第49話 異常な空間

目が覚めると知らない場所に居た。非常に高級感があり王族などが使ってそうな部屋だ。


「チッ、最悪。捕まったか。アペプ居る?」


「ニャー。」


おいてきては無いみたいで安心した。さてどうしようか。次なるロマンを求めて探索に出たかったがそうも行くまい。


「ほらー、ヨシヨシ。ここからどう逃げようか。」


魔王の本拠地なんてどうせロクでも無い。ナンパ感覚で殺し合いが発生する種族の本拠地にただの人間がいて無事で済むはずがない。ロマンは好きでも殺し合いや喧嘩は嫌いなのにこんな場所に用は無い。

窓を軽く叩いてみるが割れそうな感じはしないし、音が変だ。


「窓からの脱出は考えない方がよさそう。」


そうなれば部屋から出て玄関から普通に出てくのがいいか。一応、敵陣だし警戒しながら出よう。

私は扉に耳をくっつけ廊下の音を探る。


「うん、足音はしない。」


取手に手をかけ少し開き、目視で確認する。


(ひ、広すぎるだろ。なんだこれ、創作の魔王城でもここまでだだっ広くしないぞ!?)


なんと、この廊下部屋から目視で端が見えないのだ。流石にこの廊下をひたすら歩いて階段を探すのは苦労するぞ…。


「待てよ。ここの窓なら割れるんじゃ無いか。」


一応、叩いてみる。叩いた感触や音はさっきと変わらない。


「ダメか。」


因みにグレースは誘拐された事はあれど流石に監禁された経験は無い。


「はぁー、面倒だけど廊下の端から端まで走れば途中で下に降りられる階段は見つかる筈だし、やるか。途中で見つかると退路がないのは相当なリスクだが何も行動を起こさないよりかは遥かにマシだろ。」


取り敢えず廊下の端を目指して走りながら階段を探す。一応無限ループ対策で出てきた部屋に私の血をつけておいた。


「さぁアペプ、走るよ。アペプは逆方向を確認、階段があったら引き返してきて。」


「ニャー!」


アペプに指示を出し互いに背を向け走り始めた。


「廊下の端が早く見える様になってくれると嬉しい。」


しかし、想像以上に広いのか走れど走れど端に着かない。階段も無い。私の時間感覚で数十分経った頃、私はとある決断を下す。


「無限ループしてる訳では無い。仕方ない多少目立つかもしれないが壊す方向で行こう。アペプ!!聞こえる?戻って来て!!」


少しするとニャーっと言う鳴き声がこっちに聞こえて来た。


「うーん、ちゃんと勉強してれば音が伝わる時間から距離とか割り出せそうだけど、最終学歴小卒には無理。てか、音速がいくつか習ってないし…。精々知ってるのは音速超えると音が鳴るぐらいだし…。」


うん、前世の事は今はどうでもいいだろ。こう言うのって前世の知識で〜っとか私以外なら出来るのかもしれないが私は知らん。勉強なんてロマンないもん。恐らく私が秀でていたのは先史や歴史ぐらいだろうけど、そんなもん異世界では何の役にも立たない。

そんな事を考えながらアペプが来るのを待っていると予想以上早くアペプはこちらに到着した。


「うーん、こんなもんなのかな。数分しか経ってないけど、合流出来るとかあり得るのかな?」


普通に考えてアペプが数十分走った分と私が数十分走った分を僅か数分で完走出来るわけがないが実際出来ているので深くは気にしないでおく。


「空間自体が歪んでるのかな?」


それはそれでロマンあるし、ここがあの魔王の本拠地出なければ何十年掛かろうと楽しく探索していた所だが、残念ながらここは魔王の本拠地だろうし、そうなったら狂人の相手させられる可能性がある以上そんな悠長な事はやってられない。


「ニャー!!ニャー!ニャー!!!」


「うん?何かに気づいたの?」


今の所本当に打つ手無しなので必死に訴えるアペプの後をついていく事にする。破壊を試みるのはその後で良いだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る