第43話 互角の戦い
グレースは木々が生い茂るこの環境を上手く使い立体的に動く。グレースにとって環境を利用するのはどのアドバンテージでも劣っている野生動物との殺し合いで生き残る為に必須の技能であるため、そこは異常に上手い。
「むぅー、お得意の魔法を使わんとは妾を舐めておるな!!」
若干キレているがグレース得意は魔法よりも物理であるためお門違いである。
「黙れ。ただ死ね。」
まるで猿のように木々を飛び回り相手の死角に潜り込むと一瞬で関節技を掛けて骨を折る。それと同時に人型の相手の弱点となり得る首をボロボロの刃物で切り付ける。これは長年放置されていた刃物を使う事で雑菌を体内に送り込むと同時に歪な切り口を作り治りにくくするなど致命傷とするための様々な工夫による攻撃である。
ただ、相手が悪かった。
「手癖が悪いのぉ。えい!!」
いくら傷をつけてもその再生力と魔族特有の破滅思考により一切動きが鈍らず、しかもダメージにならない。そして攻撃中にも関わらず反撃に出られる。痛みを感じているはずなのに怯みもしない。
接近したグレースの手を握ると握りつぶし引きちぎる。それと同時に蹴り飛ばしグレースが身動きが取れない空中へと舞台を変える。当然グレースも反撃しようと大気中の水分を凍りつかせ足場にするが一瞬で砕かれただ落下する事しか出来なかった。
「ほい、ほい、ほい。大きめのお手玉じゃ!!」
だが、グレースは冷静だった。亜空間を展開し蹴り上げ続ける足を根本から切り離すと同時に蔓を束ね相手の首に掛け投げ飛ばす。投げ飛ばした先に針状の氷を生成する事により全身穴だらけにしながら生成した氷を少し溶かし体内へ自身の魔力を送り込む。
「死ね。」
その声と同時に体内に入り込んだグレースの魔力は再び結晶化し、体内から全身を一気に凍りつかせた。それを確認したグレースは一気に距離を詰め身体能力強化を利用して凍った相手を粉々に砕こうとする。
「むぅーー、はっ!!」
相手の全身を砕き終える前に内部から氷を破られ、相手の片腕と横腹を抉る程度のダメージにしかならなかった。
「流石はパパが期待する人材じゃ。」
グレースの異常な再生速度すらも凌駕する勢いで再生を終えたそれはグレースの首を掴み掛け出していた。
「グアッ!!!」
その異常な速度に耐性がないグレースが耐えられる訳もなくあっちこっちから血を吹き出し全身がズタボロになる。当然ただ走る訳じゃないので背中を強打しまくり様々なモノを貫通していく。
ただ、それも調子に乗り過ぎていた。魔王すらも関心を寄せるグレースの本領はキレてから発揮される。自他共に被害を顧みずただ欲が赴くままに相手を破壊し続ける。その思考は魔族特有の破滅思考よりも破滅的でそれ故に迷いが無くなり、その時その時の最適解を常に行動として叩き出せる。
「調子に乗るなよ…。急にみんな襲ってきやがって、お前らと違って私はただロマンを求めてるだけなのに…。殺す、絶対殺す。」
グレースの高笑いが森に木霊すると同時にグレースの出力が一気に上昇する。
「あははははははは。」
「なんじゃ、急に…ガッ。」
グレースは相手の口を雑に掴むと強引に引きちぎり下顎を引きちぎる。その再生が終わる前に氷で再生を阻害し五月蝿い声を出せなくする。
「あはははは、醜いねぇ。その五月蝿い口もこれじや動かしようがないね。」
次に相手の鼻に指を突っ込みまるでボウリングでもするかのように軽やかに投げ飛ばす。先程自分がやられた事をやり返すかのように投げ飛ばした先に先回りし、今度は目、耳と次々に指を刺す場所を変えながら投げ飛ばす。
「さぁ、死ね。空中機動はそこまで高くないみたいだしね?」
ただ笑いながらグレースは敵を殺す。いや、正確には敵の再生力が強くてダメージにはなっていない攻撃を繰り返している。
「ふははは、面白い。面白いのぉ!!素晴らしい素晴らしいぞ!!しかし、ダメージにはやっておらん。お主怒りに身を任せずに冷静になった方が良いのではないか?」
ちぎられた顎についた氷を溶け終えたそれはあまりの楽しさに笑い声を上げるがグレースは気にも留めない。
「最期に言い残す事はあるか?」
それどころかまるで既に勝負はついたような反応を示す。
「ふははは、何を言っておる。妾はまだまだピンピンしておるぞ?」
「はぁ、魔族と言うのは何も恐れないから今の状況が本能的に理解できないのか。」
グレースは呆れたような声をあげ、敵を出来るだけ速い速度で岩場に投げつけた。
「“過冷却”って知ってる?普通の凍り方じゃ無いしそう簡単には溶かせない。私がただ無意味で、強いて言うならば意趣返しに無意味な時間を使うと思うか?隙がない格上なら格下から殺されないとでも思ったのか?能無しが少しは考えたらどうだ?魔族に足りないのは破滅思考からくる警戒心のなさ。プロレスなんてしてないでとっとと殺せば良いのにその判断が出来ない。人ならそんな事はしない。弱く臆病だからこそ相手に勝つ方法を模索し絶滅させるまで警戒心を緩める事はない。お前の敗因はただ一つ人間を舐めすぎた。いや、正確に言うならプロレスのやり過ぎ、私舐め過ぎ、氷舐め過ぎ。」
岩場に激突すると同時に内側から凍りつき、衝撃で凍った箇所から砕けていく。いくら再生できようと砕けて肉体から剥がれた場所どうしを繋げ合わせる事は困難である。特に重点的に魔力を流し込まれた頭のダメージは大きく形容し難い程グロい姿に成り果ている。
「良い…。良い良い良い良い良い良い!!!分かるぞ、お父上がこの魔女に期待する理由が身をもって体験出来た。」
顔が無い、つまりは口が無い状態なのにも関わらずその狂気的とも言える声が森に響く。
「は?頭潰しても生きてるとかゴキみたい。再生能力は頭関係ないのかな?」
しかし、潰れた頭がすぐには治らない事から相当有効な攻撃である事は明らかであった。
「なら、死ぬまで繰り返すか。」
「ああ、素晴らしいがもう直ぐ時間ぎ…。」
次の瞬間、爆音と共にグレースの目の前を何かが通り過ぎたと思ったら先程まで殺し合っていた敵が一撃で伸されていた。
「我が主人の娘がご迷惑をお掛けしました。これには後できっちりお仕置きしておきますので今回ばかりは大目に見て頂けると幸いです。その代わりと言ってはなんですがこちらの品をお渡ししておきます。」
あまりに急激な展開を目の前に熱が冷めたのかグレースは急にスッとなり、手渡されたモノを見る。一つは地図にチケットが貼り付けられ丸められたもの。もう一つは見覚えがある本であった。
「では、お先に失礼します。あ、言い忘れていましたが我が主人はいつでも貴方を迎え入れる準備は終えています。お気軽にお越し下さい。では、今度こそ失礼致します。」
そして爆音を鳴らしながら一瞬で姿が見えなくなった。嵐のような出来事にグレースは少し呆然としてしまった。
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