第34話 ルートの変更
ズタズタのオーガに様々なことを試す事一週間程、やっとオーガの縄張りを抜ける事が出来た。
「むぅー、もう少し可愛がってあげたかったけど、無駄な荷物だし用済みだから殺してあげる。安心してその肉は全部食べてあげるから。」
散々弄んだと言うのにグレースは名残惜しそうにしながら容赦なくオーガの首を切り落としぐちゃぐちゃに潰し殺した。その光景は残酷そのものであるがオーガの回復力を見ているので仕方のない事なのかもしれない。
「拷問は人が人のために作った文化にして歴史だから人型なだけの人外には効果薄いか。サンプルとして正偽が分からない以上あまり当てには出来ないけど、大体の流れが分かっただけでも御の字かな。」
血に塗れたグレースを他所に三人組はグレースに聞こえないように噂話をしていた。この一週間程グレースの奇行を目撃し続けて、三人組に共通の話題が出来た事により変な団結力が生まれていた。
グレースは腫れ物扱いにはなれているので噂話など気にも留めないが…。
「一週間徹夜で拷問してたな。」
「頭おかしいのよ。いくら魔女とは言えここまで狂ってるものなのかしら?」
「狂気」
因みに魔女は狂ってる方向がそれぞれ違うだけで、皆その狂気度は人を寄せ付けない。一応他人が自発的に歩み寄ることを検討出来るぐらいはしてくるので、他の魔女と比べるとグレースは常識人寄りである。
「あれと交渉するのは骨が折れそうだ。いや、話は通じる。ただプレッシャーがヤバい。あんなの見せられた後は特に…。」
「じゃあ交渉しなきゃ良いじゃない。」
「同意見。」
「交渉しなきゃ激レアの素材が手に入らないでしょうが!!莫大な利益を生むチャンスが目の前に転がってきたのに無視するなんて商人としてのプライドが無い三流以下の振る舞いだぞ!!」
「じゃあ頑張れ。目的地着くまでに話す内容でも考えておけば良いと思うわ。オーガは比較的高位のモンスターなんでしょ?なら、ここら辺雑魚しか湧かないなら馬やルートを少し疎かにしても問題無いんじゃない?」
「馬鹿っ!こんだけイレギュラーが重なってるのに警戒を緩めるなんてあり得ないだろ。死にたいのか!?」
商人としての歴が長いおっさんの危機察知能力は武力で全てどうにかなってきた者達と比べると群を抜いて高い。…と言うか、他が危機感なさ過ぎて忘れがちだが、いくら迂回しているとは言え魔族が侵攻中な以上、殺る気満々の魔族に出会う可能性もある現状油断できる状況では無い。
「禁欲生活から解放された魔族との殺し合いなんてお前達でも難しいと思うぞ…。タゲが外れてるどころじゃ無い殺し合い大好き種族に魔女の狂気如きで怯むお前達が勝てる訳がない。」
実際魔族の殺し合いとは狂気的で、魔女のように欠損が再生する訳でもないのに欠損や致命傷を受けても平然として死ぬその瞬間まで動きが鈍る事がない程である。
「…ルート変更。最大限まで気配消せ。」
「急にどうしたの?」
「何故?」
「ヤバそうな魔力反応がこっちに一直線も向かってる。会敵しない用に立ち回る。いいか、これは俺と俺の荷物の護衛依頼であり、無駄な戦闘はする必要無い。絶対に気づかれるなよ。」
おっさんは気配を消すのが上手いが他の者が疎かにすれば必然的にバレる。おっさんは気配を消した経験が無さそうな一名を睨見ながらそう警告した。
「…なんで私がそんな目で見られなきゃいけないのよ。確かに出会って来た敵は皆正面から?刀の錆にして来たけど、そこまで空気読めない訳じゃ無いわよ。」
「いや、俺が危惧してるのは気配を消す事が出来無さそうな点だ。あの魔女は魔力以外の気配はしないから魔力封印系の装備を付けさせればいいが、普通はそんな簡単じゃ無いからな。オノマトペ、とりあえず全体の気配を限界まで消せるか?」
「了解。スー。」
ゆっくりと全体の気配が0に近づく。
「魔女、お前は暫く魔法を使うな。お前の痕跡は分かりやすすぎる。」
「おーけー、無駄なトラブルや戦闘は避けるに限るしね。」
グレースはロマンは好きだが殺し合いや喧嘩は嫌いであり、そこに全くロマンを感じていない。それに今のグレースには目的地のロマン溢れる場所で即日探索出来るように体力の温存をしておきたい状態である。
「刀…頼むからそのまま何もせず安静にしていてくれ。気配消すのは俺らがどうにかするから余計な事はするな。」
「ちょっ、私だけ扱い酷く無い?」
「すぐに身につくようなもんじゃ無いし、出来ないんだから大人しくしてろ。死ぬぞ。」
全員が息を殺したのを確認した商人のおっさんは馬を静かに、されど速く走らせ始めた。
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