第33話 知能があるモンスター
竜を撃破し、数日進んだ地点にて商人のおっさんは焦りを見せた。
「…。おかしい。明らかに様子がおかしい。」
「何が?」
「モンスターの分布が二週間もしないうちに変わるなんて事象が起きている。一体何があった?」
「何でそんな事分かる訳?」
「痕跡を見れば一目瞭然だろ!?歴が短いアレは例外として、お前らなら分かるだろ!?冒険者やってるよな?なぁ!?」
「やってるけど、それが何か関係あるの?」
「足跡だよ。確認されたモンスターの生態及び足跡などの痕跡は全て暗記するのが常識だろ。」
「そんな常識あってたまるか!!!」
「少なくともお前らのような人外以外の冒険者達はリスク管理のためその程度の事はやっているわ!!じゃあ、現物見てみろよ。先に言っておくがここの分布はゴブリン系統が中心だった。この足跡はゴブリンのに見えるか?」
「明らかにその大きさでは無いわね。でも、二足歩行。それが多数。」
「ここから推測出来るのは?」
「…知らない。何が来たって斬ればいいだけでしょ。群れる時点で個の強さなんてたかが知れてる。」
「はぁーーー!!!オーガだよオーガ。しかも群れてるって事は知能が高い証拠。つまり、オーガの上位種。馬鹿力だけのオーガならお前らも余裕だろうが知恵があるオーガはクソ厄介だ。他のモンスターと違いその知恵を使って罠を作り嵌めてくる。人間相手にするのとは訳が違う。しかも最上位種が出て来た場合お前らでも厳しい。古いのと新しいのが混在している事からここは既に奴らのテリトリー。いつ何が起きてもおかしく無い。」
「オーガ如きにビビってるの?私らがオーガ如きに勝てないとでも思ってる訳?」
「はぁ、現物見たらそんな事抜かせなくなるぞ。散々弄ばれた後に捕まって食われた後に食われる。奴らは悪鬼だ。ゴブリンやオークなどの低脳な色欲鬼達とは違う狡賢く動き犯す。あの光景は一度見たらトラウマもんさ。文字通り人が酷い壊され方をするのだから。」
「きらきら。」
次の瞬間辺りが光出した。
「罠。」
「へ?これ光ってる所全部罠なの?あり得ないでしょ。」
「ころころ。」
突如出現した岩が転がって光ってる場所についた瞬間穴が開き結構な高さから落下した。
「ぱらぱら。」
岩が砂に変わると落とし穴の底に尖った木や竹が設置されているのが見えた。
「本当にこれモンスターが設置した罠?」
「狩人とかが仕掛けた罠を真似たんだろ。ブービートラップとかにも気をつけろよ。こんな場所を狩場とする狩人の真似事ならそう言うのもあっておかしく無い。モンスターの気配が消えないから近くでこっちの様子を見てると思う。あえて気配を消さない辺りおちょくってるな。」
「近くって私らの探知に引っかからずにそんな事…。」
「まぁー、商人の危機感知能力は高いからな。低かったら護衛つける段階で殺されてる。この世界で生き残って図太く商売やれてる奴らは危機感知ぐらいは出来る。俺の場合は顧客が大口だからリスク管理の一環で他の商人より少々感知の範囲と精度が高い。で、話を戻すが俺の経験則からしてこう言う場合気配を消して殺しにくる奴が数匹出てくる。気を抜くな、罠を可視化してくれたおかげで奴らが使ってる安全な移動ルートが見える。この罠地帯からとっとと抜け出す。オノマトペは引き続き罠の可視化に注力し、魔女と刀は襲って来た奴の対処、俺は出せる速度の限界まで馬車の速度上げるから振り落とされるなよ。」
「んー、言いにくいけど、もう襲われてるよ。この通り、めっちゃ痛いもん。」
グレースは気配を消して近づいて来たオーガの太い腕によって心臓を一発でぶち抜かれ胸からオーガ腕を生やしていた。
「「「は?」」」
「魔女は遠距離でしか攻撃できないって思ったのか、一番小さいから先に狙ったのかどっちか知らないけど、獣がくだらない智慧はつけない方がいい。」
そう言いながらグレースはオーガの腕を引き抜くと同時に角を掴み顔面に膝蹴りを当てる。その破壊力はオーガの顔面に大きなクレーターつくるほどである。当然そんな事でグレースが止まるわけもなく攻撃は滑るように続く。持ってた角を力任せに折るとその尖った太くて立派な角をオーガの鳩尾に突き刺し押し込む。痛みでオーガが叫び声を上げようとすればもう片方の手に持った角を喉に突き刺し声帯を破壊する。当然鳩尾は突き刺されたままになってるのでいくらオーガと言えど転倒してしまうがそこからは早かった。関節と言う関節を全て逆に曲げ破壊し捻り上げる事で再生不全にまで追い込む。堕天使が居たダンジョンで拾ったボロボロのナイフを亜空間から取り出すとオーガの腹を裂き殺さないように内臓を一つ一つズタズタに切り裂いていく骨や内臓がゆっくりと治っていくが治るたびに殺さぬように気をつけながら引き裂き続けた。
その作業を続けること数十分満足したのかボロボロのオーガを引き摺りながら馬車の元へ戻った。
「ふぅー、疲れた。」
「「「…」」」
「どうしたの?向こうに逃げ帰って貰っただけだよ。ほら、護衛するならこっちの方が手っ取り早いじゃん。この先も結構な距離ナワバリ続いてそうだし見せしめ作る方が効率的だと思わない?」
「いくらモンスターだからってアレはちょっと…。」
「何で?私は人でもそうするけど。敵に容赦はいらなく無い?それになるべく楽な道選びたいのは皆共通じゃ無いの。そんな事よりロープない?」
「い、一応あるが何に使うんだ?」
「あれ?さっきの話聞いてなかった?見せしめだよ見せしめ。生きたまま荷台の後ろにつけて引き摺るの。抵抗出来ない程度には体力削ったし使えるよ?喉は潰したままだから叫び声で攻撃とかも出来ないだろうしイチモツは氷漬けにして壊死させといたから再生は無理だしそっち方面も含めて安全だよ。ナワバリ抜けた辺りでサクッとやればよし。」
「お、怒ってこっち来ないかそれ…。」
「無理無理、何のために一回貫かれたと思ってるの?知能があるとは言え所詮猿以下、攻撃が全く通じず、一方的にボコられ最終的には悲鳴すら上げる事を許されず引き摺り回される仲間を見たら生存本能の方が勝つ。それでも助けようとこっちに来た勇者は私が迎え撃つ。…んー、一応これもやっとくか。」
グレースは魔力を指向性を持たせず全開放し辺り一帯を氷漬けにした。本人的には氷漬けにするつもりは毛頭もなかったのだが魔力自体に冷の性質が備わっているため普通に凍る。前の威圧で辺りが凍らなかったのは指向性を持たせていたのと竜自体がその魔力を吸収していたためである。
「死ぬ死ぬ死ぬ!!おま、竜の時より圧力強くねーか。無理無理、俺は戦闘しないから耐性ないの。痛いし気持ち悪いし目が回る。」
「これはちょっと無理ね。変な汗が止まらないわ。てか、ここまで実力に差があるの。もう、なんか自信無くなって来たんだけど。」
「びゅーびゅー。」
「オノマトペちゃんは平気そうだし才能持ちには敵わないわね…。てか、私いらなく無い?」
「SとAの上澄みの上澄みの上澄みぐらいの奴を比べるな。俺から見たらお前も規格外なんだが人外共と比べると見劣りするのは事実だがな。」
「ぱきっ。」
「痛っー!!!?おま、ふざけんなよ。護衛が護衛対象攻撃してどうするよ!!爪根本から割れてるんだけど。…最近のガキはあれか?戦闘力のインフレと共に倫理観の低下もインフレしてるのか?」
「軽口叩けるなら余裕じゃん。早く動かしてよ生物が引き摺り回される様子を観察出来ないでしょ。どう言う削れ方するのかな?前の環境じゃ試せなかったし、生物にはまだまだ未知が残ってる。つまり、ロマンの塊。ナワバリ抜けるまで沢山試させてね?」
「…いくらモンスターと言えど人型だぞ?何も感じないのか?」
「だから、敵に容赦する必要がどこにあるの?どうせ殺すなら私のために有効活用するのが一番でしょ?」
「あー、分かった。うん、完全に魔女だわ。ランクとかじゃなくて生物としての根幹から何か違う。人型だし魔族でも無いから余計に忌避感があるんだな。魔女狩りなんて愚かな行為が行われるわけだわ。」
「はぁー、ここも魔女狩りなんてやってるの?」
「あー?この大陸の全ての国で行われた痕跡があるぞ。それだけ魔女は恐れられてるんだよ。人の形をしていて種族上は人族に属しているのにもかかわらず思想や行動その他全てが違う。かといって他種族の特徴と被るかと言ったらそれもまた違う。だから、どの種族にも属せず魔女と言う括りが出来た。それと同時に同族を守るために魔女狩りなるものが度々開催される。」
「ふーん。」
「まぁ俺としてはちゃんと契約を守ってくれればそれで良し。俺の命と積荷さえあればどこでも誰とでも商売出来るからな。俺は客を選ばないからな。」
「まー、商談は後でね。それより早く出発させてー。」
「ふ、こっちの目的はお見通しか。」
「当たり前じゃん。わかりやすい。」
「そんなに顔に出てたか?」
「声色目線トーン色々あるがどれも分かりやすすぎるよ?貴方が狙ってるモノ考えたら歴戦の商人でもこうもなるだろうけど。」
「あはは…、とりあえず行くぞ数百キロ荷物増えてるから少々速度は落ちるが勘弁してくれ。」
「生の市中引き回しだー!!過去の文献見るだけじゃなくてモノホン見れるのはアドだよアド。拷問系は流石に試せなかったからな…。知りたくても知れない、届きそうで届かないこのむず痒さ。人型の被験体が手に入って良かったよ。たぁーくさん遊ぼうねぇ?」
「完全に別人…。色々聞きたいことあったんだけど今話しかけに行ったら多分死ぬ気がする。」
「まぁ、だろうな。色々何言ってるのか分からないがスルー安定よ。」
そう言って商人のおっさんは馬車を動かし始めた。それから馬車がオーガのナワバリを抜けるまでの間グレースは起き続けひたすらにオーガの観察をしていた。
まぁ、前世では非人道的と言うか法律とか言うモノに触れまくりで誤魔化しや年齢故の過ちで見逃しがあり得なかったため試せなかったモノを試せる環境が揃うとこうもなろう…。本人的には未知にはロマンを感じるし過去の出来事を深く知る(実際に確かめる)事で更なるロマンを見つけようとしているだけなんだが…。
作者簡易解説
モンスターでも人でもなんでも再生や回復をする場合正常な位置に固定し異物は取り除く必要があります。異物があるとその場所の再生や回復ができないし、正常な位置に患部を固定しないと再生不全を起こしより悲惨な光景になります。グレースの場合は大体の怪我が欠損であるためポコポコ生やすしかなく、再生不全は起こした事がありません。再生不全が多いのは骨折などの内部のみ破壊された時です。基本的に再生は内側から行われるので欠損を治す場合不全は起こりません。
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