第24話 決着

「良い良い良い良い良い!!!俺の攻撃を捌き払い確実な一手を打ち込む。リスクを取るべき場所で取り不要な所は避ける。基本ができている!!久しい、久しいぞ!!」


魔王はテンションを上げながらひたすら攻め攻撃を続ける。禍々しい剣を美しい剣技で使いこなし、グレースの氷を砕きグレースの肉を削ろうとする。それをグレースは氷を使い滑らせ受け流し、攻撃の隙間を縫って反撃を叩き込む。

だが、経験も種族も何もかもが下位互換であるグレースは当然のように削られ続けている。


「あははははは。」


「欠点は会話が成立しない事だ。理性的なのに理性が飛んでる。意味が分からん。」


とめどなく生成される氷は破壊されるたびにより強固で鋭利な構造へと変質し魔王に襲いかかる。この無差別攻撃はグレースが操っているわけでは無いので魔王にとっては常に小石が投げられている程度の脅威しかない。そんなのよりも魔王を興奮させているのはこの小石の中に混ざっている小石に偽装した本命の攻撃。グレースが直接操り防御に攻撃に転用しているモノ。精度は永らく生きてきた魔王でも追いつけない程洗練されている。ステータスを開示させられるほど格下な少女が持ってていい精度では無い。だからこそ、魔王は自身が圧倒していながら高揚感に包まれていた。これ程の才覚、勇者なんてゴミより確実に自分自身の命を脅かす存在になれると確信したからである。


「あはは、見えてきた見えてきた。生き残るための最適解。モブの私には魔王は100%倒せない。それは確実。そうでなければ勇者とか言うシステムが世界に組み込まれている事自体に矛盾が出る。でも、殺すいや斃す、封印など以外は普通に効く。」


「胸部より下、顔面の一部、左腕が吹き飛んでるのに冷静だな。」


グレースは既に胸部より下を消し飛ばした攻撃を何度かくらい腕と頭の一部が消し飛んでいた。頭の傷は脳の一部までも消しとばしていたがグレースの怒りと執念はその程度意にも介さない。


「観察は終わり、こっからはずっと私のターン。」


「何言ってるんだか。殺し合いは楽しかったがお前もう今にも倒れそうじゃねぇーか。いくら魔女とは言えどスキルがなければ傷は塞がらないし無くなった部位は生えてこない。」


「だから何?」


明らかに死にかけの相手、しかもガキ。それなのに魔王すらも圧倒される威圧感がそこにはあった。


「私は生死に興味ない。全てを捧げるのはロマンのみ。お前はそれを邪魔した…だから死に値する。私が死のうが関係ない邪魔者は潰す。お前は確実に私と同じ思考を持った存在の邪魔をする。なら潰すしかない。野生動物とは違い理性があるのに他人のロマンを踏み躙る。私には理解できない行動。」


「自己犠牲か。」


「いいえ、単純に貴方が存在してはいけない生き物だから。」


次の瞬間、グレースの体の代わりになっていた氷が一気に砕け流星のように魔王に降り注ぐ。


「なるほど、漏れ出る魔力で強化され続けたモノは速度も威力も凍結範囲も段違いって訳か。触れない方が良さそうだ。…だがお前はこの程度で終わらんだろ?」


流星の如く飛んでくる氷の隙間を縫ってグレースに接近する。


「うむ、うむうむ!!良い、良いぞー!!擬似的に自分を増やし手数を増やすか。氷は扱わんから分からんが造形しやすいのか?」


グレースは自分を模した氷を複数体表から生成し手数を何倍にも増やす。完全に直感とセンスに任せたスキルの使用は本来想定されているよりも遥かに性能を飛躍させている。


パキパキ…。


「チッ、油断も隙も無いか。この氷の空間にお前の実力、魔王の忠臣程度では正面からでも相手にならんか。凍った部分は削ぎ落とし再生させねば…ガハッ!!ナ…に?」


「やっと効いてきた。お前頑丈すぎ。体表の凍結をデコイに何を進めてたと思う?片腕と顔の一部が吹き飛ぶ攻撃を受けながら無意味な攻撃を続けたと思う?効きもしないのにわざわざ手数増やして擦り傷でもお前につけ続けたのは何故だと思う?お前がお話好きで無反応でいると反応するより数秒時間を稼げるから基本無言でいたけど折角だからお前の詰み状態教えてあげる。」


グレースはニヤリと邪悪な笑みを浮かべると同時に動けない魔王の前に立ち見下しながら説明を始めた。


「お前は殺せないし封印も出来ない。それを大前提にお前を無力化する策を練った。凍結は効いた。私にダメージを与えるたびにお前には隙が出来た。油断や慢心では無く戦いの高揚からだろ。確実にお互い命を削っている様に見えたのだろ?自分はダメージを負っても破壊し再生する癖に何が生死をかけた戦いが好きだ。馬鹿も休み休み言え。まぁ、文句言っても生物が生にしがみつくのは当然だし仕方ないけど。で、お前の現状は私が血肉を犠牲に突き刺し続け異変に気づきにくい腎臓辺りからゆっくり内部を凍結させてたの。当然この大気も吸い込めば肺が凍るけど、あえて肺は凍らせず血中に取り込ませて全身に巡るのを待った。で、お前は罠に気づかず戦いを楽しみ動き続け血流で全身に回るのを早めていた。で、今さっきで脳も臓器も骨も筋肉も一気に凍りつけられるだけの蓄積が全身終わった。封印も殺しも出来ないのなら一生凍りついていろ。」


「なる…ほど。」


「ん?スキル戻った…の?」


グレースの内臓がポコポコ治り、骨が生成され最適化された筋肉が生え、皮が湧く。


「流石は魔女。スキル封じねぇと再生速度が俺の比じゃねぇ。今回は俺の負けだ。完敗だ。お前の知略を舐めていた。まんまと策にハマったよ。勝者に敬意を表し一つ教えてやる。スキル封印なんて無茶な真似すると俺のスキルもほとんどが使えなくなる。一種の縛りプレイだ。相手のスキルが面倒な時に使ってるから縛りになるかは微妙だが…。まぁ、解除しちまえば全身の細胞を作り置き換える事ぐらい出来るしお前の会心の攻撃は無に帰すんだが。」


「はぁ、やっぱモブが魔王を退けるなんて無理ゲーもいい所。それにあの状態から元に戻るなんて我ながら気色悪い。普通の人間なんだから死んどけよそこは…。敵意消えたなら逃げるが正解。でも、ここはリスクを取る。お前に警告しておくが私は殺されかけても恨みはしないし殺されても文句は言わないけど、邪魔だけは許さない。あと、お前下着弁償しろ。服は肉体の修復に合わせて何故か生えてきたけど下着は消し飛んだまま、私は露出狂じゃ無いし。スースーして気持ち悪い。」


「仮にも魔王に勝って要求するモノが下着かよ!?」


「だったら美味しい物もついでに奢れ。」


「庶民的だな…。てか、マジで俺の部下殺しか封印したのお前じゃねぇのか?」


「そもそも私と貴方が殺し合えていたのは貴方が人型で手が届く範囲に致命に至れる箇所があったから。デカい相手に勝つのは無理。一方的に蹂躙されるだけ。」


「確かにお前の手札では部下殺すまでに時間かかるしな…。あの巨大を亜空間に送り込もうとしても開くのに時間かかるし、消費魔力的にお前の総量数万倍はいるし色々現実的に考えて無理だよなぁ。…お前隠してるスキルあるだろ?」


「魔王が強制的に開示してたのに表示されないスキルなんてあるの?」


「…分からん。少なくとも前例は無い。勇者であっても普通に出来たし。」


「じゃあ、モブの私が隠せる訳ないじゃん。」


「お前自覚ないのかもしれねぇがこの世界だと魔女はモブじゃねぇーぞ?」


「そうなの?」


この後、魔王に魔女とは如何なるモノかの説明を受けたがそれが何故モブでは無いのかは理解できなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る