第36話 空飛ぶ馬車
グーレス達は荒れた道を猛スピードで走っていた。地面からの衝撃を減らしても馬からの衝撃は対応出来ないので馬車前方は相当不規則に揺れる。
「できるだけ距離を稼げー。」
「ピューピュー。」
二人はまるで遊園地でジェットコースターにのる子供のようにはしゃいでいるが大人組の二人はそうはいかない。
「なんでお前らは少し楽しそうなんだよ!!」
「うっぷ、酔った。」
「吐くなよ!?」
刀の人は相当酔いやすい体質らしく顔が青白くなっている。当然このスピードの中で吐かれると商品にかかるためおっさんも顔面蒼白である。
「うぇーい、速ーい。最高ー!」
「ビュービュー!」
オノマトペの子がテンションが上がるたびに強い追い風が吹き、馬車のスピードを更に上げる。馬に疲労の色が見えればグレースが魔法で回復させ、ある種のアトラクションと化していた。忘るてもらっちゃ困るが彼女達は今逃走中である。
「そろそろかな。」
「じゃ、元のルートに戻して良いんだな?」
「おっさんが自分で引き返したのを確認してからにしてよ。」
「それもそうだな。」
次の瞬間遥か後方から強烈な魔力反応が起きる。
「噂をすれば!!」
「お、止まった。迷ってる迷ってる。」
「ならこっちは更に距離を稼ぐしかないね!!」
「おい、ちょっと待て!!」
「ゴーゴー。」
「待てったら待て!!!」
もはや風では無く嵐の勢いで後方から風が吹く。勢いが強過ぎて馬車と馬が若干浮いてる気がするが気のせいだろうか。いや、きっと気のせいだ。
「ちょっと待ってて!!空飛ぶ馬車なんて聞いた事ないぞ!!大丈夫なのかこれー!!」
「速い速ーい。凄ーい。」
「うぅ、もう無理かも…。酔ってる上に非現実的光景がぁ…。」
「このスピードの中吐くなよ。最悪窒息するぞ!!スピードを落とせ!!」
「ゴォゴォォ。」
「スピードを上げるんじゃなくて落とせ!!!」
「うぉー、一応空気抵抗減らすのも兼ねて馬車やら積荷を強度の高い氷で覆うか。もっと面白くなるかもー。」
当然こんなスピードで動く乗り物など乗ったことがないグレースのテンションも爆上がりしている。
「うぉっ!!またスピード上がりやがった。マジで良い加減にしろよ!!スピード落とせったら落とせ!!!」
おっさんの怒声は二人の耳には届かない。
「凄ーい。超面白い!!」
それから暫くして二人の熱が冷める頃にやっと減速を始め、久しぶりにも思える地面に無事着地した。
「うー、オロロロロ。」
「はぁ、やっと地面だ…。」
大人二人とは対照的に子ども二人は楽しそうにハイタッチをして先程の出来事について話している。
一方その頃魔王の娘は戻る決断をし氷人形の所へ猛スピードで向かっていた。
「パパばっかずるいのじゃ!!妾も遊ぶのじゃ!!逃がさぬが故待っておれー。」
速さに関しては父親である魔王すらも凌ぐ程であるが、トップスピードを出すと魔力探知や五感が機能しなくなるので普段はそこまで速く無い。
僅か数秒で氷人形の場所に着くと驚愕の声を上げると同時に怒りを顕にする。
「妾を弄びよって、許さぬ。許さぬぞ魔女!!」
放たれた殺気は世界中の人々を総毛立たせる程でありこの原因を作ったグレースは急に冷や汗をかいたと言う。
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