第29話 商人のおっさん

猫を被るのは非常に大変である。何で12の子どもが世渡りしないといけないのー!!面倒臭い!!12なんて親に養ってもらってなんぼの歳でしょ。なんで今世でもこんな事してるんだろ?

自身の悪評を取り除くために今は猫を被らなければならないのだがそれが頗るストレスなのだ。最低限のルールだけ守って好き勝手やって責任なんかは放り投げ、捕まれば不貞腐れる。あの日常に戻りたい…。

そんな事を思っていると膨よか体型のおっさん。つまりは、依頼主に話しかけられた。


「おぉ、あんたか。割と若いと言うか幼いな。」


「おっちゃん。私一応強いから大船に乗ったつもりでいいよ?てか、早く無い?集合時間まで後二時間はあるよ?」


「積み込み中だよ。出発時間に出れるように準備してるの。商人やってると荷物がどうしても多くなっちまうもんでね。」


「へー。大変そー。」


「暇なら手伝って欲しいんだが?」


「私の仕事は貴方と貴方の積荷を守る事。それ以外は管轄外。」


「ガキなのにしっかりしてるんだな。いや、その歳でこの業界に足を踏み入れそのランクに至っているのだから当たり前か。それにしてもSランクにしては話が通じるし、こんな低クエ受けるなんてどう言う風の吹き回しだ?」


「疑ってるの?ひどく無い?私は自分から死地に向かうような愚か者じゃ無いの。出来るだけリスクは取らず目立たずがモットーなの。正直初対面でS認定された時は困ったよ目立ちたく無いもん。」


「なるほど。 Sランクにしては別の意味で変わってるな。Sランクやそれ相当の存在は皆イカれた部分があるがお前は庶民的過ぎる。」


「何それ普通過ぎてイカれてるみたいな意味わからない評価されてる気がするんだけど。」


「そう言ってるんだが?」


「何それ意味わかんない。」


「まぁ、他のSランクに会えば分かるさ。お前の噂は凄い速度で広まって背鰭に尾鰭がつき放題。興味を持った奴が接触してくるのも時間の問題さ。」


「具体的に誰が?」


「一番可能性があるのは戦闘狂だな。名前すら名乗らず強者を殺し回る犯罪者。腕前はSランクに相当する。しかし、かの有名な異世界人殺しに目をつけられ始めたから会えるかは分からないがな。異世界人殺しは凶悪犯罪者の暗殺もやってるチート殺しの専門家、たかが戦闘狂が敵うわけもない。」


そう言って商人のおっさんはゲラゲラと笑う。


「わー、やっぱ会ってる奴皆んな上澄みじゃん。運悪過ぎて笑える。」


「ん?会った事あるのか?」


「ただのおっさんだったよ。私とは殺し合いたく無いし関わりたく無いって言ってた。」


「はぁ!?あの異世界人殺しが諦めるとかお前どう言う事だよ!!?」


「知らないよ。本人に聞いてよ。」


「そ、それもそうだな。」


「そんな事より目的地まで何日かける予定なの?」


「大体一ヶ月だな。あ、安心しろ。護衛はお前一人だけじゃ無い。一ヶ月不眠不休で働けとは言わねぇーよ。言っとくがお前がガキじゃ無くてもこう言うのは複数人で担当するもんだ。お前の実力を疑ってるわけじゃない。ギルドの評価は的確だしな。」


「まぁ、時間まで気ままに時間潰すよ。」


そう言ってその場から少し離れようとすると商人のおっさんに呼び止められた。


「…なぁ本当に手伝ってくれないのか?」


「しつこいな。手伝って欲しいなら労働に見合う金を出しな。商人ならタダより高い商品は無いって事ぐらい分かるだろ?」


「…っ!!怖っ!!威嚇でこれかよ。最高だぜお前。」


「もしかしてマゾ?」


「誰が変態だごら!!手間賃ぐらい出してやるから暇なら手伝え!!」


「了解。」


グレースは大量の荷物を軽々と持ち上げ、どんどん積み込んでいく。


「て、てきと…。いや、何で的確に出来てるんだ?」


「力仕事のバイト代は高いからね。慣れっこ。」


「…お前うちで働かないか?」


「嫌ですー。」


「えー、うち結構給料いいよ?冒険者するよりは安全だよ?」


「嫌ー。」


「はぁー、そうかい。まぁ、一ヶ月の旅路だけど宜しくな。ルート的には戦争に巻き込まれない筈だから安心していい。異世界人達と違い魔族は弱者を嬲るなんて事はしない、ただ強者を殺し殺されるそれだけを望む破滅思考の種族だからな。本来なら一週間と少しで着く場所に一ヶ月もかけないといけないとかやってられねぇーわ。」


「迂回するって事?」


「そうだよ。進行ルートを突っ切る奴が何処にいる。…まぁ、魔族側の言い分もわからなくは無い。百数十年もの間禁欲を敗者が勝者に強いるだけでなく、敗者の不意打ちによって人望の厚い大幹部を斃されたんだ。犯人が人族側に居なかったとしてもハッスルしたい魔族側から見るとどうでも良過ぎる。まー、人間側の勢力が弱過ぎて半年も続けられないだろうがな。」


「早いね。」


「魔族基本的に弱者には興味もないし配慮もしない。だから、強者を一掃し終えるとまだ続けるか問い続ける意志が見受けられなければ魔族は引き上げ勝利宣言を行う。続行の意志を見せれば弱者も殺すがな。魔族は殺し合いには非常に紳士的なんだよ。異世界人達がどう教育されてるのか知らないが一般魔族に手を出すのは宣戦布告も良いところなんだよな。お前らの独断で宣戦布告してるんじゃねぇって毎回思うね。当然毎度毎度勝手な事してれば異世界人殺しが動くがな。」


「ふーん。おっちゃん何歳なの?異世界人ってそんな頻繁に来ないでしょ?」


「知らん。少なくとも普通の人よりは長く生きてるな。人族と魔族の亞人だからな。あと、異世界人は割と高頻度で来るぞ?」


「ふーん、人にしか見えないけど。」


「俺だって血液検査するまで知らなかったよ!!少なくとも親は両方とも人間だった。俺の家系のどこで魔族の血が混ざったのか永遠の謎さ。」


「ふーん。」


商人のおっさんと話しながら積み込み作業を終えると、商人のおっさんが雇ったであろう残りの人達が到着した。

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