第7話 殺意
———『コイツ強ぇぞ!!』と男達の1人が言った。そこでツバキに時折向ける剥き出しの衝動が溢れた。
「ツバキならもっと手際良くやった」
「あぎゃ…っあ…ゆ、許し…」
「ツバキならもっと綺麗に出来た」
「…ぐ…たす…だっ……」
「ツバキならもっと…」
「はい、ストップ」
元の顔が分からないくらい腫れた男を踏みつけていた俺は、声を掛けられ咄嗟に飛び退いた。
「うわ、エゲツない殺意だね」
「俺が強いわけねぇんだよ…ツバキなら更に上の…」
「あらあら、さては聞こえてないな?」
ツバキならやらなかった、俺より上手くやれた点は少なくとも13点あった。握り、重心、体捌き、倒す順番、躊躇…こんな俺が強いわけはない。
「ツバキなら…」
「ちょっと妬けちゃうな、その熱♡」
「!」
「うわ、躱されちゃった! ダーリン本当に人間なの?? うわ、はっや」
ローブの女の左正拳を最低限の動きで躱しカウンター。が、反射神経だけで避けられる。ツバキのようだ…ツバキ? ツバキなのか!
「ハッハッハッハッハッハ!! ツバキ、今日は遠慮なく真剣同士でいこう!!」
「深いのね、ダーリンの愛情♪」
ツバキの気配が変わる。構えや姿勢に変化があるわけではないが、纏う空気と表情に自信が香る。
「お前さえ殺せば…いなくなればあ!!」
「うん、来て。ダーリ…!」
さっき拾ったナイフの数本を投げて意識を逸らし、ツバキの盲点に入る。そこから躰道仕込みの卍蹴りを下腹部目掛け打ち込む。
「おっも…!!! はっや…!?」
「ひひっ! 首ィィィ!!」
膝抜きから加速した最速最善の逆袈裟は、体勢を崩したツバキの首を完全に捉えた。思わず口角が吊り上がる。
「——『
ツバキの目が赫く光り、次の瞬間。
「久々に使わされちゃった♪ おやすみ」
「…!?」
視界からツバキが消え、右耳から声がしたかと思えば地面が起き上がって来た。意識が遠のく———
————
「ギンマルはジンじゃない」
ジンは冷たくなってしまった。もう一緒に笑ったりお話ししたり出来ない。凄くよく分かっている事だけど。
「ギンマルは、似てる」
全然違う2人だけど、あったかいのは一緒だ。
「ギンマル…救ってくれるって言ってた」
ジンは私を守ると言ってくれた。やっぱり違う、だけど。
「ギンマル…」
「失礼、よろしいか?」
「どうぞ」
「夜分遅くになってしまい申し訳ない。が、やはり念押しの腕押し! ミーティングは抜かりなくやっておきたい」
「分かった、行こう」
「相変わらず準備の字を知らぬ御仁だな、ツバキ殿は」
「?」
「いや、すまなんだ。では参ろうか」
元気なサムライの人について部屋を後にする。
「ギンマル…守ってあげないと」
彼はあったかい、だからきっと冷たくなってしまう。
————
「ダーリンあったかい♡…」
「…胸」
目の前には胸がある。コンビニのえっちな本が置いてあるコーナーで見かけるような大きな胸だ。爆乳という奴か?
「…息くすぐったぁい♡」
「寝言なのか?」
「…ん…起きちゃった?」
声には聞き覚えがある。すれ違った猫撫で声の女性だ。その後は…ツバキに勝ちそうになったけどやっぱり負けた夢を見ていた気がする。でも、ツバキの部屋から帰ってた筈だ???
「ダーリンがぼうそーしちゃったから、えいやってして私の部屋に連れてきちゃったよ♪」
「…もしかして襲っちゃった?」
「凄く情熱的だったよ♡」
何故か青い肌の女性の声は嬉しそうだった。
「…ごめんなさい」
「ううん。謝らなくていいし、泣いていいんだよ♡」
「…それは、どういう」
女性の手が俺の顔を胸に沈めて、小さい子をあやすみたいに髪を撫でて来る。なんか勘違いされてる???
「君は無価値じゃないから♪」
「 」
「ツバキちゃん? を殺したりしなくていいし、ダーリンはダーリンでありのままでいていいんだよ♪ よしよし」
「 」
この人が何を言っているのかさっぱり分からない。
「…寝る」
「フフン、うん。おやすみダーリン」
多分誰かと勘違いしている。そっくりさんというのは世界に3人もいるそうだから、その内の誰かと仲が良いのだろう。
…今日はその人の貰う分の優しさを少しだけ貰う事にする。少しだけ、青肌の人の背中に腕を回す。拒否られるどころか、気持ち抱きしめ返された気がした。
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