第35話 反応の正体

「不味いな。…気配は消えているし痕跡も消したり、ダミー作ったりしながら逃てるがバレてるなこりゃ…。」


「迎え打つ?」


「戦いたくてウズウズしている所悪いが会敵するつもりはない。冗談抜きで死ぬぞ。最強の魔王の血族と会敵するなんて冗談じゃない。」


「「はあ!??」」


商人のおっさんの言葉に二人が聞き返し、グレースは溜息をついた。


「俺は魔王さんにもバルブ持ってるんだよ。商人の優秀さは規模じゃねぇ。持ってる人脈と商品の質だ。これでもそれなりに有名な商会だぜ?」


「はぁ、あのおっさんと良く関わる気になるよ。私なんか殺されかけたし、ぶちのめしてやったわ。」


胸辺りから下が全部消し飛ばされた恨みは忘れていない。生存競争だからある程度は許容するけど殺すならちゃんと殺してくれないと…、半殺しは趣味が悪い。


「「「はぁ!!?戦ったんかお前!!!」」」


オノマトペの子が驚き過ぎて普通に喋ってる…。


「戦いになんてなるわけ無いじゃん。言いがかりつけられて襲われて、一方的な虐殺だったよ。一発で私の身体7割ぐらい消し飛んだし、魔王となんか関わらない方が良いよ。死ぬよ。」


はぁっと、もう一度大きな溜息をつく。正直あれの娘なんて嫌な予感しかしない。


「普通は敵対した瞬間生存不可能なんだぞ。こっちは精神擦り減らしながら商談してるのに…。」


「知るかよ。てか、もっとスピード出せないの?」


「無茶言うな。どんな生き物にも限界ってのはあるんだ。出来るだけ気配消して逃げるしか現状の選択肢はねぇーよ。」


「ふーん。」


「魔王ってどんな人なの?」


刀の人がそう聞いてくるが私は殺されかけただけなのでそこまで知らない。おっさんに聞いた方が早いと思う。うん、関わりたくないとだけは言っておこう。


「関われば死、強者過ぎて話にならない。」

「莫大な利益を産むが莫大な損失も生む可能性がある。大博打の取引相手、娘思いのいい父親だとは思うが愛情表現が鬼畜。力が強過ぎるっても考えものだな。」


「強さは別格で娘を寵愛してるってことか。…その娘に手を出したらタダじゃ済まないんじゃ。」


「だから逃げるって言ってるの!!勝てないし万が一傷でもつければお礼参りが怖い。娘のことになると視野が極端に狭くなる人だから…。」


「じゃあ、スピード上げるよ。」


「は?だから、これ以上は馬の性能的に無理なんだって…。」


グレースは車輪を氷で加工し、前方の車輪の地面を凍らせ続ける。摩擦が少なくなった事で動かしやすくなる。馬の性能が同じでも馬にかかる負担が減ればスピードは上がる。当然痕跡となる氷は回収し、擦り溶けるまで次へと使い回す。


「そんな精密操作出来たんだ…。」


「氷は身体の一部だよ?出来ない訳が無いじゃん。」


実際は今やってみたら出来ただけだが一々弱みを見せる必要はない。余計なトラブルを防ぐためにも商人のおっさんの探知範囲外にトラブルの芽を追い出したい。


「魔族ってより強い魔力反応に反応するんでしょ?」


「正確には強者にだがな。」


「おーけー。いい事思いついた。」


私は半分程魔力を詰めた氷の人形を作り出す。当然このままではバレるので外側に薄い氷を張り魔力が外に漏れないようにする。この膜が溶け始めれば徐々に強い魔力反応が起きるって仕組みだ。痕跡は多少残るが距離を稼ぎここを切り抜けるには問題ないだろう。今までの雑なダミーと違いこれは絶対引っかかるだろう。


「視認されるギリギリの所で反応が起きるように調整した。このまま距離を詰められながらこの氷人形から距離を取らせるぞ。距離を取らせれば取らせるほど倍の時間を稼げる。」


「魔族の生態を利用した巧妙な罠。性格悪いが良くやった!商談相手の機嫌を損ねる訳にはいかないからな。」


「商人は金のことしか頭にないのしから。」


「そうなんじゃない?少なくともこのおっさんはそうだと思うよ。」


罠を設置し全速力で距離を離す。ルートは多少危険でも目的地への距離が短いルートに変更し、できるだけ距離を離し人形に反応した瞬間元のルートに戻すっと言う作戦で魔王の娘からの逃走劇は始まった。

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