第4話 魔法
「もっと揺れないように歩けないわけ〜?」
「…ッッ、はいはい」
「てかガリガリっぽいのに凄えがっしりしてんのなーニーチャン」
「…ッッ、そいつはどーも」
「そこ段差だよー」
「…ッッッ、見えてるつーの」
「えぇ!? ウチのおっぱいと太ももの感触に夢中みたいなムッツリ顔の癖にちゃんと見えてるの〜??」
俺の背中にはキツネ耳のスカーフ女…もといヴォルペが喧しくおんぶされている。だが今すぐ落としてやりたいと思っている、怪我人でさえ無ければ。
「何〜その沈黙は? ウチに言われてから改めておっぱいと太ももの感触に集中しちゃってる感じー?? も〜男子ってホントスケベなんだから♪」
(やっぱり落とそうかな)
「イ”ダ”ッ”ッ”ッ”」
「すまんな、アンちゃん。耐えられなくなったら存分に置いてってくれ」
「何すんだよラッツ!! 今初対面のニーチャンと距離縮めてんだから邪魔すんなよな」
「遠のいてんだよ、ったく」
「ッハハハハ…。 ! えほん」
こんなに気軽に笑えたのは生まれて初めてかってくらいだ。凄い気分が良い。背負ってた十字架がなくなったというのか肩の荷が降りたというのか。そんな俺を見てラッツとヴォルペは密かに拳同士を突き合わせていた。気を遣わせちゃったか?
「そっちの…ロン毛の人は?」
「問題ない。魔法使いとしては優秀なんだが、どうも閉所恐怖症が治らなくてな。ガッハハハ」
「魔法使い、か…」
「んだよニーチャン。魔法も知らねぇのか? 身なりといい剣の腕といい、トコトン謎が深いよな」
「ギンマルだって言ってんだろ…そろそろニーチャン呼びやめろ」
「でもニーチャンのが年上だろ?」
背格好は確かに大体頭1つ分違うが、言うほど年は変わらないと思う。
「18」
「ほら〜!! ウチの4つ上じゃん」
「はっ…お前、中2なの!?」
「ちゅーに?」
身体の発育が凄まじいし(頭の中を除く)、判断力やリーダーシップも持ち合わせているのでてっきり同じくらいかと。
(まあ確かに言動は幼いというかガキっぽいよな…)
「よし、出口が見えたな」
「まさかあんな強いゴーレムがホ級のダンジョンに出るなん…退がれッ!!」
「!」
ヴォルペの声音が低くなった瞬間、俺たちの頭上から一軒家並みの岩の塊が落ちて来た、2つも。
「ゴーレム…」
「ラッツ救難信号!」
「さっきの奴とやりあった時には既に使ったさ」
「まだ来てない…ジャミングの結界?」
「おい、何降りようとしてんだよ」
「部外者や市民の保護は、冒険者のお定なんだよ」
緑の小瓶を煽ってから立てるように回復したのは知っているが、剣を握る手は震えている。
「俺がやる」
「バカな事言うなニーチャン! アレがどんな化け物か知ってんだろ」
「この中で1番動けるのは俺だ」
怪我人連中に守ってもらって1人おめおめと生き延びるなんてのはごめんだ。
(悔いしか残らなかった人生…今度…こそ…は?)
突然現れた人影が剣を振るった。美しいその軌跡を辿って、ゴーレムは2体ともなす術なく霧散した。
「大丈夫?」
「あ、あの化け物を2体も…それも一撃で!?」
…いや、今のは一撃ではない。左の奴が7回、右の奴が5回だった。
「なんで…どうして」
心拍数が劇的に跳ね上がる。心臓の鼓動と彼女の声しか聞こえなくなる。
「…君、なんで」
「ツバキ…お前が…」
白い髪に青い瞳、紅い花の髪飾り。違いは多いし、いるはずもない。だが、その顔も天才的な剣の腕も、優美さすら感じさせる立ち姿も何もかも。
「どうしてそんなに、怖がっているの?」
「ヒッ…!!」
ツバキの伸びてくる華奢な手に、俺に触れるな…そうは言えず下半身の力が抜ける。
「イ”ダ”ァ”…何すん…大丈夫かニーチャン!? 顔真っ青だぜ!?」
—視界の全てが俺にのし掛かる様な重圧感・心配そうに俺を見下すツバキ・ロン毛の人を起こすラッツ・俺の頭を抱えて何か指示を出してるヴォルペ…それを漠然と眺めている内にやがて、俺の意識は消えた。
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