第50話 逃走
「歪み?」
アペプに着いていく事数分、何となく違和感がある場所についた。
「距離的には私も通り過ぎた筈なのに気づかなかった…。何これ?」
「ニャーニャーニャー!!」
「ごめん。竜語も猫語も翻訳対象じゃ無いみたいで何言ってるのか分からない。」
するとアペプがワンピースの裾を咥えて空間の歪みに近づこうとして来た。
「触れろって事?」
「ニャー!!」
取り敢えずアペプの言う通り空間の歪みに触れてみる。
「うぉっ!!?何この妙な感覚。水に触れてる様でそれでいて水を押し除けてる感じはしない。微妙にひんやりしてて気持ち悪い…。」
全身通り抜けるとその先は最初に居た部屋だった。さっきの空間は私とアペプの二人が通り抜け終わると勝手に収縮し消えた。
「アペプおいで。」
「ニャー。」
アペプを肩に乗せ扉を慎重に開ける。恐らく私が脱出してくることは想定されていないため音を聞いても無意味。扉の近くでガン待ちしてると思うし。
「あっぶねぇ!!」
見張りは一人だけで助かった。想定通り人員が居たが連絡される前に一瞬で氷漬けに出来たのはラッキーだった。
「魔族の生命力なら多分即死はしてない筈。仲間に見つけてもらうまでの時間は普通に生存出来るよね。万が一できなかったとしても知らね。私はこんな場所からはとっととおさらばするのさ。」
部屋がさっきのだだっ広い空間で見た通りの間取りだったので恐らく廊下もそうなってる筈。
「よし、予想通り。部屋の窓は恐らく補強されてるだろうけど部屋の外に出られることは想定外だろうし廊下の窓は弱いだろ。」
窓に触れ一気に凍結させる。
「これで弛む事はないだろ。あとは割るだけ。ガラスの端を狙った方がいいよね。普通に考えてガラスと枠が接合されている場所が弱い筈だし。」
丁度近くにあった丸椅子を持ち上げ、椅子の脚で窓の角を叩く。当然大きな音が出るからここからは時間との勝負。
ガンッガンッガッ、ガシャン
スッと窓から脱出し、浮遊を使いひとまず建物外の森林に隠れる。初使用ではあるが上手く扱えている。
(今更気づいても遅いわ。足跡すらついてないから追跡は困難。魔力で探しにこようと窓を凍結させる時に大量に魔力使ったからここら辺は私の魔力の反応でいっぱい。つまり、特定は不可能。)
「さてと人間領はどっちかな。魔王の本拠地から戻るには南に行くのがセオリーか。」
えーと、方角は木の葉の育ち具合から見てあっち…。いや待て、ここは異世界植生や太陽の動く方角が違うかも…。
何かいい方法は…。
「あ、忘れてたけど地図表示出来るんじゃん。それ見ればいいじゃん。」
地図には周囲の地形と現在地が表示される。つまり、方角の確認は容易。
「うん、普段使わない奴だと持ってるの忘れてるな。」
方角の確認が終わったので南に向かって歩き始めた。
「今は速度より隠密だから静かにそーっと離れてくよー。」
「ニャ。」
「よーしよし。」
取り敢えず地面を踏み固めない様に木に登り木の上を移動する。まさか地面や空中では無く木の上を移動しているとは思うまい。
「しー。一旦動くのやめるよ。」
「ニャ?」
私は無言で指を指す。その先には恐らくたまたまここを捜索しているであろう魔族の兵士が見えた。
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