第46話 人生最悪の料理
「あ…。」
ヤバいヤバい。私の視界の端に映ったのは魔王、こんな僻地にいる筈のない権力者にして最悪な奴。しかし、向こうは気づいていないようなので普通の客を装いとっとと食ってここを離れる事にする。本当は食料の買い込みとかもしたかったが魔王なんかがいる場所に長居したくないって感情の方が勝つためとっとと離れるに限る。ここ以外にも街はあるし、ここで買い込むよりリスクは低くなる。生きてロマンを追い続けるには魔王なんかとは関わらない方がいい。
「注文いい?」
「どうぞ。」
「この料理頂戴。」
私はメニューを開きぱっと見で食べれそうなものを即座に選び指を指す。
「かしこまりました。」
うん、不信感は抱かれてないしいい感じに偽装は出来てるっぽい。料理名的に何かしらの魚のムニエルだからそこまで酷いものが出てくる事はないだろう。少なくとも私の知らない食べ物が出てきて困惑なんて事はしなくてすみそうだ。
しばらくすると料理が完成したのか、皿に乗ったモノが運ばれてきた。
「…うん、食べ物これ?」
確かに匂いはいい匂いではある。ただ、それ以外が最悪なのだ。明らかにムニエルには見えない見た目に毒々しい色合い。魚って書いてあったのに魚とは言えない何か。割と液状なのでスプーンで掬ってみるが粥ようなとろみがついていて色々到底食べ物とは思えない出来だった。いや、これがムニエルって言われずに粥だよって言われて出されたのなら多少は不信感を抱くがここまで不快感は抱かなかっただろう。…明らかに私の知ってる料理では無い。仮にも神が与えたスキルに翻訳ミスなんて初歩的なミスがある訳ないし、料理人の腕前が相当終わってるのだろう。
一応、意を決して口に含んでみる。
(うぐっ、何これ。身体が反射的に吐き出そうとするぐらいには最悪の味と異常な刺激。間違えてトリカブト食った時みたいで嫌。でも、貴重な食べ物を無駄にする訳にはいかないし、全部食べるけど吐きそう。てか、今すぐ吐きたい。解毒のスキルがあるのに少し中毒症状みたいなの出てるってどんだけだよ。…普通の人間が食べたらもがきながら死ぬ奴じゃん。)
アペプが心配そうに足に体を擦り付けてくるが今はあまり揺らさないで欲しい。作った人の前で吐くとか言う最大限の無礼しちゃうから。駄目、どんなにクソまずい料理だったとしても感謝して食べないとバチが当たる。
まぁ、そうは言ってもこの口の中に入った劇物を飲み下す事すらできず硬直しているのだが、ここは水で流そう。
私は水が入ったコップに手を伸ばし口の中の料理と言う名を被った劇物を胃の中に押し込む。
「うぐぅ。」
最初の一口だけでこの威力、料理を食べる手が止まってしまうのは仕方ない。いや、仕方ないで済ませるのはまずい。ここで止まれば二度と動かなくなるレベルなのに仕方ないって選択肢はない。味は最悪なのに匂いだけはいいからそこも不快感ヤバいし、この形容し難い不快感は種族が違うから味覚が根本的に魔族と合わないのだろうか。
取り敢えず残りは苦しみながらも気合いで胃に流し込み会計を済ませ、とっとと店の外へ出ようとするがそうは問屋が下さなかった。
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