第32話 圧勝

「圧倒的。」

「弄んでる?」


「ほらなだから言ったろ。Aの上に君臨する王者Sランク。見かけに騙されると碌な事は無い。あの竜の場合実力差を分かった上で喧嘩売ったんだから相当な勇者だよ。」


『分かってはいた。分かってはいたがこれ程の実力差。興奮する!!』


「変態。早くどっかいってくれない?」


『しかし、しかしだ。貴様はまだ本気では無いだろ?見せてみろ!!貴様の本能のままの殺戮を!!』


「何で戦闘狂がこんなに多いんだろ。それに私はモブなんだよ?モブで居させてくれよ!!」


『貴様程の強者が脇役?馬鹿らしい。強者は強者らしく挑んできた弱者を嬲り殺し恐怖の象徴となるのが筋だろ?』


「何言ってるの?竜とは言え引くよ?」


こんな会話を繰り広げているが戦闘の真っ最中である。グレースは生成した無数の氷の武器により竜を削り、竜は多彩な魔法や息吹でグレースを狩ろうとする。だが、実力差は明白でグレースはノーダメージなのに対して竜はボロボロ、いくら鱗が硬かろうと同じ場所を短時間に何千回もそれなりの硬度があるモノで殴られ続ければ傷はつく。


『我の再生速度を上回る速度での破壊。…素晴らしい。』


「はー、キモいしそろそろ手加減面倒だから殺しちゃうよ?最終警告だけど逃げ去る気ないの?」


『強者に壊され果てるのならば本望!!』


「キモッ…。じゃあね。」


次の瞬間上空に無数の氷の槍が生成され、その全てが異常な速度で竜の身体を貫いていく。


『最っ高…。』


「ブレないなー。」


取り敢えず動かなくなったことを確認し、氷漬けにして亜空間に捨てる。竜が倒されたとかの話になると多分私がモブじゃなくなる。ロマンを追うのに余計な注目は不要、てか邪魔だし。


「疲れた。寝る。」


グレースはそのまま入眠したが周りはそれどころではなかった。馬車などはグレースが薄い氷を球体状に張ったことで無事であるがそれ以外は破茶滅茶、竜との戦闘以前にグレースの攻撃は大体広範囲攻撃なので普通に地形が変わる。


「あはは、どうしよ。通行止めだわ。ここは安全な道だから予備のルート用意してないんだが。そもそも竜との遭遇なんて想定して無いし、ここ整備された道はこれと王族用のしかない。安全なルートで整備された道があるのに獣道まで調べてる訳ないじゃん。」


「商人なのにリスク管理も出来ないの?」


「過去数十年モンスターに襲われた商人や旅人の記録がない場所で竜の想定なんてしてる訳ないだろ!!てか、竜なんて想定していたらどのルートも使えねーよ!!」


「正論。」


「取り敢えずこれ起こしてどうにかしてもらう?」


「怖ーよ!戦闘後なのに魔力量が減った感じもしねーし、色々混乱してる時にさらに混乱させるような情報はいらねー!!」


「同意。」


「…五月蝿い。」


パキパキ…。

一瞬で地面の凹凸が氷によりならされていく。


「寝る。」


「自由過ぎでは。」


「まぁ、Sランクはこんなもんだわな。Sランクの中では非常に協調性がある部類ではあるが他のランクと比べると無い。個の実力があり過ぎると周りが庇護対象かただのゴミにしか見えなくなるなんてよくある話だ。これの場合は俺達にもこれ自身にも興味なさそうだがな。」


「強過ぎるってのも難儀なものねー。」

「可哀想。」


「いや、一般人の俺から見るとお前達も同類だからな。」


「いや、流石にそれは無い。」


「Aランクは元々人外用に作られたランクだぞ。そのAランクから見ても人外とか言うもはや変な域に片足突っ込んでるような奴らのためにその上が作られたんだから一般人から見たらA〜は人外だぞ。Bランクが一般人の限界って感じなのはお前達だって分かってるだろ。なら、お前達の人外部分を一々解説してやろうか?」


「そんな必要は無いわよ。てか、いくら雇い主とは言え恐れ知らず過ぎる。普通なら殺されても文句言えないこと口走ってるからね?」


「はぁ…、まぁ行くか。」


商人のおっさんは何かを諦め馬車を動かし始めた。



※作者による簡易解説

刀の女の人…純粋な努力により辿り着いた刀の境地。スキルは簡単な物しか習得していない。

もう一人の方…口にしたオノマトペと脳内のイメージが合致した場合実力差や耐性を無視し距離無制限でイメージを現実にする。不意のスキル発動を防ぐため基本単語しか口にしない。スキルはこれ一つでどうにかなって来たため殆ど習得していない。

商人のおっさん…魔族と人のハーフであるが魔族の血は薄いため破滅思考は持ってないし、強くも無い。ただ、この世界で商人をしているためギリBランク程度の実力はある。というか、最低Bランクの強さがなければ商人なんてやっていけない。

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