様な天才がいるので予想はしていたが、やはりこの街のギルドには初心者向けの難易度はまるでない。無口な子も言っていた、「知り合いがいるなら頼って」と。しかしそうもいかない。
「やっぱ道具・武装無しで行くしかないか」
冒険者は儲かる職業らしいが、殉職率も同時に高いらしい。この間のヴォルペ達が調査していたホ級ダンジョンがいい例だが、とかく不測の事態や未知の脅威に晒される。登録の窓口では何枚も誓約書を書かされた。そんな場所に手ぶらで行くなんてのは自殺に等しい行いだと思うが、この程度こなせないようでは到底ツバキを超える事など出来ない。
「ツバキなら何なく…」
「兄ちゃん、新人だろ?」
「…あぁ」
悪人面の男が話し掛けてきた。
「駆け出しがムチャな格好や身の丈に合わねえ装備でダンジョン入って死んでくってのはよくある話だ。あんまりだと思わねえか?」
男は肩を組んで俺に諭す様な話し方で続ける。
「そうなんじゃないか?」
「ヒャハハ! 随分と他人事みたいに捉えてるよーだが、兄ちゃんみたいな腕っぷしに自信ある奴は大概そうなんだよ」
「…俺がそんな風に見えるのか?」
「そりゃそーだろ。死ぬかもしれねえって言われてる場所に行く奴の顔じゃねーからな」
…それは確かにそうだ。今の俺はツバキを負かし得る可能性を手にして気分が高揚している。
「だからどうよ? ウチのパーティの荷物持ちでもしてくれりゃあそれでいいし、報酬もフツーより色付けてやっから? な? イイ話だろ〜??」
男が拳を突き出し、俺が応えるのを待っている。突っ撥ねる理由もないと思っていた時。
「君、悪い事は言わない。辞退しろ」
「?」
突然赤い髪の女子が割って入ってきた。イケメン…というのかボーイッシュというのか、彼女は凛々しい顔立ちをしていた。装備や雰囲気からしてかなりの経験と場数を踏んでいる事が伺える。
「おいおいラパーチェ! まーた善人面して新人から貴重な学びの機会を奪うつもりか〜?? あん??」
「お前らの様な下衆よりは善人であるつもりだ。そういうわけだから君、僕と来い」
「おいおいおいおい勝手に話進めんなや!」
「…僕に逆らう気か? お前如きが」
剣呑たる空気がラパーチェから放たれる。鋭く、明確な殺意の籠った剥き出しの闘争心。男は怖気づいたのか、俺の肩を解放し後退った。
「…わあったよ。好きにしろよ」
「君、来い」
ラパーチェの手が俺を促す。
「いや」
「…は?」
「俺は彼らと行くよ」
「…君も僕に逆らう気?」
「は、兄ちゃん何考えてんだよ!?」
一度治まった闘争心がより強くより濃く俺1人に向けられる。しかしそんな事は関係ない。
「あぁ。君のような経験豊富な先輩の足を引っ張りたくはないし、君は信用出来ない」
「…」
「お、おいおい兄ちゃんやめとけって!」
徐々にラパーチェの放つプレッシャーは凄まじいものになる。俺を見据える獰猛な捕食者に近い眼差しを真っ直ぐ見つめ返す。
「…そうか、なら好きにするといい」
「えぇ!? あのラパーチェが引いた…?」
ラパーチェは俺を一瞥すると、何処かへと消えた。男は呆然としたかと思えば、彼女がいなくなった瞬間に俺の肩を抱いた。
「何の気まぐれか知らねーが、やるな兄ちゃん! んじゃ、世露死苦〜」
「…あぁ、よろしく頼む」
俺は下卑たニヤケ面の男と拳を突き合わせた。
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